スポーツは文化を変える!水戸のクラブが抱える課題とポテンシャル
コロナ禍において、プロスポーツクラブは観客動員の制限における影響を少なからず受けている。2021明治安田生命J2リーグに所属する水戸ホーリーホックも同様だ。
今回は、コロナ禍での苦労や、水戸という地域ならではの特徴。今後のクラブの展望を、株式会社フットボールクラブ水戸ホーリーホック代表取締役社長の小島耕氏(以下、小島氏)に伺った。
独特な地域の価値観と水戸が抱えるポテンシャル
「認めて頂ける、可愛がって頂けるまでに時間がかかると言いますか……」
小島氏は苦笑いを浮かべながら、クラブのホームタウンの特徴を話してくれた。
「僕は東京で働いていても、出身中学を聞かれる経験はほとんどありません。
しかし、水戸では普通に会話としてその話題が飛び交います。僕は幸い水戸で中学も高校も過ごし、先輩や後輩がいたおかげで助けられた事がありました。
僕は比較的そのあたりをクリアできましたが、業務委託のような首都圏から来る社員たちは苦しんでいますね。」
地域間での考え方は水戸だけの話ではない。
「また、茨城県全体で考えると、県南の土浦、つくばあたりは独特の文化があり、水戸に対する対抗意識が強いです。僕なんて営業に行って『水戸藩にはお金を払えない』と言われたことがありました(笑)。その水戸藩という価値観は、水戸の人間にも残っていると同時に、他のエリアにも残っているように感じますね。」
藩という呼び方は、普段の会話において耳にする機会も少ないのではないだろうか。そんな呼び名が飛び交う理由は、水戸近隣の企業における意思決定者の年齢が60歳を超える方が多いことが、その理由の一つだ。
独特の価値観もあってか、スポーツに対してお金を払う事や、応援する事への参画意欲という点でも苦労を感じる部分もある様子。しかし、小島氏はこうも語る。
「逆説的には面白いですよ。僕は、新しいチャレンジが好きです。そういった意味では刺激的でもあり、社内の空気や社外の人たちの我々を見る目を変えないといけないという意味では、比較的やることがあって楽しいと感じています。」
刺激的であり楽しいと感じられるデータもある。小島氏は穏やかではありながらも、しっかりとした口調で水戸という地域に感じているポテンシャルを話してくれた。
「可能性も強く感じていて、茨城県は僕のように東京から通う人も多く、県内の人口も280万人ぐらいです。これって全国で11番目なんですよね。県民の所得の平均というデータもあるのですが、全国でも8位です。僕らは県央と呼ばれる旧市町村エリアがホームタウンになりますが、そこだけでも80万人弱ぐらい人がいるんですよね。80万人というと、モンテディオ山形さんやヴァンフォーレ甲府さんのホームタウンの人口とあまり変わりません。彼らも親会社がない中で、売上は水戸ホーリーホックの倍近くあります。コロナ禍において、もちろん景気が悪いと口では言う人もおりますが、水戸は農業大国なので景気自体はそこまで落ちていないと僕の中では感じています。そういう意味ではチャンスでもあり、ポテンシャルがあると感じています。」
コロナ禍での苦労や得たもの
コロナ禍におけるクラブ経営の課題として、入場料収入の減少は大きなダメージであり、水戸ホーリーホックも当然ダメージを受けている。これまでと同じが通用しない中で、クラブが対面した課題を小島氏に伺った。
「コロナ禍で痛感したことは、僕らがファンベースと呼んでいる、本当に強く我々を支持してくれる層がまだまだ少ないという所ですね。シーズンシートの購入数、ファンクラブ会員の数、グッズを販売した時に反応してくれる人の数を換算すると、おそらく地域で2,000人から3,000人ぐらいだと見積もっています。このファンベースを強固なものにして、何があっても支えてくれる層をもっと増やす必要があります。今後は、人口の減少や、趣味の多様化、情報の速さなど、意識しなければならない要素が山ほどあります。そのファンベースがまだ少し弱く、苦労は感じていますね。」
しかし、対面したのはマイナスな面だけではなく、改めて感じた所や見えてきた部分もある。コロナ禍において、新たに実感したプラスの面を小島氏は話してくれた。
「スタジアムのお客様が減少した中でも、クラブはお客様と密にコミュニケーションを取るために努力を重ねてきました。そういう人たちのクラブに対する想いとか、考えにしっかり向き合える時間になっているのかなと感じています。普通の時だと、ある程度入場料収入を取れているからいいやとなっていた可能性はあるので、コアなファンベースの皆さんと向き合える時間はすごく良かったかなと思います。」
「また、会社としてチャレンジする姿勢を見せるという事が、すごくプロスポーツチームというのは大事であり、評価される事を感じました。特に我々のような市民クラブは親企業がありません。皆が全力を出して頑張っているという空気感や、スピードを出しているというのは、応援してくれる人を増やすことができます。それだけでなく、巻き込める人も増やせることは、コロナ禍でないと見えなかった部分かなと思います。」
新しい原風景をこの街に
水戸という地域の特徴やポテンシャルを踏まえ、コロナ禍においても課題をクリアしつつ、新たなチャレンジに挑む水戸ホーリーホック。小島氏に今後のクラブの展望を伺うと、はっきりとした口調で次のように語ってくれた。
「予算規模を大きくしてチームを強化し、地域貢献を更に拡大したい。の一点です。また、アカデミー組織の強化かつ、地域貢献活動の強化を行う。それらが、フロントのスタッフの生活向上にも繋がってくると思うので、まずは会社の売上規模を大きくしたいですね。
また、地域の夢やビジョンと、クラブの方向性を揃えるということを僕は大事に考えています。地域の課題感に向き合って、その課題解決における方向性が同じであり、一緒に歩いていくというスタイルが一番美しいのかなと。去年ブランドプロミスという新しい言葉を作りました。
『新しい原風景をこの街に』
という意味です。
多様性が求められる中でも、子供たちの記憶に残る部分や、文化から来る人格を作ることもできるのではないかと考えています。また、子供だけでなくて、リタイアした夫婦が新しい楽しみを見つけたいとなった時に、その原風景が我々であったらいいなと考えています。我々のサッカーだけではなく、我々の地域貢献活動をしている姿を見て感銘を受けるでも良いです。そういったことを目指せるクラブだったらいいなと思います。」
さらに、小島氏は自身の体験談も踏まえて熱く語ってくれた。
「僕は鉾田市出身なんですけど、昔は野球のエリアだったんですよね。その野球のエリアが鹿島アントラーズによってサッカーに変わるという体験をしました。スポーツは世の中を変えることができるんだなと身をもって体感しました。家庭の食卓の話題がアントラーズになり、うちの姉が練習場に行ってサインをもらって来ることがある。そういったことで空気が明るくなると言いますか、勝った負けたで共通の話題ができる事もあります。そのスポーツの偉大さが、これを仕事にしようという僕の原風景でした。スポーツの印象はすごく強烈だと思います。ですので注意も必要なのですが、その分価値も上げられると思っています。」
また、サッカークラブの方向性や在り方に対して、小島氏はこう考える。
「今後の一つの形として、J2にいてもすごく街に文化として存在するというヨーロッパ型のカルチャーに変わっていく可能性もあると考えています。今はトップディビジョンを目指さないと会社の規模が膨らみませんし、昇降格における経営のへのインパクトが大きすぎるのが現状です。例えばですが、それもヨーロッパの小さなクラブのような立ち位置に変わる可能性があると考えているんですよね。海外だとクラブが何部でプレーしていても関係ありません。水戸ホーリーホックもそれぐらい地域に根差したうえで、地域に貢献できるクラブにしていけたらと考えています。」
水戸という地域のポテンシャルを最大限に引き上げ、水戸ホーリーホックを中心とした原風景が生まれる環境を作るべく、今日もまたクラブは新たなチャレンジを続けていく。(取材 / 文:長島啓太)