筑波大学男子ラクロス部の「新入生勧誘作戦」  悲願の1部昇格へ

2028年のロサンゼルス五輪で正式採用が決まっているラクロスは、日本では「カレッジスポーツ」として大学での活動が盛んだ。男子は激しいボディコンタクトがあり、シュートのスピードは150キロ以上。「地上最速の格闘球技」と言われる競技である。

強豪ひしめく関東大学リーグ戦で、部創立以来の1部昇格を目指す筑波大学男子ラクロス部。太田克利主将(おおたかつとし 新4年生)と学年リーダーの岩﨑慈安(いわさきじあん 新3年生)、保坂郁哉(ほさかふみや 新2年生)に、ラクロスの魅力とラクロス部強化の計画について語ってもらった。

ラクロスの魅力は「球技のいいとこ取り」

「ラクロスは大学から始める人がほとんど。スタートラインが一緒で、努力次第で上を目指せる。それが魅力の一つです」と太田主将は言う。太田は高校で剣道をやっていたし、保坂はバレーボール出身だ。大学から始めた選手が世代別代表になった例もあり、可能性は大きい。

多様なバックボーンを持つ選手たちが集まり、力を合わせてプレーする。部員にはスポーツ歴がある選手もない選手もいて、他大学ともそれほど条件は変わらない。

また、岩﨑はラクロスの魅力を「いいとこ取り」と表現する。

「サッカーやアイスホッケー、アメリカンフットボールとか、いろんなスポーツの要素が詰め込まれていて、いろんなスポーツのいいとこ取りをしたような形で、しかもものすごく迫力がある。ほかのスポーツにはない魅力があると思います」

ラクロスは「地上最速の格闘球技」と呼ばれるエキサイティングなスポーツ

特に男子は激しい接触プレーのある競技だ。ヘルメットやショルダーパッドなどの防具を身に着け、様々な戦術を駆使して相手側に攻め込みゴールを奪う。「クロス」というネットのついたスティックを用いてボールをシュートするが、その最速は150キロを超えるほどになる。「地上最速の格闘球技」と呼ばれる所以だ。

学生自身が作る大学ラクロス界

新2年生の保坂がラクロス部に惹かれた理由は、「学生組織がすごくしっかりしていたから」だという。

「顧問やOBのように年が上の方々が中心ではなくて、学生が中心になっていろいろ考えて方針を決めてやっているところですね。ほかの大学もそういうところが多いと思います」

大学内だけでなく、日本ラクロス協会内に「日本学生ラクロス連盟」が組織され、学生が主体となって「大会事業」「新人事業」「広報事業」という各活動を行っているのは、大学ラクロスの大きな特徴だ。

情報発信やリーグ戦運営も学生連盟が積極的に行い、新人事業や強化の面では、大学からラクロスを始めた1年生に対して手厚いサポートがある。指導の場を提供するほか、1年生だけの大会を行い、SNSでの発信やwebマガジンの発行など、多様な活動を行っている。

筑波大学ラクロス部のこれまでとこれから

大学でラクロス部が作られたのは、1986年の慶應義塾大学が最初で、それほど古いことではない。やがて「カレッジスポーツ」として流行し、リーグ戦が行われるようになった。

地区公式戦は2024年で29回を数える。地区を勝ち抜いた大学による「全日本大学選手権」は2009年から。大学日本一と社会人日本一による「全日本選手権」も毎年行われている。

筑波大学ラクロス部は関東学生ラクロスリーグ戦で、現在2部に所属している。1部から3部までがそれぞれABに分かれており、6チームずつだ。1部と2部の成績によって入替戦が行われ、その時が昇格のチャンスになる。

部の理念として「No fun, No gain」を掲げ、楽しみながら強くなる道を模索する

「部の創設以来、1部に昇格したことがありません。2021年、2022年に昇格戦まではいったことがありましたが、そこで負けてしまいました。そのあとは足踏み状態です」(太田主将)

1部昇格は部の悲願であり、成し遂げるための具体的な方法を考える必要がある。

夏にあるリーグ戦が一番のメインイベント。それまでにチーム力を上げていかなければならない。

強豪校と比べて足りないものは

「筑波大学に足りないものの一番は、人数かなと思っています。選手層を厚くしないと勝ち目がない」太田主将はそう言う。また岩﨑は「戦術面や技術面の知識などの共有が、一部の大学間で高まっている中、筑波大学はそれができていなかったと思います」と振り返る。

「筑波大学は、良くも悪くもこれまで他大学との関わりが少なかったと思います。強豪大学は東京の大学がかなり多い。周辺の大学と試合を行ったり、知識の共有が進んでいる中で、筑波大学は、自分たちの知識だけで何とかやろうという部分がかなり多かった。そこも差になっていたと思います」

今年度から筑波大学でも、情報面の充実や他地域との交流などを増やしていこうという動きがある。それを進めているのが新2年生リーダーの保坂だ。

「まずはSNSの発信を倍以上に増やそうとしています。筑波大学の様子や練習日程をまずは外部に知らせる。それから、今は同学年に言っているんですが、他大学の練習に参加するなど、まず交流しにいこうと。それで知り合いを増やして、その人たちにSNSを見てもらったり、筑波大学の練習に参加してもらったりして、どんどん交流の輪を広げていこうとしています」

情報共有の場としてSNSを活用しているのは、大学生だけではない。日本代表や社会人の選手たちもSNSで発信しており、トップレベルの選手の練習やプレーの動画を見たり、時には直接意見を聞いて返事をもらったりすることも可能なのだという。日本代表選手や世界が近いのもラクロスの魅力の一つだ。

新入生勧誘へ「かくれんぼ&サバゲ―」大作戦

チームが強くなるために必要なこととして太田主将が挙げた「人数を多くすること」は、新年度の始まるこの時期、最も重要なミッションだ。筑波大学では部員が現在21名。そのうち選手は19名だ。

ラクロスは10人で行われるが、ベンチに入れるのは26名。いつでも何人でも交代ができ、疲労が出て来るポジションでは頻繁に交代するのが当たり前なだけに、人数の確保は非常に重要になる。

太田主将は2年生から試合に出ていたが「上手くないのに出なければならないプレッシャーがあったり、すごくたくさん練習しなければならなかったりして、大変でした」という。

人数が少ないと、部員全員が試合に出られることになる。部の中で比較して技術が上手いとか、フィジカルが強い選手を出すという余地もない。

「選手層を厚くしたい」思いは切実で、2025年の新入生勧誘には、今まで以上に力が入っていると太田は語る。

「ラクロスの面白さは、ほかのスポーツに絶対引けを取らない。でもやってみて分かる部分が大きい。まずは体験に来てもらうことが重要です」

ラクロスの面白さはやってみて分かる部分が多い。体験に来てもらうために知恵を絞る

SNS担当でもあり、発信活動を担う保坂は、新入生勧誘に新たな計画を立てた。国内屈指の広さを持つ筑波大学キャンパスを利用したイベントだ。

「まず、新入生にとってはすごく広い筑波大学を知ってもらうための『かくれんぼ』。さらにふだん使っているフィールドを舞台にした『サバイバルゲーム』を行うビッグイベントです」

サバイバルゲームは、敵味方に分かれてフィールドの中で互いを攻撃し合うというゲームだが、もちろんモデルガンではなくラクロスの道具を使う。実際にクロスを持ってボールを運ぶ体験をしながら、相手に当てる撃ち合いを楽しんでもらおうという試みだ。より多くの新入生の獲得に向けて、サバゲ―作戦に期待がかかる。

「エール」を受け、「エール」を送るチームに

「今までの筑波の形にとらわれず、外のいいものを取り込んで、どんどん筑波を変えていく姿勢でいます」と太田主将は言う。

「部員には『エール』を大事にしようと言っています。自分たちがエールを送ってもらえるチームになるのも大事。そして自分たちが活躍している姿を外部の人に見てもらって、『頑張ってるな。自分も頑張ろう』と思ってもらったり、子どもたちが見て『ラクロスかっこいいな』って思ってもらったり、OBOGに『筑波今年はなんかすごいぞ』って喜んでもらえたり。自分たちの活動が誰かにとってのエールになる。そんなチームが作れたらいいと思います」

部の公式サイトを開けば目に入ってくる「No fun, No gain」は数年前から部員全員で大事にしている理念だ。楽しくなければ得るものもない。苦しい過程さえも楽しもう、という筑波大学男子ラクロス部。楽しみながら、どれだけ仲間を増やし、強くなれるか。

2025年にどれだけのgainがあるか注目したい。

(取材・文/井上尚子 写真提供/筑波大学男子ラクロス部)

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