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ソフトバンク・中村晃もプレーした朝霞中央公園野球場は、漫画「おおきく振りかぶって」にも描かれる野球名所

埼玉県「朝霞中央公園野球場」(以下朝霞球場)は地元野球人にとって欠かせない場所。

アマチュア各種大会の開催はもちろん、人気漫画「おおきく振りかぶって」の舞台としても描かれている。NPBにも同球場でのプレー経験がある選手もおり、ソフトバンク・中村晃もその1人だ。

最寄駅からも近く、緑に囲まれた絶好のロケーションの球場。

~都心から気軽に足を運べる球場

東京・池袋駅から東武東上線急行に乗車すると15分ほどで朝霞駅に到着。同駅から約10分ほど歩いた場所に朝霞中央公園は立地する。

なお埼玉県朝霞市は2005年に38歳の若さで生涯を閉じた歌手・本田美奈子さんの出身地。駅南口には慰霊碑も設置され、今でも多くのファンが訪れることでも知られている場所だ。

1982年に完成した朝霞球場は、両翼90m、中堅120m、収容人員6,000人(椅子席3,650人、立ち見2,350人)。硬式野球への対応可能ではあるが、関東近辺においては比較的小さな部類に入る球場だ。

決して大きな球場ではないが、見やすさと雰囲気の良さに定評がある。

~大きい球場という印象が忘れられない(ソフトバンク・中村晃)

「大きい球場という印象が残っています。プロになって様々な場所でやっていますが、そういった球場と変わらないくらいのイメージ。実際は比較にならないほど小さい球場ですが、大きくてしっかりとした球場という感じを持っています」

「僕にとって野球における原体験の場所かもしれません。内外野がフェンスで区切られた本物の野球場で、しっかりとしたスタンドもある。子供の頃から何度も足を運んでいて、『ここで野球をやりたい』という思いを強く持っていました」

中心選手として強豪ソフトバンクを牽引する中村は、朝霞市で生まれ育った。高校は東京の帝京高に進んだが、中学までは地元の学校へ通っていた。朝霞球場への記憶は当時のままで今も変わらず残っている。

「朝霞近郊の大きな大会では必ず使う球場。初めてプレーした時は本当に嬉しかったのを覚えています。あの辺の野球少年には憧れの球場です。今こうやって話していると、当時の記憶が呼び起こされ球場内外の風景がどんどん蘇ってきます」

過去にNPB二軍戦の開催実績はあるが、一軍公式戦は行われていない。しかし近辺小中学生の大会では頻繁に利用され、高校野球では毎年、公式戦も開催される。朝霞近郊の野球少年にとってはビッグマッチの舞台とも言えるだろう。

ソフトバンク・中村晃にとっては子供の頃から慣れ親しんだ球場。

~いつの日か本塁打を打ちたい球場

中村は小学生の頃から打撃に秀でており、遠くへ飛ばす能力には長けていた。地元にある立派な球場、朝霞球場でオーバーフェンスの本塁打を放つのが夢だった。

「90m近く飛ばして、小学校のグラウンドでは右翼後方の体育館に当てたこともある。飛ばすことには多少の自信があったので、朝霞球場でも本塁打を打ちたかったが叶わなかったです。それもあってなのか、今でも大きい球場という印象が残っているのかもしれないです」

「プロに入って本拠地のPayPayドームをはじめ、多くの球場で本塁打を打ちましたが、地元では打っていないことになりますね。そういう意味では、野球生活の中でやり残していることの1つかもしれません。公式戦が行われることはないと思うので、何らかの形で実現できないですかね(笑)」

大きな印象がある朝霞球場の外野芝生席へ打ち込むのが夢だった。

~記念すべき初公式戦の舞台

漫画「おおきく振りかぶって」は月刊アフタヌーン(講談社)で2003年11月号から連載中、2007年からはTBS系でテレビアニメが放送された。従来のスポーツ漫画とは一線を画した切り口と詳細にこだわったタッチが人気だ。

作者ひぐちアサ氏は埼玉県立浦和西高出身。在学中はもちろん、作品製作の過程においても何度となく足を運んだ朝霞球場への思いを語ってくれた。

「母校が公式戦を戦うことが多かったので、私にとってなじみ深い球場です。観客席もグラウンドと同じくらいの高さにあって、選手の距離が近くて臨場感がある。また外野スタンドの芝生がのんびりとした感じで好きです。だから西浦高の初公式戦の舞台に選びました」

「球場の周りを歩くと、外野スタンド後ろの柵からグラウンドが見渡せます。スタンドで観戦していてスコアボードを見ると、その奥に木陰でゆっくりと試合を眺めている方々がいる。市民に開かれている雰囲気があります」

グラウンドとスタンドの近さが独特の雰囲気を生み出す。

~何度も足を運んで描いた球場

本作は女性監督の元、新入生部員10人で発足した硬式野球部の物語。「野球選手らしくない」独特な性格のエース投手を中心に、チームは成長を続けていく。初の公式戦となった高校1年夏の甲子園大会予選、初戦の舞台が朝霞球場だった。

「連載を進めていく中で色々な球場へ取材に行きます。球場事務所に挨拶して写真を撮らせてもらったのは朝霞球場が最初。しどろもどろの説明でしたが、中に入れてもらえたのを覚えています。アニメのスタッフとは取材名目で球場を借りて、練習試合をしたのも良い思い出です」

登場する建物や球場等の描写は現実に基づいており、リアリティの高さが高評価を得る要因でもある。自身の記憶に加え、何度も足を運んでのロケハンを行い丁寧に描き続けている。

「最初の頃はまだアナログで原稿を作っていたので、背景もアシスタントが1コマずつ手描きしていました。大変でしたが、その甲斐があって良い絵が描けていると思います。アニメも、きっちり取材して作っていただきました」

試合が行われる球場内はもちろん、選手が試合前後に待機する外周まで詳細に描き込まれている。実際に足を運ぶと漫画の中に迷い込んだような錯覚に陥ってしまう。

漫画「おおきく振りかぶって」内でも重要な球場として描かれている。

~球場外へのファールボールに注意(ひぐちアサ氏)

朝霞中央公園は陸上競技場、体育館などを備えた、ちょっとしたスポーツコンプレックスになっている。また隣接するように図書館やプラネタリウムもあり、周辺住民にとって欠かせない憩いの場所だ。

「駅から歩いて行ける距離にありながら、周囲には大きな木がたくさん残されています。本当に環境の良い球場です。よくファールボールが球場外に飛んでくるのでご注意ください!」(ひぐちアサ氏)

「近くには学校や図書館、プラネタリウムなど様々なものが揃っているのも特徴。当時の仲間は草野球とかで今でも使っているそうです。久しぶりに足を運びたくなりました。今度、草野球に入れてもらいます」(ソフトバンク・中村晃)

いつまでも記憶に残り続ける大切な球場だ。

ひぐちアサ氏、中村晃の2人にとって記憶に残り続ける大切な場所。「多くの人に足を運んでもらいたい」と両者は付け加えてくれた。

プロ野球が日常的に行われる球場も華やかで素晴らしい。だがそれだけでなく、各自が大切に思える球場があれば野球をさらに楽しめるはず。朝霞球場は近隣の人々にとって「大きな宝物」だということを感じさせてくれた。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・福岡ソフトバンクホークス、講談社)

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