競技の垣根越えて情報共有 仙台大各部の躍進支えるスポーツアナリストたち
データの収集・分析をしてチームや選手を支えるスポーツアナリストの存在が、大学スポーツ界で重宝され始めている。宮城県柴田町の体育大学・仙台大は、アナリストの育成を促進している大学の一つ。2015年に勉強会や座談会を通して情報戦略などを学ぶ「スポーツ情報サポート研究会」(以下・研究会)が発足し、この研究会に所属する多くの学生がアナリストとしての活動に取り組んできた。
現在は6部活の約20人が在籍。各部活間で情報共有をする機会もあり、競技の垣根を越えた交流が行われている。近年は硬式野球部やサッカー部をはじめ、全国でも結果を残す部が増えているが、それはアナリストなくしてはなしえない。体育大学ならではの環境でスキルを磨くアナリストたちに話を聞いた。
データのスペシャリスト集う男子バレーボール部
仙台大の中でも特に早い段階から情報戦略を取り入れているのが、男子バレーボール部だ。石丸出穂監督が日本代表チームでアナリストを務めた経験を持つ「データバレー」の先駆者であることもあり、アナリスト志望の学生が次々と入部している。Vリーグでアナリストとして活躍するOBも多数輩出してきた。
現在は3人のアナリストがチームを支えている。そのうちの一人である新3年の荒井理志さんはやはり、石丸監督のもとで成長すべく仙台大に進学した。高校までバレーボールのプレーヤーだったとはいえ、競技の知識が浅く、パソコン操作に慣れていなかった入部当初は業務をこなすのに苦労した。それでも、先輩たちから教わったノウハウを吸収しながら徐々にポジションを確立し、今やチームに欠かせない存在となっている。
試合中は自チーム、対戦チームそれぞれの「誰が触って何をしたか」のすべてを記録し、それをもとに分析をする。自チームであれば個人成績を割り出して選手に共有し、対戦チームであればスパイクのコースやレシーブ、ブロックの弱点、セッターの意図などを詳細に読み取る。またゲーム形式の練習をする際も、全員の動きが分かるよう動画を撮影してデータを抽出している。
「ミーティングでデータを共有したあとの試合で勝つと少しは力になれたと思えるし、成果が出るとやりがいを感じられる」と荒井さん。直近では、インターンシップでVリーグの東レアローズに同行しアナリスト経験を積んだ。チームに還元し、さらなる競技力向上に貢献するつもりだ。
「僕らも勝ちたいからデータを作る」
硬式野球部もアナリストの活動が活発化してきている。リーグ戦の試合中はバックネット裏から動画を撮影し、各大学の投手、野手の特徴をまとめた資料を作成。全国大会を見据え、遠征して他リーグの試合を視察したり、ライブ配信を見て分析したりすることもある。
また練習中の取り組みとしては、研究会の座談会で男子バレーボール部のアナリストから聞いた方法を参考に、昨年の春季リーグ開幕前から動画の撮影と共有を行うようになった。男子バレーボール部がゲーム形式の練習を撮影して全員の動きを分析するのと同様に、選手の打撃フォームや投球フォームを撮影。1球ずつ数値を記録した上で、選手がすぐに確認できるようその日のうちにデータを取りまとめて共有する。
硬式野球部は部員数が多いため業務量が膨大で、日付が変わるまで作業を続けることもある。五十畑洸弥さん(新3年)は「大変に感じることはある」としながらも「選手が勝ちたいから練習するように、僕らも勝ちたいからデータを作る。そうやって頑張った分、選手はそれに応えてくれる」と思いを口にする。齋藤倖太さん(新3年)も「実際にデータを使ってくれている選手がいるのは事実。選手が(データを)見てくれていることを信じて、ひたすら作業している」と力を込めた。
「(昨年のWBCでは)大谷翔平が最後に三振を奪って世界一になったシーンのイメージが強いと思うけど、世界一になるためにはデータも必要。裏でデータを集めた人がいるから、最後にあの球を投げたのかもしれない」(五十畑さん)、「試合に勝ったり、選手の力をつけたりすることを目指す上で、間違いなくデータは生きている。野球を構築する一つのピースとしてデータを扱う仕事があることはもっと認知されてほしい」(齋藤さん)。アナリストの存在価値を高めるべく、目の前の仕事と向き合い続ける。
バドミントン部初のアナリスト「見せびらかさない」
バドミントン部は男子バレーボール部や硬式野球部とは事情が異なる。そもそもバドミントン界では、アナリストは日本代表チームに数人いる程度。データを使う文化が浸透していないのが現状だ。そんな中、仙台大大学院生の須田翔大さんは大学1年の頃、初のアナリストとして入部した。
「信頼関係のない人から何を言われても響かない。まずは部員に認めてもらうところから始めた」(須田さん)。入部当初は選手よりも早く練習に出て準備を手伝うなど、本業以外の面に重きを置いた。本格的にアナリストの仕事が機能し始めたのは、大学3年になった頃だという。
バドミントンはラリーが速いため、バレーボールのように試合中にリアルタイムでデータを入力するのが難しい。試合後に撮影した動画を見ながら、試合時間の倍以上の時間をかけて入力する。大量のデータが集まるが、須田さんは「データを見せびらかさないよう」意識している。「どうしても分析をした分、全部見せたくなることはあるけど、必要なデータを選んで見せている。数字慣れしていない選手には、数字を使わずに分かりやすく伝えることもある」。選手からの信頼を得るため、研究会で他の部から得た情報も参考にしながら試行錯誤を繰り返してきた。
須田さんは現在、選手兼アナリストの後輩への引き継ぎを行う傍ら、外部での活動にも精を出し、今後もアナリストを続ける道を模索している。同時に、人数が増えれば男子バレーボール部や硬式野球部のように役割分担ができることから、アナリストの認知度が高まるよう願っている。
選手もアナリストも育てる体育大学の役目
対戦相手の分析だけでなく、自チームの選手の分析をも行うのがもはや当たり前になってきた現代。様々なソフトやアプリが開発され、便利になった一方、アナリストの業務は膨大になっている。だからこそ、横のつながりができ、手を取り合って成長できる環境が、アナリストを育てる。
研究会の運営を任されている仙台大の吉村広樹新助手は「研究会では、実践経験を積みながらアナリストとして必要な知識やスキルを身につけることができる」と話す。その上で、「アナリストの活躍はなかなか表に出る機会がない。各クラブによるデータ分析の競技会の開催などを考えている」とさらなる発展に意欲を見せている。地方からスポーツ界を変える仙台大の取り組みに今後も注目だ。
(取材・文 川浪康太郎/写真 仙台大学スポーツ情報サポート研究会提供)