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元ドラフト候補の39歳エースが見極める、未来のための「引き際」~所沢グリーンベースボールクラブ、4年ぶりの全国へ(後編)

 7月29、30日の全日本クラブ野球選手権関東予選で4年ぶりの本大会出場を目指す所沢グリーンベースボールクラブ(TGB)。このチームには、クラブを10年以上にわたって支えてきたレジェンド左腕がいる。39歳のエース・柄澤祥雄投手だ。東農大三高、東農大を経て社会人野球の強豪・JR東日本に入社。制球力の高さを武器に大学、社会人で実績を積み上げ、ドラフト候補としても名を馳せた。

 2011年からはTGBに所属し、以降チームの大黒柱であり続けている。発足当時からクラブを見守っているトレーナー兼マネージャーの吉田剛太さん(45)は、「(TGBは)柄澤中心の野球。困った時、勝負どころは全部柄澤で勝ち切ってきた」と話す。柄澤にあこがれ入団を決めた選手も少なくない。そんな柄澤は40歳を目前にして、「引き際」を見極めながら野球と向き合っている。

前編はこちら

平日仕事、土日野球が当たり前のクラブ野球

 JR東日本入社4年目の2010年、柄澤は目標だったNPB入りをあきらめ、勇退を決意した。当時は企業チームを勇退した後にクラブチームでプレーする選手は稀だったといい、柄澤自身も野球から離れ社業に専念しようと考えていたが、当時のTGB監督・古川修平さんから熱心に誘いを受け入団することとなった。

懸命に投げる柄澤

 「クラブチームの選手たちは月曜日から金曜日まで一生懸命働いて、土曜日の朝早くから一生懸命野球をする。最初はそこに違和感があった」。自身も平日はJR東日本の社員として社業に勤しみ、仕事の合間とクラブの活動日である土日に練習時間を確保する日々。入団当初は駅員をしていたこともあり、朝から翌朝まで勤務して昼や夕方にトレーニングの時間を設けていた。

 環境の変化への適応は容易ではない。またNPB入りの目標がなくなったことで、モチベーションが低下することも考えられる。しかし柄澤は、「試合に勝ちたいというモチベーションは変わらずあった。そして何より、『この人たち本当に野球が好きなんだろうな』というのが分かって、そこに自分も乗っかることができた」と振り返る。ひたむきに野球に取り組む中で、当初抱いていた違和感は徐々に薄まっていった。

最年長エースが思い描くクラブの未来

 「クラブチームの一番の魅力は、大学生、学校の先生、銀行マン…多種多様な人間がいること。外向き志向なので、見え方が変わったり、人生が豊かになったりする」。今ではクラブ野球の良さを十分に理解した上で、「純粋に野球を楽しんで、一球にかけている」。結果も残し続けており、柄澤の加入後TGBは全日本クラブ選手権の本大会に5度出場しているが、その間若手投手も次々と入団する中、エースの座を担うのは常に柄澤だった。今や、チームに欠かせない存在。ただ本人は、「今年いっぱい」での引退も視野に入れているという。

心から野球を楽しむTGBの選手たち

 周囲からは柄澤引退後のクラブの変化を不安視する声もある。柄澤も「もしかしたら変わってしまうかもしれない」と案じつつ、「そうならないために、今一生懸命投手を育てている」と力を込める。近年は仕事や家庭の都合で練習に参加できない日も増えてきており、「指導の時間をなかなか確保できず、選手を育てるのが難しい」と頭を悩ませながらも、練習日には若手と積極的にコミュニケーションを図り、練習メニューなどの相談にも親身になって対応している。

 さらに柄澤は、「私がいるからこその害は必ずあると思う」とも話す。長年、投手陣の間には「柄澤がいるから最後はどうにかなるだろう」「柄澤が抑えてくれるだろう」という雰囲気が声に出さずとも漂っていた。「私がいるからこそ若手に背負わせられていない側面もある。荒療治じゃないですけど、私がいないことで若手が責任感を持って、背負って投げられるようになるのではないか」。第一線を退くことで切り開かれる未来もあると信じている。

若手選手の覚悟が「強いチーム」をつくる

 10代の選手の入団も増えてきており、中堅選手は特に世代交代の波を実感している。副主将を務める穐本茂樹内野手(27)はその一人。昨年は主将の大役を任されるも結果を残せず、「キャリアのある選手が多く、勝つことが当たり前だった昔と比べて勝てなくなってきているのが現状。上の世代と下の世代のつなぎ役である自分が先輩たちの教えを伝え切れていない」と自身の言動を省みた。今年は役職が変わったものの、昨年以上に意見を発信することを心がけている。

 クラブの本拠地である埼玉県所沢市出身だが、高校野球を引退するまで、TGBが日本一に輝いた過去はおろかクラブの存在さえ知らなかった。在籍年数が長くなってきた今は、「もっと知ってもらって、地域に応援してもらえるようなチームにしたい」と考えるようになった。

地元出身選手の一人として活躍する穐本

 「ずっと強いチームでいられたらいいけど、それはなかなか難しいと思う。それでも、先輩たちが築き上げたものを崩さずに細かいところを追求して、『やっぱり強いな』と思ってもらえるチームを目指す」。次世代を担う覚悟は日に日に強まってきている。

 「(関東予選では)最大限のパフォーマンスをしてチームを全国大会に連れて行き、大舞台で若い選手に投げさせたいし、自信をつけさせたい」とは柄澤。体が動く限り、何歳になってもプレーできるクラブ野球だからこそ、歴史はより鮮明に紡がれていく。大エースの思いは、所沢の地で脈々と受け継がれていくはずだ。

(取材・文 川浪康太郎/写真提供 所沢グリーンベースボールクラブ)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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