アメフト・SEKISUIチャレンジャーズ「尼崎市で我々にしかできないことがある」

アメフトXリーグ・SEKISUIチャレンジャーズ(以下チャレンジャーズ)は、本拠地・兵庫県尼崎市に対し地域貢献活動を継続している。今季からはNPB・阪神タイガースが同地にファーム施設をオープンさせたが、球界屈指の人気球団とは共存を目指しつつも異なった道を歩むつもりだ。

毎年恒例のアメフト祭り『尼崎ボウル』が10回目を迎える中、クラブGM・川口陽生氏と看板選手WR・阿部拓朗が語ってくれた。

「華やかで楽しいアメフト」を尼崎市の多くの人々が身近に感じて楽しんでもらいたい。

~阪神とは尼崎市における役割と責任が違う

尼崎市にとって2025年はスポーツ分野で大きな転換期になりそうだ。市内の小田南公園内に阪神のファーム施設「ゼロカーボンベースボールパーク」が完成。連日、多くのファンが同市を訪れ、施設周辺は活気に満ち溢れている。

「素晴らしい施設で羨ましい(笑)。選手育成のためにこれだけ立派なものを造るのが凄い。阪神さんは日本中から注目され、世界中にもファンがいる超人気球団。でもチャレンジャーズとは立ち位置が違うので、マイナスになることは何もないと思います」(川口氏)

「阪神さんが好きで尼崎市に足を運んだ中の1組でも、チャレンジャーズに興味を持ってくれれば嬉しい。多くの人が応援してくれれば、選手のパフォーマンスが違ってきます。将来的にコラボできるくらいまで、うちもしっかり頑張らないといけない」(阿部)

2020年10月23日にチャレンジャーズは尼崎市と包括連携協定を締結、実質的な本拠地として活動が決まった。しかし、同5月21日に阪神球団と二軍本拠地移転の基本協定書を結んだことの方が世間的には大きな注目を集めた。

「尼崎市における役割と責任が違うので気にしませんでした。チャレンジャーズはこの地での存在価値がないと無くなってしまうようなクラブ。地元に対してできることをやり、『いて欲しい』と思われないといけません」(川口氏)

「普段から地元のイベントや小学校に顔を出したりします。当初はそういう活動に協力する選手も多くなかったですが、最近はどんどん増えている。尼崎市のことを選手も大事に感じ始めているからだと思います。尼崎ボウルを盛り上げるのもそういったことの1つです」(阿部)

「アメフトを通じて笑顔になって欲しい」との思いから、『尼崎ボウル』が開催されることとなった。コロナ明けからは演出等のエンタメ面にも力を入れるようにもなり、入場無料の同イベントは「初夏の風物詩」になりつつある。

チーム強化と共に演出、ファンサービスも大事にして、関わった人が笑顔になる空間構築を目指す。

~スポーツをやれることは当たり前ではない

『尼崎ボウル』は2014年に第1回が始まり、途中コロナ禍での中止もあったが2022年からスケールアップして戻ってきた。エンタメ面のグレードアップに尽力したのが、同大会実行委員長も務める川口氏。米国留学経験もあり、「アメフトは華やかで楽しくないと…」という発想からだった。

「米国さながらのエンタメ性豊富な試合演出をやり、それを尼崎市にいながら無料で楽しめる。日頃のストレス解消ができると同時に、チャレンジャーズとアメフトに興味を持って欲しいと思います」

尼崎市は生活保護受給率が全国的に上位に位置するなど、生活に苦しむ人々が少なくない。厳しい状況下でも、「まずはアメフトを通じて楽しい時間を過ごしてもらいたい」という思いがある。

「チャレンジャーズの存在意義には『地域貢献を通じての社会的価値を生み出すこと』があり、そのための重要なイベントです。『スポーツ(=アメフト)をやれることは、決して当たり前ではない』と思っています」

チャレンジャーズGM・川口陽生氏は米国留学の経験を活かしてクラブの改革を進める。

~ベイコム陸上競技場が生き返って欲しい

選手にも特別な思いがある。会場のベイコム陸上競技場は関西のアメフト選手にとって聖地のような場所。「(尼崎ボウルで)競技場が生き返れば良いですね」と阿部は嬉しそうに話してくれた。

「大阪出身なので昔から知っている場所。近年はアメフトの使用頻度が減っていたので寂しい思いもありました。『(チャレンジャーズが)本拠地にする可能性も…』ということなので、そのためにも尼崎ボウルを大事にしたいです」

チーム在籍6年目を迎える阿部は、仲の良い川口氏からチームや尼崎市の状況を聞いて考えることも多かった。

「尼崎ボウルは3度経験しましたが、年々、素晴らしいものになっている。最初は、『そんなイベントがあるんだ…』という感じでしたが、川口氏の話を聞くうちに協力したい気持ちが強くなった。地域貢献活動に関わることでフットボーラー、そして人間としても成長できると感じています」

エースWR・阿部拓朗は、ベイコム陸上競技場での「尼崎ボウル」を楽しみにしている。

~尼崎市選挙管理委員会とのタッグ結成

「まずは雰囲気を味わって欲しい」(川口氏)と、会場にいるだけで楽しめる場所作りを目指す。

フィールド脇に大型ビジョンを設置してリプレー映像を流す。選手入場時には炎や煙といった特殊効果演出を用いた。地元高校の吹奏楽部が演奏を行い、芸人やレゲエ・アーティストも登場。「何でもあり」の雰囲気が、子供から大人までを笑顔に変えている。

「お客さん視点に立って、面白い、楽しいものをどんどん取り入れます。国内でアメフトは人気や注目度がどんどん下がっている。尼崎ボウルを盛り上げて注目してもらうことで、アメフト人気復活に少しでもプラスになれば嬉しいです」(川口氏)

「僕は学生時代(関西学院大)に甲子園ボウルも経験しましたが、スタンドの雰囲気やお客さんとの距離感は、尼崎ボウルが良いと思うことさえある。応援が直接伝わってきて、選手もモチベーションが上がります。フットボーラーとして幸せです」(阿部)

「関わる人たちの思いが詰まっており、アメフト・イベントとしては現状で日本一だと思う」と運営、選手の両方が胸を張る。

選手入場での特殊効果演出など、「尼崎ボウル」では米国アメフトの雰囲気を体感できる。

そして、今年6月15日の『第10回尼崎ボウル』では今まで以上にチャレンジャーズと触れる機会が多くなりそうだ。同日は同市議会議員選挙の投開票と重なるため、選挙管理委員会とタッグを組み、事前投票への呼びかけ等に協力を行うこととなった。

「事前投票告知の街宣車音声をうちの選手が担当します。これは市内の主要コンビニでも流れるそうです。尼崎市の公式YouTubeチャンネルにも同様の形で登場します。微力かもしれないですが、何かしらの力になれれば嬉しい。もちろん、1人でも多くの人にチャレンジャーズを知ってもらう意味もあります」(川口氏)

フィールド内外で、チャレンジャーズと尼崎市(=行政)との関係性はどんどん良好なものになっている。

「少しずつ時間をかけ尼崎市との関係性も強固になりました。行政、企業、市民の多くの方々から協力、支援していただいています。感謝しかないですし、何かの形で恩返しができればと思います」(川口氏)

尼崎市長・松本眞氏(写真中央)はチャレンジャーズ最大の理解者(写真右端はGM・川口陽生氏)

~阪神は関西圏、チャレンジャーズは尼崎市のチーム

チャレンジャーズは、『尼崎ボウル』や地道な地域貢献活動を通じ、少しずつだが尼崎市に欠かせない存在になりつつある。「阪神と異なった道を進む」という意味が理解できる。

「尼崎市長・松本眞氏に『我々に何を求めますか?』と聞きました。『阪神は関西圏みんなのチーム。チャレンジャーズは尼崎市のチーム。この町を代表する存在になって欲しい』と言っていただきました」(川口氏)

松本市長は就任以後、多忙の中でも必ず時間を作り尼崎ボウルへ足を運ぶ。顔出しのみで中座するのではなく、川口氏の解説を聞きながら試合終了まで観戦するのが恒例行事。「市長はどんどんアメフトが詳しくなっています(笑)」(川口氏)というのも良い。

「尼崎ボウルのみでなく、通常の公式戦も同じくらいの集客になってくれれば。もっと尼崎市との関係性を近くして、必要不可欠なものになりたい」(川口氏)

「イベント、エンタメ性、そして試合内容…。尼崎ボウルを日本で一番おもしろい試合にして、尼崎以外の人にも足を運んでもらえるようにしたい」(阿部)

チャレンジャーズはNPB・阪神とは別の形で尼崎市との関係を深め続ける。

アメフトは国内において「マイナー競技」なだけに、関係者以外の一般の人々に浸透させるには時間がかかるかもしれない。しかし今のビジョン、スタンスを失わなければ可能性はゼロではない。

「立ち位置こそ違いますが、阪神さんに追いつき追い越せの気持ちを失うことはありません。まずは尼崎市45万人に関して、親近感の部分で阪神さんの上に行ければと思っています(笑)」(川口氏)

今の素晴らしい関係性を保ちつつ、少しずつ前進していってもらいたい。チャレンジャーズと尼崎市は、お互いに血の通った地域密着の関係性を構築できそうな気がする。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・SEKISUIチャレンジャーズ)

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