アルバルク東京は歴史を繋ぎながら、「TOYOTA ARENA TOKYO」からバスケの楽しさを発信する

バスケットボール(以下バスケ)のB.LEAGUE・アルバルク東京(以下A東京)は、2025年開場予定「TOYOTA ARENA TOKYO」への移転準備を進めている。日本屈指のアリーナ使用へ向けての思いを、同クラブ運営企画室・手塚明子氏と同マーケティング室・末次奈美子氏に伺った。

会場に足を運んでくれた全ての人々に最高のバスケ環境の提供を目指す。

TOYOTA ARENA TOKYOは「可能性にかけていこう」をコンセプトに掲げた、東京都江東区、お台場エリアの青海にできる収容人数約1万人の多目的アリーナ。スポーツ、モビリティ、サステナビリティ等を中心にさまざまな可能性が集積、解き放たれる場所となることを目指している。

「TOYOTA ARENA TOKYOができたからクラブが急に跳ねる(=大人気となる)わけではありません。歴史を大事にしつつ新しいことに挑戦し努力することが重要です」(手塚氏)

「既存のファンとTOYOTA ARENA TOKYOができて足を運ぶファンが混ざり合って楽しめる、東京らしい多様性ある場所を目指します」(末次氏)

最新アリーナができることに対して浮ついたところは感じられない。入念なビジョンに則った準備はもちろん、A東京が作り上げてきた今までの歴史を大事するという。

代々木第一を使用することでA-ARENA移転への下地を作り上げている。

~自前の箱がないため約1年前から使用予約を入れておく

A東京は東京都全域を活動エリアとしバスケの楽しさを広めることを目指す。TOYOTA ARENA TOKYOの完成を控え、現在は国立代々木競技場を中心に都内の複数施設を使用している。

「今は前もって使用可能な会場を予約しておきB.LEAGUEが発表した対戦カードを当てはめていく形です。B.LEAGUEは最終順位が出ないと次年の所属地区も決定しません。他競技やイベントとの絡みもあるので約1年前から動いています」(手塚氏)

B.LEAGUE開幕以降、駒沢オリンピック公園総合運動場体育館(世田谷区)を使うこともあった。2017-18シーズン~2021-22シーズンまではアリーナ立川立飛(以下立川)を主としながら、昨シーズンからは、代々木第一体育館(以下代々木第一)や代々木第二体育館(以下代々木第二)をメインに使用してきた。

現在は約1年前から箱の予約を入れておき、そこへ試合日程を割り振っている。

~立川でのSR渋谷戦がドラマチックになった理由

2022-23年からは代々木第一を中心としながら代々木第二や立川でも試合が開催されている。その中で昨年11月3-4日のSR渋谷戦が立川で開催されたのが一部では話題となった。

「東京・渋谷区をホームタウンとしているチーム同士です。キャパの大きい代々木第一でやりたい気持ちはありましたが立川開催となりました。チケットも即完売だったので、観られなかった方々には申し訳ない気持ちでいっぱいでした」(手塚氏)

SNS上などでは「(SR渋谷戦は)立川開催?残念」という声もあった。しかしA東京の歴史を踏まえると決してネガティブなことばかりではなかった。

「SR渋谷には昨年までA東京にいた田中大貴選手、(2017-18、19-20年)リーグ連覇時のヘッドコーチであるルカ・パヴィチェヴィッチHCや、当時所属していた小島元基選手がいます。彼らにとって当時のホーム凱旋という意味合いとなりました」(末次氏)

「A東京の黄金期は立川と共にありました。約3,000人の会場は確かに小さいですが、熱狂度は変わらず素晴らしい雰囲気になりました。偶然にもSR渋谷戦が立川開催となったのにも縁を感じました」(手塚氏)

選手、関係者そしてファンにとってかけがえのない一戦を作り上げたのは、A東京が積み重ねてきた歴史によるものと言える。

A東京の歴史はアリーナ立川立飛と共にあり、今後も大事にし続けていく。

~立川のアリーナと代々木の体育館

現在は代々木第一、第二、立川を使用して最高のバスケ観戦環境の提供を目指す。「会場ごとに異なる特性や個性があり、使用時には工夫を凝らしている」と手塚氏は運営の立場から各会場を説明してくれた。

「アリーナ立川立飛はコンパクトでエンタメ施設として素晴らしい。さまざまな演出に対応できる使いやすい会場になっています。センターハングビジョンがあるだけで場内の雰囲気も異なります」

2017年10月開場の立川は約3,000人収容のコンパクトな会場で、A東京は代々木第二の改修等が重なった2017-18シーズンから使用している。

「代々木第二はバスケ観戦には最高ですがエンタメ施設としては厳しい部分もあります。例えば、スピーカーが上方席より下に位置するので音響等が不十分になります。しかし、すり鉢状でファンの声援がコート上に降り注ぎ、すごい熱気が生まれます」

代々木第二は1964年の東京五輪開催に合わせ、同第一と共に建設された。収容人員約3,000人で観戦に特化した「バスケの聖地」とも呼ばれる。

「代々木第一は普段はまっさらなアリーナで、試合日に観客席やビジョンを持ち込んで環境を作り込みます。スポーツ施設ですが、コンサートや他のイベントで使うことも考えていたのではないでしょうか。主催者による変化に対応できる環境で使いやすいです」

代々木第一は約1万人収容で、バスケ以外にも水泳やスケートなど様々な競技やコンサートなどのイベントにも柔軟に活用できる箱だ。

代々木第二はバスケ観戦に関しては最高の箱だ。

~代々木第一はTOYOTA ARENA TOKYOへ向けた下地作りの場所

「2022-23シーズンから代々木第一をホームアリーナとして使用する」と発表した際は、約1万人の箱を常に埋めることができるのかに注目が集まった。

「B.LEAGUE会場を楽しむと言う部分で、代々木第一のような大きな会場はさまざまな活用ができるはず。多くの人にバスケ会場へ足を運ぶきっかけ、A東京とのタッチポイントが増えるように模索しています。そして継続的に足を運んでいただけるようになっていただきたいです」(手塚氏)

「エンタメ性を高めているのもその一環です。ゴール裏スペースでイベントをやったり、シュートチャレンジできる場所を作っています。イベントや演出、飲食などを含め、メインのバスケ観戦以外にもさまざまな楽しみがある感じです」(末次氏)

代々木第一の使用は、来るべきTOYOTA ARENA TOKYO開業へ向けての下地作りの部分も大きいという。

「『TOYOTA ARENA TOKYOという素晴らしい会場ができました』だけでは、一時のブームはあっても継続性は期待できません。今まで支えてくれた人、代々木でバスケに出会った人、TOYOTA ARENA TOKYOに興味を持って足を運ぶ人、海外からのインバウンド観光客…。全ての人々を大事にして素晴らしいバスケ観戦体験を提供できるようにしたいです」(手塚氏)

~チケット代金に納得できる価値を来場者全員に提供する

クラブ運営企画室・手塚明子氏(写真左)とマーケティング室・末次奈美子氏(同右)。

A東京社長・林邦彦氏が『終の棲家』とまで語るTOYOTA ARENA TOKYOへ本拠地が移ることで変化も生まれるはず。しかし今まで通り地道にバスケの素晴らしさを伝えると共に、今までの歴史も大事にしていく。

「今後はTOYOTA ARENA TOKYO開催がメインになります。しかし立川や代々木を忘れることは決してありません。まだ何も決まっていないですが、天皇杯やアンダー世代の試合等で使用する可能性はあります」(手塚氏)

「今は練習場が府中市でオフィスは文京区にありますが、江東区青海のお台場エリアに集約されます。クラブ機能の効率化が進み、よりよいコンテンツやサービスを提供しやすくなることをスタッフとしても楽しみにしています。」(末次氏)

かつて2009年に米国MLBのヤンキースタジアムが建て替えられた際には、客層が変化したことも話題になった。客単価が上がったことが大きな理由だが、そういった懸念についても答えてくれた。

「TOYOTA ARENA TOKYO移転で大きく観戦環境が変わりますのでチケット価格は上がると思いますが、納得していただける価値を提供することが重要だと考えています。また初めての方でも足を運びやすいように、上層席は価格を低めに設定します。それぞれの座席で最高の観戦体験を提供できるよう全力を尽くします」(手塚氏)

「Bプレミア参入の規定もありVIPルームが設置されます。もちろん富裕層もターゲットにしますが、今までの来場者の方々にとっても、観戦体験はより快適で楽しく、刺激的なものになると思っています」(末次氏)

全てのファンに最高のバスケ環境を提供できるようにしたい。

TOYOTA ARENA TOKYOに対する期待はもちろん、今まで使用してきた立川、代々木への思いを熱く語ってくれた。クラブとしての確固たるビジョンや姿勢を感じさせてくれた。

「リピーター、新規を問わず皆さんに楽しんで欲しいです。お客様が楽しくなければビジネスにもならないはず。そして常に安心安全な運営をしていきたいと思います」(手塚氏)

「バスケの試合観戦はもちろん、参加して楽しめる空間にしたい。TOYOTA ARENA TOKYOに足を運べば非日常の最高の体験をして、笑顔になれる場所を作っていきたいです」(末次氏)

B.LEAGUEを牽引する存在のA東京は、ファンの方向をしっかり見ながら未来へ進んでいる。右肩上がりのバスケ人気、まだまだ勢いは衰えそうにないと確信させてくれた。TOYOTA ARENA TOKYO開業までの2年余りが待ちきれない。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・アルバルク東京)

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