「硬式野球に関われる可能性を高めたい」関メディベースボール学院が軟式部を作る理由
野球専門校・関メディベースボール学院(以下関メディ)が今年4月から軟式部を立ち上げる。
中等部は全国トップクラスの成績を残し続け、昨秋ドラフトではOB今朝丸裕喜(報徳学園高)が阪神から2位指名された。硬式野球(以下硬式)の強豪として知られる同学院が軟式に進出する理由を総監督・井戸伸年氏が語ってくれた。
~硬式と軟式はリンクして繋がっている
「軟式部を作るのは硬式をプレーするためのステップの場所にして欲しいから」と井戸氏は明言する。
兵庫県西宮市を拠点とする関メディには、クラブチーム形態の「野球選手科」から基礎を教える「小学部」までカテゴリー別に5コースがある。中でも中等部(=硬式)の活躍は目覚ましく、2023年4月のポニーリーグ転籍後も全国大会上位に常に名を連ねる強豪だ。
「硬式と軟式の間に上下はないと考えます。しかし、硬式の方が注目され多くの人に見てもらえる現実があります。硬式を続けることで将来のプラスやメリットになることも多い。連携できる軟式部があることで硬式に関われる可能性を高められるはずです」
「硬式の活動を続け結果も出してきたからこそ、軟式部の必要性を感じた」と続ける。
「軟式と硬式はリンクして繋がっていると思います。中学生で軟式をプレーしていても、高校での甲子園出場という夢は頭の隅に少しはあるはず。しかし、体力や技術面で自信がなかったり、学業との絡みで硬式でのプレーを諦める生徒が多く存在すると聞きます」
「硬式のみが野球とは思いません。しかし、甲子園の高校野球や六大学野球、プロ野球のように多くの歓声を浴びてプレーできるのは確か。自分自身の技術や精神面を高めることは最も大事ですが、多くの人に見られる中でプレーもさせてあげたいです」
軟式は日本独自の野球文化であり、世界的に見てもプレー人口は多くない。「1人でも多くの野球少年が硬式を経験でき、たくさんの人たちの前でプレーして欲しい」と願う。
~全くの素人が顧問を受け持つことは、誰にとっても不幸でしかない
全国的に教員数が不足しており、2022年にはスポーツ庁が「公立中学校の運動部活動の地域移行」を提言した。部活動を地域クラブや民間事業者に委ねる方向へ移動しつつある中での軟式部創設でもある。
「部活動の受け皿になることは念頭には置いていますが、全ては不可能です。部活動はあくまで学校のもの、地域等で全てをカバーできるとは思いません。関メディ軟式部は、あくまで他カテゴリーのコースと同様の存在だと考えています」
「習い事の1つという位置付けです。受講料は決して安いと言えませんが、それに値する効果を出します。コーチ陣は硬式コースと同様に元プロ野球選手や各分専門家が受け持ちます。技術、コンディショニング、ケア等に関しては最高の環境を用意します」
部活動に関しては、競技に関して知識のない教員が顧問を受け持つ問題が見受けられる。関メディでは、その部分に関しては確実にクリアすることを目指す。
「部活動の顧問が野球を知らない人がやっている場合、選手、顧問の両方にとって不幸だと思います」と付け加える。
~軟式、硬式のどちらでも技術的には変わらないものを習得できる
「各家庭で野球と勉強、その他の比率は異なります。硬式をやっている選手は『野球を中心に勉強を頑張る』という形が多いと思います。逆に軟式の選手は『勉強を中心に野球もやる』というイメージが多い感じではないでしょうか」
関メディの1つの大きなミッションとして「選手たちを甲子園常連校へ進学させる」がある。中等部と軟式部では目標と目的が異なって当然」と語る。その上で両方の行き来を自由にするという。
「選手たちの多くは『野球を長く続ける』という目標を持っているでしょうが、現在進行形の目的は個々で異なることもある。例えば、生活の中心軸が野球か、勉強か、の違い。野球は上手くなりたいけど勉強も考えないといけない家庭もあります。それぞれ選べるようにしようということです」
「軟式部に入っても気持ちの変化があり、『硬式をやりたい』となれば中等部へ転入できます。逆に中等部に入っていても「しばらくは勉強をしたい」ということで軟式部に転入する場合も出てくるはずです」
「同じ時間を使うなら誰も上手くなりたいはず。軟式、硬式のどっちを選んでも上達できるような組織を目指します」と付け加える。多様性が重視される時代において最も必要なことに思える。
~軟式部が終わったら中等部で硬式の大会に参加できる
選手が上達すると共に、野球を楽しむためには実戦が必要だ。今後、軟式球界で試合を組んだり、大会参加するのもイチからの試行錯誤となる。
「同年代の軟式クラブチームの大会に出ます。レベルも高いと聞いていて、中には球速140キロ近くを投げる投手もいるらしい。もちろん、大会参加するには勝利にこだわります。中等部同様に軟式部も日本一を目指します」
「大会以外にも軟式のさまざまなチームと試合を組んで技術向上を図りたい。軟式の大人のチームと試合を組むこともできます。例えば、ユーチューブ『とくさんtv』のチームや少し前ならたけし軍団のようなチームと試合する。注目度も高くなるので選手もやりがいを感じるはずです」
何より特徴的なのは、軟式最後の大会が終わったら希望者を中等部に入れて硬式の大会にも参加させるという。
「技術的には中等部と同じものを伝えますので、安全面等の注意は必要ですが対応してプレーできるはずです。その他にも、条件や環境が整えば中体連の大会への参加の道も模索したい。色々な困難にも直面するとおみますが、まずはやってみたいと思います」
~軟式と硬式は同じ野球であって違いは存在しない
昨年12月から募集を開始したが問い合わせが殺到、初年度に設定した1学年あたり20人という枠はあっという間に埋まりそうな勢いだ。
「20人というのは軟式野球の登録人数です。選手は試合に出たいし、最低でもベンチに入らないとつまらないはず。まずは1年間やってみて選手自身の様子、周辺環境をしっかり把握したい。その上で複数チームでできるようなら考えたいです」
最終目標は「多くの人に硬式でプレーしてもらうこと」だが、軟式野球でもできることは多いと考えている。
「軟式、硬式というのはボールの違いだけで野球には変わりありません。しっかりとした技術や身体の使い方、ケアを習得して硬式でのプレーを含めた選択肢を増やしてもらいたい。もちろん女子選手の加入も大歓迎です」
高校入学と同時に、軟式から硬式へ転向する選手は当たり前のように存在する。軟式からプロ野球の世界へ入った選手も少なくない。軟式をうまく活用することは「野球人気低迷」が叫ばれる球界において1つの選択肢であるのは間違いない。
「まずは一緒に野球をやりましょう」と井戸氏は満面の笑みで締めくくってくれた。関メディの取り組みが今後どうなっていくのか注目していきたい。
(取材/文・山岡則夫、取材/写真/協力・関メディベースボール学院)