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赤平大さんの「差別化戦略」マイナースポーツの活性化・発達障害支援への理解~勝たなくていいから生き延びよう

 
テレビ東京(以下テレ東)でアナウンサーとして活躍された、赤平大さん。 

現在はフリーアナウンサーとして活躍しています。 

地方出身、テレ東にいたことから「圧倒的な力を持つ相手がいる場合にどうすれば生き残れるか」というテーマに強い関心を持ち、差別化集中戦略を研究・実践してきました。 

一方で発達障害支援にも強い関心を持ち、多くの時間と労力を割いて、発達障害に対する周囲の理解を深める取り組みを行っています。 

今回は、スポチュニティアンバサダーでもある赤平大さんに、マイナースポーツの活性化と、発達障害に関する取り組みについて、お話を伺いました。 

赤平 大(あかひら まさる) 

 岩手県盛岡市出身 
テレビ東京入社「王道ではない差別化戦略」を学ぶ 
テレ東退社後フリー 早稲田大学ビジネススクール進学 MBA取得 
差別化集中戦略のひとつラグジュアリーブランディングを専修 

2009年より希望郷いわて文化大使 
2021年 6月 株式会社voice and peace を設立 
2022年 1月 ギフテッド・発達障害を知ってもらうための動画メディア 「incluvox(インクルボックス)」配信開始予定 
座右の銘:小さな事の積み重ねが、いつの日か信じられない力になる 
特技:ボクシングマニアックトーク 

ボクシング、フィギュアスケート、ラグビー実況など担当 

アナウンサーとしてのスポーツとの関わり 

テレ東時代はボクシングの仕事が多く、選手の減量期間は避けて取材するなど気遣いをしながら、ご自身もマニアと称するくらい大好きなボクシングに関わってこられました。 

野球、サッカーのようなメジャースポーツと違い、ボクシングは日本チャンピオンになっても賞金だけでは暮らしていけない現実を目の当たりにした赤平さん。 

野球もサッカーもボクシングもオリンピック種目であり、アマチュアも、キッズから育てる環境もあるという構造は同じ。 

それなのに、なぜボクシングはマイナースポーツに甘んじているのか?赤平さんによると、これはマイナースポーツ全体に通じる課題だということです。 

マイナースポーツの課題とその対策~集客数を上げるために 

日本におけるボクシングの圧倒的な課題は、グローバルスポーツでオリンピック競技なのに、なかなか競技人口が増えず、マネタイズがうまくいっていないことだそうです。 

プロスポーツなのである程度運用面でうまく回るべきなのに、そうならない理由はたくさんある、とのこと。 

野球やサッカーと大きく違うのは、まず人気の裾野がなかなか広がらないこと。 

バンタム級 井上尚弥選手、ミドル級 村田諒太選手の試合は観客動員数が伸びても、他にうまく繋がらないという現状があります。 

集客数を増やすための対策を、メディアとファンの立場からお話しくださいました。 

「メディアにとって、選手たちはコンテンツ、その魅力をどうすれば高められるか、
というのがメディアの義務であることが一点。 
メディアは顧客拡大のツールになるので、にわかファンの取り込み、
あまり関心がない方にどうやって関心を持っていただけるのかということが一点。 
さらにもうひとつが、コアなお客さんに対してロイヤリティを高めることです。
この番組を見たおかげでもっと好きになった、とかマニアな人たちが満足できるようにどうすればマニア心をくすぐることができるか。 
にわかファンとコアなファンが求めるものは真反対なんですよ。
それをどう混ぜ込むかというのがずっと宿命なんです。」 

「ファン側の課題は、にわかファンを排除する論理が強いということ。 
 私自身がメディア人である前にボクシングオタク、ファンなので、にわかに対するアゲンストな気持ちは少なからずわかるけれども、それをやってしまうと、永久に新規顧客は獲得しにくい。 
すべてのスポーツにいえることなんですが、にわかをいかに取り込むか、許容するか、 
ファンたちが仲間が増えて嬉しいと思える環境を、どうやれば作れるのかというのが重要だなとずっと思っています。 
赤ちゃんが産まれたときの感じに似てるかな。みんなで助けよう、となるはずなんですよね。そういう感覚でファンを育てるという視点がすごく大事だと思ってます。」 

ファンのみなさんがにわかに対して優しくあればいい、という視点はずっと持っていたそうです。 

2019年ラグビーワールドカップのとき、「にわかでいいじゃないか」というTシャツが流行し、にわかラグビーファンが増え、集客数が伸びたのは記憶に新しいところです。 

このように「にわかファンを拒絶せず、マニアックなファンが温かく許容する土壌作りが大切」とのことでした。

元ボクシング世界王者 八重樫東選手と(2016年撮影) 

マイナースポーツの活性化~どうファンを増やしていくか 

ファンが増えるとマイナースポーツは活性化され、観客動員数が増えてマネタイズに繋がり、競技が発展していきます。 

赤平さんは、地上波で重視される「初心者でもわかる」実況をせず、「映像を見てわかることは言わず、映像にない情報を話す」ことで、初心者のファンが「もっと知りたい」「調べてみたい」を思わせる伝え方をされるそうです。 

コアなファンにはファンの共感値が高まるよう、マニアックでくすぐられるゾーンを突くことを意識している、といいます。 

「とある試合でマニアックなことを話したら、スタッフの反応がとても良かったんですよ。それ以来、スポーツの実況にあたって大切にしていますね。」 

テレビ業界では今まで、誰にでもわかるような実況が求められてきたけれども、有料動画配信サービスの台頭で、求められるものと視聴者が変わってきたそうです。 

赤平さんが大切にしているのはマニアックな解説。そうすることで、コアなファンが盛り上がると同時に、にわかファンや関心が薄い層を取り込むきっかけにもなるのです。結果として、ボクシング業界全体が活性化する、と考えています。 

我が子が安心して社会に出られる環境を自ら作るため、起業を決意 

お子さんが発達障害であることをきっかけに勉強を始めた赤平さん。 

学術論文を500本以上読み、資格を取り、自治体や何校もの学校にヒアリングして、発達障害支援には解決されていない課題がたくさんあることを知りました。 

2004年に発達障害者支援法ができたにもかかわらず、なかなか認識が広まらない現状。 

近年、省庁が新たな施策を始めたが、それでは我が子に間に合わない、だから先にやれることを始めよう、と起業を決めたそうです。 

ダイバーシティ&インクルージョン~共存・社会が彼らをどう理解するか 

今の発達障害支援は、発達障害者自身の療育、適応力と社会性を高めることがメイン。 

しかし、実は周辺理解がとても重要で「発達障害の人たちは困った人」ではなく「こういう人がいるよ」と社会全体で理解することが必要、とのこと。 

なぜなら、全人口の10%の割合でギフテッド(天才児)・発達障害・グレーゾーン(発達障害としての診断はないがそういう特性がある人)の人たちがいるからです。

100人中10人もいるのに、その特性を知らないがゆえに企業内でトラブルになり訴訟になる例もあるそうですが、特性や対応を知っておけば防げることです。 

学校でも同様で、先生が発達障害支援を理解していれば、クラスメイトも適切な配慮ができます。 

逆に、先生がしっかり理解できなければクラスメイトも特性や対応がわからず、発達障害の子には厳しいクラスになり、精神状態が不安定になるなど、二次障害のリスクが高くなってしまいます。 

発達障害の支援体制が整っているのは公立の小学校までが多く、中学校・高校になると支援がぐっと減ってしまいます。多くの発達障害児は、中学校に上がると通常学級でみんなと同じように過ごさなければなりません。そのため、先生やクラスメイトの理解がなければ、思春期がゆえにすさまじいいじめが起こるケースもあります。 

さらに赤平さんは、彼らが社会全体に与える好影響についてもお話しくださいました。 

「ヒューレットパッカードエンタープライズの実証実験によると、彼らの特殊な能力を活かすためにマネジメントして活用したら、同業他社比の業績が30%高まったというデータが出ています。 
横浜市立大学の影山教授による論文では、発達障害の人たちを採用した企業で本人ひとりあたりの労働生産性はマイナスになるが、周辺が彼らの支援方法を知っていれば、チーム全体の生産性は上がるという結果が出てるんですよ。 
つまり、彼らのことを周りが知った状態になれば、企業としてはめちゃくちゃプラス効果になるというデータが出てるんです」 

彼らを理解して支える一番の軸はもっとも身近な存在である家庭。ただそれだけではなく、学校や組織、ひいては地域、社会全体で理解すれば、インクルージョンが実現し、経済的にも良い結果に繋がるはず、とのことです。 

ギフテッド・発達障害理解のため、自ら動画メディアを制作 

そこで、ギフテッド・発達障害を知ってもらうために動画メディア「incluvox(インクルボックス)」を制作。2022年1月配信開始予定です。 
子どもだけではなく大人の発達障害にも対応しており、彼らに関わるすべての人が見て学ぶための動画メディアです。  

いつでもどこでも誰でも簡単に見られる動画で、その対象は、親、学校・保育園・幼稚園などの先生、企業の方。 
「社会全体に伝えたいので、発達障害に関する知識がなくても理解できるように作った」そうです。 

動画内容は、発達障害・グレーゾーンの人たちをうまく活かせなかったとき、彼らの困った行動に対してどうしたらいいかという解決方法、専門家の方と対談しての最新の知見、支援施設の紹介、最新のニュース(1週間2週間単位)など。 

専門家のインタビュー動画には、日本の教育界第一人者の工藤勇一校長先生、経営学の分野で日本トップランナーの入山章栄教授、元WBA世界スーパーフライ級王者でビジョントレーニング講師の飯田覚士さんが登場しています。 

 発達障害専門の動画メディア「incluvox」サービス画面(イメージ画像) 

誰もが平等に挑戦、共存できる社会へ 

赤平さんご自身、マイナースポーツ業界に関わっていて、関係者のみなさまが頑張っても頑張ってもラクにならない、練習環境が整わない、選手の生活部分などがうまくいかないと感じています。 

「差別化戦略を通して、理解されずに辛い思いをしている人たちが少しでも生きやすい社会にしたい、なかなか報われないジャンルを少しでも盛り上げて活性化させていきたい」ということでした。 

赤平さんの取り組みによって世の中にどんな影響があり、どう変わっていくのかがとても楽しみです。

(取材・文 ももあいり) 

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