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プロテニス界の課題は「試合数=仕事量」の少なさ 元プロ・竹田直樹さんがUTRプロテニスツアー開催に込める思い

日本国内での試合数を増やし、テニスプレーヤーの実力を従来の「ランキング」ではなく「レーティング」で測ろうとする試みが日本で進んでいる。仕掛け人は元プロテニスプレーヤーの竹田直樹さん。年齢、性別、国籍、プロアマ問わず同一指標でレベルをレーティングする世界標準のシステム「UTR」を導入した大会を2022年に初開催し、今年で4年目を迎える。UTR導入の背景にあるテニス界の課題や今後の展望について話を聞いた。

ランキングに代わり実力を数値化する指標「UTR」とは?

UTRはUniversal Tennis Rating(ユニバーサル・テニス・レーティング)の略。米国のユニバーサルテニスLLCが開発したシステムで、テニスプレーヤーの過去の勝敗や試合内容などをもとに独自のアルゴリズムにより1~16.50のレーティングを算出する。米国などでは大学のコーチやスカウトが選手を評価する際の判断材料としてUTRを重要視している。

従来はATP(男子プロテニス協会)やWTA(女子テニス協会)が管理するランキングが選手を評価する指標になっていた。ランキングは大会での獲得ポイントに応じて決まるため、相対的な位置を示すにとどまる。一方、絶対的な数値をはじき出すレーティングは選手個人の実力をより正確に測ることができる。

選手には順位に応じて賞金が振り分けられる

UTRを導入した大会「UTRプロテニスツアー」は2021年から世界各国で開催されるようになり、日本大会は竹田さん主導のもと翌22年からスタートした。22年は4大会、23年は13大会、24年は20大会と年間の開催数が右肩上がりに増えており、今年は上半期だけで20大会が予定されている。

大会は月曜日から日曜日までの1週間行われる。正確な数値化に向けては試合数の確保が必要なため、ラウンドロビン方式(総当たり方式)を採用。そのため週4試合の対戦が保証されており、賞金総額2万ドルが順位に応じて選手に振り分けられる。参加者数は男女各20人。おおよそプロ選手、大学生選手、ジュニア選手、外国人選手が5人ずつの内訳になるという。

引退後に実感…課題は「試合数=仕事量」の少なさ

最もUTRプロテニスツアーの恩恵を受けるのはプロ選手。竹田さんは大会の開催意義について次のように話す。

「(ラウンドロビン方式のため)勝っても負けても次の日にまた試合があるので試合数を多くこなすことができるし、賞金額も十分にある。プロテニスプレーヤーにとってはテニスの試合が仕事だと思うんです。その仕事の機会を提供できてなおかつ結果に応じて稼げる仕組みに共感しました」

竹田さんは2年間プロテニスプレーヤーとしてプレーした

9歳の頃からテニスに打ち込み、アリゾナ大学を卒業後に2年間プロ選手としてプレーした竹田さんは、競技引退後にテニス界の課題について考えるようになった。最大の課題は「試合数=仕事量」の少なさ。従来の大会は基本的にトーナメント方式を採用しているため、十分な試合数をこなすことができていなかった。

例えば年間20大会に出場しているプロ選手も、毎回1、2回戦で敗退した場合は年間30試合ほどしかコートに立っていないことになる。また早期敗退した場合は賞金が数千円単位で、まったく出ないケースもある。試合以外にも練習などに充てる時間があるとはいえ、仕事量や収入の少なさを嘆く選手も多く、トーナメント方式の弊害を否めない現状があった。

批判の声にも負けず規模拡大「かたちになってきた」

「最初の頃は本当にしんどかったです」と竹田さん。開催を企画した当初は苦労続きだった。大会運営のノウハウがない上、メインのスタッフは竹田さんを含む2人と少ない中で会場を確保し、プロ選手にSNSでメッセージを送るなどして参加者集めに奔走した。また新方式を採り入れるとあって、一部のテニス関係者からは「何で負けてまで試合をしないといけないのか」といった批判的な意見も寄せられた。

それでも大会の知名度が上がるとともに参加者が増え、昨年は20人枠を上回るエントリーが集まることも少なくなかった。選手から「獲得した賞金を使って海外遠征に行けることになりました。UTRプロテニスツアーのおかげです」などと反響をもらう機会もあるといい、竹田さんは「いつの間にかかたちになってきた。少しでも選手の役に立てているのであれば嬉しい」と手応えを口にする。

地道な活動が実り、参加者が徐々に増えてきた

思わぬ効果もあった。プロの世界にはプロになる前のカテゴリーでトップレベルだった選手が多くいるため、プロ転向後にトーナメント方式の大会に臨むだけでは、元々持っている1大会で5、6試合戦う体力やサイクルを失ってしまうことが課題になっていた。ラウンドロビン方式の大会は、そういった選手が体力やサイクルを取り戻すきっかけにもなっている。

目標は「年間52大会」…今年は韓国大会も開催へ

徐々にテニス界に浸透してきたUTRプロテニスツアー。竹田さんは将来的に、日本で毎週開催、つまり年間52大会、男女計104大会開催する「野望」を抱いている。

さらに隣国にも目を向け、今年は初の試みとして韓国でも大会を開催する予定。正式決定ではないものの、年末には日本大会、韓国大会のそれぞれで活躍した選手による「日韓戦」も計画している。

選手のため、大会の規模拡大に情熱を注ぐ

竹田さんは日本のテニス界の未来に期待を寄せつつ、改めて大会の意義を語る。「今はプロになったら『世界で活躍したい』と言わないといけないみたいな風潮がありますが、全員がそう思っているかというとそんなことはない。日本で経済的な基盤を作って海外に進出するのもいいし、日本で試合に出続けて幸せに暮らすのもいい。試合数が増えれば増えるだけ、選手の選択肢も増えるんです」。自身もプロを経験したからこそ、“選手ファースト”の思いは消えない。

(取材・文 川浪康太郎/写真 竹田直樹さん提供)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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