「ゴルゴ13のような集中力で」粘り強く戦う東海大、そのクリーンアップを担う小玉佳吾
首都大学野球リーグ戦で通算73回の優勝を誇る東海大。この秋も、全10試合のうち6試合を消化して3勝3分と首位に立っている。
今季の首都リーグ戦は「9回終了・延長なし、1試合ごとに勝ち1点、引き分け0.5点の勝ち点を与える」という運営方式だ。勝利を目指すのは当然だが、引き分けも意味を持つため「負けないこと」が重要になってくる。
ここまで、「負けない野球」を続けている東海大に迫る。
リーグ戦初本塁打は「負けない」一打となった
5試合を終えて3勝2分、首位で迎えた桜美林大戦。今季すでに1度戦い、引き分けている相手だ。桜美林大の先発はそのときと同じ、左腕・多間隼介投手(4年・北海)だった。
春の最優秀投手である多間は、速いテンポでどんどんと球を投げ込む投手だ。その上テイクバックが小さく、打者には突然球が来るように見えるため、140km/hに満たないストレートでも球速以上に速く感じるそうだ。さらに、手元で小さく曲がるスライダーは直前までストレートに見え、ついバットを振ってしまう。
東海大の先発・高杉勝太郎投手(4年・東海大札幌)は初回に2点を失うも、その後好投を続けていたが、打線はなかなか多間をとらえられずにいた。4回裏、先頭の鯨井祥敬内野手(4年・東海大市原望洋)が右前安打で出塁、またとないチャンスが訪れた。
バッターボックスに向かったのは、門馬大主将(4年・東海大相模)が「ここぞの集中力、長打力、打率、すべてにおいて信頼できるバッター」と全幅の信頼を寄せる、小玉佳吾内野手(4年・東海大菅生)だ。1ボール1ストライクからの3球目、「繋ぐ意識で逆方向である右を狙っていた」という小玉だったが、インコース低めのスライダーにバットを合わせると打球は左中間にぐんぐん伸びていき、同点となる値千金の2点本塁打となった。
高校通算20本塁打の小玉だが、意外にも大学野球のリーグ戦で本塁打を打ったのはこれが初めてだった。多間には春から変化球攻めをされていたため、秋はそれを狙っていこうと決めていた。「桜美林大のバッテリーは同じ球種を続ける傾向があって、前の球がスライダーだったので次もスライダーだと思って狙いました」。すべては小玉の思惑通りだった。
「監督から、もっとベース側に体重をかけて打った方が長打力が上がるぞと言われたので、それを重点的に意識しながらずっと練習してきました」と、打撃フォームの改造に取り組んできたことも、この本塁打を生んだ要因のひとつだった。井尻陽久監督は、春季リーグ戦でたった2本しかなかったチーム本塁打を増やす必要があると考え、夏は打球を遠くへ飛ばす練習に重きを置いた。ここまでの6試合で小玉の1本を含む4本塁打と、その成果があったことは明らかだ。
夏にはフォームの改造にも取り組んだ
小玉の本塁打で2-2の同点となったこの日の試合は、その後投手戦が繰り広げられ、高杉と多間は完投。どちらのチームも少ないチャンスをモノにできないまま9回が終わった。だが、東海大はまた「負けなかった」。
「負けないこと」を意識してオープン戦を戦ってきた
勝ち数だけ見れば、東海大、筑波大、日体大、武蔵大と4校が3勝で並んでいるが、引き分け3つでコツコツと勝ち点を伸ばした東海大が首位に立っていた。粘り強く戦えている理由を、この日本塁打を放った小玉に訊いた。
「オープン戦も延長はないので、引き分けでもいいから絶対に『負けない』ということを意識してやってきたのが、リーグ戦でも出ているのかなと思います。(昨秋)いろいろ問題(不祥事)があったので、そのイメージを払拭するためには春に結果を残して、自分たちはこれだけやれるんだということを見せたかったのですが、そこで3位という結果になってしまった。だから、秋は絶対に優勝しよう、神宮大会に出よう、そのためにはどうしたらいいか、とずっと4年生でミーティングを重ねてきました」
小玉自身、東海大菅生高時代は主将を務め、夏の甲子園で4強という輝かしい経歴を持っている。東海大でも2年秋には指名打者としてスタメンに名を連ね、リーグ戦4連覇に貢献した。3年秋には4番、4年生になってからも3番、4番とクリーンアップを任されている。そんな小玉をはじめ、東海大には高校時代から名の知られている選手がたくさんいるはずだが、「4連覇をしたときとは“個”の力が違う」と言う。
「僕が下級生のときは、ピッチャーだったら山﨑伊織さん(巨人)、小郷賢人さん(JFE東日本)、原田泰成さん(日立製作所)、バッターだったら平山快さん(JFE東日本)、杉崎成輝さん(JR東日本)など、いい選手がいて“個”で戦えたのですが、今は技術的に誰が出てもおかしくないチームです。レギュラーが固定できないという言い方だと悪く感じてしまいますが、誰が出てもできるぞ、“個”ではなくチーム全体で勝つぞ、という気持ちでやっています」
4番を務めることもある小玉佳吾
井尻監督も、春季リーグ戦の序盤は試合に出て観てもらうことが就職にも繋がるため4年生を中心に起用し、その後は学年関係なく調子の良い選手を使っていくと話していた。夏のオープン戦では下級生を多く起用して新しい戦力をチェックしており、秋は本当の意味で「誰が出てもおかしくない」シーズンとなっている。
そんな中で、2完投の高杉や、フォームをゼロから見直して最後のシーズンに挑み、自身初の完封を成し遂げた安里海投手(4年・東海大相模)のような4年生が、チームを引っ張る投球を見せているのも頼もしい。 小玉が言うように、春以上に「チーム全体で勝つぞ」という気持ちが強く感じられるここまでの戦いぶりだ。
ゴルゴ13のような集中力で
絶対とは言えないが、強いチームのベンチはにぎやかなことが多い。1プレー1プレー、元気な声が飛び交う。最近、記者室ではたびたび「今年の東海大は、少しおとなしいのではないか」という話が出ていた。この疑問に答えてくれたのも小玉だ。
東海大ベンチの様子
井尻監督が、よく口にする漫画があるという。「ゴルゴ13(サーティーン)」だ。「ゴルゴ13」というコードネームを使う凄腕のスナイパーが、暗殺の依頼を請け負い、様々な困難をものともせず完遂していく漫画である。
「監督は『ゴルゴ13はオリャーッと言いながら殺さないだろう? 静かに黙って一発で殺すだろう? それと一緒で球が来たときも静かにパッと振るだけや』とよく言っています。本当に集中しているときは大声なんか出ない、と。品のない言葉を出すくらいなら、静かに集中してやっておけという感じなので、おとなしく見えるのかもしれません」
なるほど、必要な言葉だけを発している結果、おとなしく感じるというわけだ。ゴルゴ13のごとく、一点集中で狙った球をスタンドに運んだ小玉は「みんな集中しています。無駄な邪念はありません」といたずらっぽく笑った。
「今は単独1位ですが、ここから先何があるのかわからないというのがリーグ戦だと思うので、1戦1戦引き締めてチーム全体で勝っていきたいと思います」
秋季リーグ戦も残り4試合。首位に立っているとはいえ、今後の結果次第では簡単に順位が入れ替わってしまう。ここからが正念場だ。ゴルゴ13のような集中力を持って、この先も「チーム全体」で戦う東海大にぜひ注目して欲しい。
東海大学野球部 | 首都大学野球リーグ | 神奈川県平塚市 (tokai-bbc.com)