• HOME
  • コラム
  • 野球
  • 「”チャンスがあればどこでも入りますよ”という気持ち」兵庫ブレイバーズ 久保康友 独立リーグを盛り上げるアイデアと未来のNPB戦士への金言

「”チャンスがあればどこでも入りますよ”という気持ち」兵庫ブレイバーズ 久保康友 独立リーグを盛り上げるアイデアと未来のNPB戦士への金言

かつてロッテや阪神、DeNAで活躍し、通算97勝を挙げた久保康友投手。”松坂世代最後の大物”・”投げる哲学者”といったフレーズで、多くのファンに愛されている。

42歳を迎える今シーズン、自身初の国内独立リーグ所属となるさわかみ関西独立リーグの「兵庫ブレイバーズ」に入団。8月には北海道ベースボールリーグの「富良野ブルーリッジ」へレンタル移籍をするなど、大きな話題を呼んだ。

今回は、久保投手が兵庫に入団するに至った経緯や、海外含めさまざまなリーグを経験したからこそ分かる国内独立リーグの課題などについて話を伺った。

(取材協力 / 写真提供:兵庫ブレイバーズ、文:白石怜平、以降敬称略)

自らプレーできるチームを探し、ブレイバーズへ連絡

久保は17年オフにDeNAを退団し、2年間はアメリカ・メキシコと渡り海外リーグでプレーしていた。しかし、20年からは新型コロナウイルスの世界的感染拡大もあり、日本で過ごしていた。

ただ、再度海外でプレーすることを視野に入れていたため、自身の状況にマッチするかつ野球を続けられる環境を探し求めた結果、ブレイバーズへとたどり着いた。

「2年間コロナが流行していたので、海外には踏み出せずにいました。ブランクもある中でいきなり海外でプレーをするのも難しいと感じていたので、近くに野球ができる場所がないか自分で調べたところ、ブレイバーズさんを見つけたので、自分から声をかけさせていただきました」

自ら電話したという久保。その電話を受けた川崎大介代表も

「久保投手本人から直接電話をいただきまして、本当にびっくりしました(笑)。若い選手もたくさん刺激を受けることができるので、『ぜひお願いします!』と言いましたよ」

と驚きながらも大歓迎で入団が決まった。

ブレイバーズ入団会見の様子。当時から注目を集めた

自身の提案で北海道へ初の”レンタル移籍”

今年の夏、久保は再び大きな話題をスポーツ界にもたらした。8月4日、北海道ベースボールリーグの「富良野ブルーリッジ」にレンタル移籍することが発表された。

これは、両チームが交流試合を行ったことがきっかけだった。”日本のへそ”と言われる兵庫県西脇市と”北海道のへそ”と呼ばれる北海道富良野町は、「へそのまち」繋がりで友好都市親善協定を結んでいる。

ホームタウン同士の交流から両チームも親睦を深め、昨年11月には合同トライアウトを実施。8月には初の交流試合として富良野で試合を行っていた。久保もレンタル移籍の意図を語った。

「僕は今回関西の独立リーグに初めて参加したのですが、他の独立リーグがどんなことをやっているのかって気になるんですよ。向こうにいいことがあったり、関西ではやっていない面白い取り組みがあればそういう情報も持って帰りたいと思い、お願いをしました」

レンタル移籍の記者会見。両チームにとってメリットをもたらすものになった(写真中央)

久保はすぐに川崎代表に相談。両球団で話し合い、スムーズに実現することができた。

「すぐにできますよという話だったので。お互いにとって凄く良いことじゃないですか?北海道のリーグにも良い選手がいて、”こんな選手がいるよ”とか、”こんな練習方法がある”などと情報交換になりますから」

12日間、富良野の選手としてプレーするだけでなく、地元の中学生に向けた野球教室に参加するなど、地域の方々との交流も行った。ここでも当時を思い出しながら語ってくれた。

「本当は1ヶ月居たかったんです(笑)富良野の選手も興味津々で来てくれました。中にはNPBに行きたい選手もいたので、技術指導や悩んでいる点をアドバイスしました。あと、子どもたちも無邪気で可愛いですね。中学生なんですけれども、女の子もすごく楽しそうに野球やっていましたし、心が温まりました」

北海道でも大きな存在感を放った(写真は兵庫でのプレー時)

「直接会話することがファンを増やす近道」

好奇心とアイデアで独立リーグの話題を提供している久保。その行動の背景には、自身がブレイバーズに入団時から感じていたことが一つあった。

「独立リーグは地域の中でまだ認知度が広まりきれていないと感じています。実際にプレーしている選手や野球が好きな人でも”どうかな?”と感じる状況なので、野球に興味を持っていない地元の人たちは尚更ではないかと。こちらからいくら一方的に発信しても、アンテナを張っていない人には響きにくいと思うんです」

独立リーグの発展を常に考えながらプレーしている

この課題は、自身が実際に身を置いたからこそ実感したものである。久保は約半年間の兵庫での経験、そして今回の北海道でプレーした経験を通じ、独立リーグがさらに盛り上がるための考えを明かしてくれた。

「直接選手と触れ合ったりすると、やっぱり人と人なのでそこからお客さんが増えたりするんですよ。そういったところから人を呼ぶのが、独立リーグが盛り上がる一番の近道ではないかと考えています。

選手も地域のイベントに行くだけではなく、その周りにいる人たちと会話するっていうのがすごく大事なんです。会話することで、地域の皆さんもチームを身近に感じて、『野球やっているんですね、じゃあ一度観に行きますね』となっていくので」

実際に交流することが大きなきっかけになる

久保は実際にあった出来事として、練習中にグラウンドで地元の方達と交流したことがきっかけでファンが増えたエピソードを披露した。

「ある年配の方が話かけてくれたので、『今こういった経緯で兵庫で野球をやっているんですよ。よかったら観に来てください』とNPBでやっていた話も添えたんです。

すると『元プロなの?』と驚かれていたので、試合日を案内したらそこから毎試合来てくれるようになりました。すごくありがたいですよ。

選手一人一人が球場やイベントに来てくれた人たちと実際に話をすることがファンが増える近道なことがわかりました。やっぱり人間って会話することが大事なんだって尚更思いましたね。基本的なことなんですけどね(笑)」

「プロ注目選手と対戦できる刺激が少しでもあれば」グラウンドで感じた課題感

ここまで地域との関わりについて久保の考えについて触れてきた。では、グラウンドではどんなことを感じてきたのか。それは今の課題を打ち破りたいという想いがあった。

「特に関西独立リーグでの話なのですが、IPBL(日本独立リーグ野球機構)に所属していないのが理由で、近くの大学生や社会人と練習試合ができないんです。

僕の中でそれは一番の課題で、選手ってプロで注目されている大学や社会人選手と対戦できると良い刺激を受けたりするんですよ。その刺激の対象が初めから無いというのはかわいそうだなぁと…僕自身思いまして、その壁を取り除いてあげたい想いがあるんです」

※日本独立リーグ野球機構:四国アイランドリーグplus、九州アジアリーグ、北海道フロンティアリーグの4チームが加盟している

高いレベルでプレーしている選手を間近で見れることが何よりの刺激になる

多くの若い選手がNPB入りの夢を掴むために、大学や社会人以外の手段として門を叩く選手も多い。

「高校時代よりもレベルも高いですし、いい経験になります」と、実際にブレイバーズでプレーしている選手も語っているが、NPBに入るという目標になると技術以外の課題も出てくる。

「目の前にいい選手がいたりすると意識って常に高く保てるんですよ。ただ、ここでは試合の相手が同じリーグだけなんです。1年間を通して高い意識でキープできたらいいですが、現実的には”今年1年でNPBに行くぞ”と想いだけで過ごすのは厳しい。本来は目の前で良いプレーが常に見れる状態にしておかないといけないです」

だからこそ、久保をはじめとしたNPB出身の選手の存在は、大きなお手本となっている。

「この課題は選手として実際に居ないと分からないことです。プロのチームと定期的に練習試合をするとか、大学・社会人のプロ注目選手と対戦できる刺激が少しでもあれば、選手たちの意識も長く保てるはずです」

グラウンドでは久保が率先して行動で示している。川崎代表も練習に対する姿勢を見て、

「久保さんは40歳を超えても率先して走ってるんです。その姿を見て、自分から走るようになった選手が増えたのではないかと思います」

と話すなど、チームのみならず関西独立リーグ全体において大きな刺激となっている。「NPB経験者の僕とかいると喜んでもらえるので」とも自身も語る通り、自らの経験とその自覚がユニークな発想を生む要因になっている。

自ら率先して姿勢を若い選手に見せている

「他の選手を見に来ていても僕を見てください」という姿勢

グラウンド内外で独立リーグをさらに盛り上げるための工夫を率先して行っている久保。では、今NPBを目指し、独立リーグでプレーしている選手たちにとって何が必要なのか。同じ選手としてプレーする立場を踏まえ聞いてみた。

「少なくとも技術的にはNPBにいる選手の方が優れているということですよね?これを踏まえると、技術だけではなく後はやる気。『自分はどんなことをしてでもNPBに行きたい!』っていう選手がどれだけいるかです。

技術をどうカバーをするのかとなると、あとはガツガツする気持ち。つまり、『チャンスが少しでもあれば僕はどんなことをしてでも入りますよ』という気持ちだと思うんです」

何より”気持ち”が大事と説いた

NPBでプレーしている選手と同じ姿勢でいてもドラフトにはかからない。自身も13年いたからこそ、違いを肌で感じている。

「選手にもよく話してるんですよ。スカウトの方が来ていたら、『恥ずかしいとか、自分なんてとか思わずに自分をアピールしろ』と。

『僕プロに行きたいので、他の選手を見に来ているかもしれないけども僕を見てください!背番号は何番です!』って言う位じゃないと。技術が足りないのに何でカバーするんだって話なんです」

スカウトがどんなところを見ているのか、NPB出身である久保は熟知している。そういった点も選手に伝えているという。

「スカウトはそういう姿勢も見ています。技術は今は足りないけど、『この選手だったら、今のハングリーさをNPBの環境に持って行けばどんどん吸収してくんじゃないか』と可能性を見出すんです」

10月20日にドラフト会議を迎える。今シーズン主将を務めた柏木寿志(かずゆき)も、この日のためにアピールを重ねてきた。今後ブレイバーズをはじめ、独立リーグからNPBに入るために必要な金言であった。

10月20日のドラフト会議で指名が期待される柏木

久保はブレイバーズでの入団会見で「また海外に目を向けている」と語った通り、今後海外でプレーするタイミングを模索している。

今関西独立リーグでプレーする選手にとって、久保と過ごしてきた時間は貴重なものになり、チームにとっても今後手放せないバイブルとなる。

関連記事