中京大中京の控え捕手は、筑波大で正捕手となりベストナインを獲得
首都大学野球春季リーグ戦の開幕日。マスクを被っていたのは、これまで公式戦の出場が代打でわずか3試合の西川鷹晴捕手(3年・中京大中京)だった。
下級生のころからずっとレギュラーで攻守の中心人物、昨年は主将も務めた西浦謙太捕手(現・鷺宮製作所)が卒業したため、今年の正捕手が誰になるかは筑波大の注目すべきポイントのひとつだった。
9月7日に開幕する秋季リーグ戦を前に、春の西川の活躍を振り返る。
攻撃面でも予想外の活躍でベストナイン獲得
初めて西川を取材したのは、春季リーグ戦も後半戦に入った5月4日のことだった。その日、誕生日を迎えた西川は3打数2安打と活躍した。168cmと小柄だが、ひとたび打席に立つとポーンと外野の深いところまで打球を飛ばす。それがアウトになったとしても、この内容なら次はヒットになるだろうと期待させてくれる。リーグ戦序盤から、そんな印象的なバッティングをしていた。
翌週の5月11日の試合後にも、西川に話を訊いた。その日は、首都大学野球リーグ通算2300号となるメモリアルアーチを放ったからだ。激しい正捕手争いを制することができたのは、この打撃力もあってのことだと思っていたが、西川は予想外のことを口にした。「春のオープン戦では本当に打てなくて、打率も1割なかったんです。リーグ戦が始まるときは、もうバッティングはいいからとりあえず守備で、なんとかピッチャーをリードして、というところを考えていました」。
川村卓監督も、西川の本塁打について「まったく予想していなかったです。当たればああいう感じの打球もあるんですけど、基本的にはキャッチャーとして頑張ってくれと言っていたので」と、嬉しい誤算に笑いながら頭を掻いた。
西川は、新人戦で一学年上の一井日向汰投手(4年・武蔵野北)とバッテリーを組み、ノーヒットノーランを達成したこともあったが、リーグ戦でマスクを被った経験はまだなかった。守備面のどんな部分を評価されて正捕手となったのだろうか。
川村監督は「何人かのキャッチャーで本当に競争してやってきた中で、特にキャッチングが良かったですね。そんなに力があるピッチャー陣ではないので、まずしっかり捕ってくれるところがピッチャー陣に安心感を与えてくれると思います」と話し「試合を重ねるごとにしっかり周りを見られるようになっていますし、正捕手としてしっかりやってくれているなと思いますね」と、リーグ戦での西川の成長も感じていた。
西川自身も「序盤は緊張したりもしたんですけど、やっぱりやりがいのあるポジションを任せてもらっているので、ずっと(捕手として)勉強をしながら充実しているという感じがします」と、自信を持ってリーグ戦に臨んでいた。オープン戦で結果を出せなかった打撃でも、12試合の出場で本塁打1本を含む11安打、打率.314と活躍した西川は、なんと首都大学野球春季リーグ戦のベストナインに選ばれた。
野球と勉強どちらも高いレベルでできる筑波大に進学
そんな西川は中京大中京高校の出身で、センバツベスト4となった3年時には控え捕手としてメンバー入りしていた。同学年に畔柳亨丞投手(現・日本ハム)、一学年上には髙橋宏斗投手(現・中日)、中山礼都内野手(現・巨人)などがおり、アマチュアで野球を続けている元チームメイトも多くいる。今も活躍をチェックしている選手や、直接連絡を取り合っている選手もいるという。
その中で「同じキャッチャーとして一方的に憧れて追いかけている存在」と名前を挙げたのが、一学年上で早稲田大の主将・印出太一捕手だ。今夏は、大学日本代表の主将も務めあげた。
「守備もバッティングももちろん全部自分より上なんですけど、立ち振る舞いだとかリーダーシップの取り方、キャッチャーとしてグラウンドで主導権を握るところなどの冷静さとゲーム運びが、やっぱりすごいなと思います」
印出をはじめ、いろいろな大学で活躍している元チームメイトがいる中で、西川が筑波大に進学を決めたのにはこんな理由があった。
「もともと小さなころから、野球だけやっていてはダメという家庭でした。高校3年のときにベンチには入っていましたが、控えという立場で周りの同級生が(推薦で)行くようなところは難しかったので、しっかり一般受験でと考えたとき、筑波は国立で野球も勉強もしっかり両方高いレベルでやれるというところに魅力を感じました」
3年夏の愛知大会準決勝で敗退した次の日に「人生初めての模試を受けた」という西川は、それから猛勉強した。「もともと勉強はそれなりにしていましたが、引退してからは朝7時くらいに学校に行って勉強して、授業を受けて、そこからまた夜8時、9時くらいまでやる感じでした。土日は、図書館の開館の時間に行って閉館の時間まで10時間くらいやっていました」。
その甲斐あって筑波大に合格。「基本的には学生でメニューを決めて、学生のヘッドコーチが指揮をとって練習を進めていく感じです。SSD(scientific support department)というデータを取ってくれる部隊がいるので、そこから相手のピッチャーの情報などをもらって、それに対してどう対策していくかというのを考えて一週間練習してリーグ戦に臨みます。学生主体でしっかり運営していて、いい組織だと思います」と、今の環境に満足している。
この春、正捕手として学んだことを生かして
春季リーグ戦、筑波大は6チーム中4位という結果だった。春の経験、夏の積み上げを生かし、秋はもっと上を目指したいところだ。正捕手として1シーズン戦った西川は「やっぱりオープン戦と違ってリーグ戦は本当に9回2アウトでも最後のアウトを取るまで何があるかわからないし、一発も簡単に出るので、一球で勝敗、形勢が一気に変わるところがキャッチャーとしては怖いと感じました。それを意識して、より丁寧に丁寧にというのを心がけるようになりました」と、学んだことを振り返った。
「特段肩が強いわけでもないので、しっかり安定して捕って投げて止めて、というところも心がけています。今年はピッチャーをいっぱい継投していくと思うので、しっかりピッチャーの良さを引き出せるようになんとかやっていきたいです」
初のレギュラーで初のベストナインを受賞した西川が、秋はどんな姿を見せてくれるか。9月7日に首都大学野球秋季リーグが幕を開ける。
(取材・文・写真 山本祐香)