2020年プロ野球ドラフト会議~指名を待つ、それぞれのドラフト~
今年もプロ野球ドラフト会議が近づいてきた。今回は、首都大学野球連盟に所属する大学の中でプロ志望届を出した選手の中から、4選手を紹介したい。
日体大・森博人投手(豊川/177cm80kg/右投右打)
スリークォーター 直球145~152キロ 最速155キロ
ドラフト1位でプロに行く。
森博人投手は、辻孟彦コーチのもとでその目標を現実のものにするため、日体大に進学した。最初に大学4年間の計画を立て、球速についてもどの時点で何キロ投げられるようにするかをはっきりと決めた。高校時代は141キロだった最速も今は155キロとなり、常時150キロ前後の力強いストレートを投げる。森は、そんな自分にまったく驚きを感じていないと言う。計画通りだからだ。
デビューは1年秋のリーグ戦、リリーフ登板だった。当時の印象は「投げっぷりが良くポテンシャルの高い1年生」だ。2年生になるとストレートの威力が増し、コントロールを磨けばさらに打たれないピッチャーになると感じた。3年時には150キロを連発するようになり、調子の良いときはボールがうなりを上げているようだった。一方、調子が悪いときはストライクとボールがはっきりし、苦しい投球となった。調子が悪くてもチームを勝たせる投球をする、それがドラフト1位に向けて最後の課題と思われた。
リリーフ登板が多かった森は、3年秋の帝京大戦で7回無失点と好投し、先発での初勝利をあげた。序盤はなかなか調子が上がらなかったが、相手をきちんと見て丁寧に投げ続けた結果、辻コーチに事前に言われていた5回よりも長い7回まで投げることができた。無死2塁のピンチでは、ギアを上げて無失点で切り抜けた。調子が悪いなりに試合を作り、試合の中で悪いところを修正し、ギアチェンジをしながら長いイニングを投げる。森がまたひとつ成長した試合と言っても良いだろう。
4年生になった今年は、自粛期間中に新しい変化球を覚えた。もともと投げていたカーブ、スライダー、ツーシーム、大きな変化のカットボールに加え、小さな変化のカットボールを操るようになり投球の幅が広がった。エースとして登板した今秋の開幕戦では、武蔵大に対し7回1安打無失点。新しいカットボールもさっそく武器となり、1年ぶりの公式戦であまり調子が上がらない中でもチームを勝たせる投球ができた。
この4年で、森はわかりやすく段階的に成長していった。計画通りに進めたのは、辻コーチの指導や自身の頑張りはもちろんだが、2学年上に松本航(西武1位)、東妻勇輔(ロッテ2位)、1学年上に吉田大喜(ヤクルト2位)と、プロ入りを目指すためのお手本が身近にいたことも大きかっただろう。森は、今も先輩方が投げる試合をチェックしているという。
「今年は吉田さんの試合をよく観ています。(吉田投手は苦戦しているが)大学時代の吉田さんでは考えられない状態で、プロのレベルではアウトをとるのも大変だなと。ストライクゾーンも狭いですし、観ながら自分がプロに行ったときはどうしたらいいのかなと考えます。そういう面では、先輩たちがプロで投げている試合を観られるのはいいですね。大学時代のイメージを持ったまま、今の試合を観ることができるので」
プロが甘くない世界だということは十分に分かっている。ドラフト会議で指名されることは、スタートであってゴールではない。この先、もっともっと成長していかなければならない。すでに新しい課題も見えていた。
「まっすぐとカットは、今の段階では自信のあるボールとして投げられています。ツーシーム、カーブを増やして相手に印象づければもっとピッチングの幅が広がると思うので、そういったウイニングショットでありカウントもとれる球種をもうひとつ増やすというのが、今後の野球人生の課題です」
下級生のときの無邪気さが懐かしいくらい、しっかりと内容のある受け答えをするようになった森は「人間的にも野球でも成長できましたし、日体大に来て良かったと素直に思っています」と、この4年を振り返った。
やることはやった。あとは、運命の日を待つのみだ。
筑波大・加藤三範投手(花巻東/182cm86kg/左投左打)
スリークォーター 直球140~143キロ 最速147キロ
1年春からリーグ戦でリリーフ登板し、通算防御率0.58で2年秋を終えた加藤三範投手。最速147キロのストレートに、カーブ、カットボール、チェンジアップ、そして2種類のスライダーを操る。いつ見ても安定感のあるフォーム、いつ見ても安定感のある球、誰もが加藤はこのまま活躍し続けると思った。
3年春、加藤がマウンドに上がることはなかった。1月に左ヒジを疲労骨折したのだ。回復までに時間がかかり、秋も登板することはできなかった。予想もしなかった大きな故障だったが、加藤はこの経験をポジティブに捉えていた。
「球速ではわからないとは思いますが、キレが良くなりました。怪我をしてダメだと思うのではなく、成長を見せて驚かせようと思って練習していました。自分の課題点や弱みを知れたので、今回の怪我をプラスに捉えられたのは良かったと思います。下半身を強化したことによってボールにも安定感が出て、バットに当たっても飛ばされなくなったので、球の質も変わってきていると感じています」
2年秋以来の登板で、確かに数字で見ると球速自体は以前より遅くなっていたが、無死3塁のピンチから三者連続三振を奪えたのは球の質が良くなったからだろう。今秋は、先発2試合、リリーフ2試合の登板となったが、リリーフではどちらも延長タイブレークでマウンドに上がった。2試合とも無死1,2塁からの攻撃を1失点と最少失点に抑え、チームに勝ちを呼び込んだ。「どこでも投げる準備はできていますが、リリーフの方が経験は多いので」と言っていた通り、短いイニングをしっかり投げる方が性に合っているように思える。
2度の先発はどちらもベストな投球ができたとは言い難いが、落ち着きのあるマウンドさばきは健在だった。ドラフトを前に4年間を振り返ってもらうと「下級生のときは結構うまくいっていたんですけど、3年生のときに大きな怪我をして4年生でもあまりいい成績が出せなかったので人生難しいなと思いました。でも、こういう失敗や経験があるからこそ次に生かせると思っているので、この経験をこのままにせず次のステージでもしっかりと自分の成長したところを見せられるように頑張っていきたいなと思います」と、素直な胸中を語ってくれた。
周囲にバレバレなくらい緊張しているという加藤は「ドラフト当日までに、冷静さを取り戻したいです。選ばれるかどうかはご縁もあるので、選ばれることを信じて待ちたいなと思います」と、マスクの向こうに笑顔を見せた。
桜美林大・松葉行人投手(東海大甲府/177cm78kg/右投左打)
オーバースロー 直球140~143キロ 最速146キロ
昨秋は2017年秋以来、首都大学野球2部リーグで戦うことになった桜美林大だったが、防御率0.00で最優秀選手にも選ばれた松葉行人投手の活躍もあり、今秋は1部に返り咲いた。
「去年までは先輩がいたから、周りからエースと言われてもまだ3年生なんだという感じでしたが、4年生になりエースという自覚を持ちました。後輩たちにいいところを見せたい、落ち込んでいる姿を見せてはいけない、そういう気持ちが常にありました」
エースの自覚とそのプレッシャーの中で最後の秋を戦った松葉だったが、なかなか思うように投げることができずチームも4連敗で最終戦を迎えた。「後輩に、最後は勝っている背中を見せたかったので良かったと思います」との言葉通り、最後の帝京大戦では4人の投手が無失点でつないできたバトンを受け取り、1回無失点で完封リレーを完成させた。
昨秋、2部ではあるが防御率0.00という成績だった松葉が、今季なかなかチームを勝たせる投球ができなかったのはなぜだろうか。
「6月、7月に肩を痛めてしまったのですが、根岸(涼)もヒジを痛めて離脱したため、自分まで抜けたら後輩たちにも負担がかかると思い、監督には言わずに投げていました。ちゃんとケアをしていたので8月のリーグ戦直前に良くなりましたが、ギリギリになってしまいバタバタしちゃったなというのがあります。球のキレは悪くなかったのですが、コントロールができていませんでした。それから、プロ志望届を提出すると決めてから上を目指すために何かをしなきゃいけないと思って、今までやっていなかったウエイトトレーニングなど新しいことに取り組みました。それが今の段階では悪かったのかはわかりませんが、これから結果が出るのかもしれない。いい方向にいかなかったとしても、別のことにチャレンジしたという意味ではこれからにつながると思います」
そもそも、松葉がプロ志望届の提出を決めたのは7月の終わりだ。今の段階で、変化した体を使いこなせていなくてもおかしなことではない。4年間で一番うまくいかずに悩み続けたシーズンになったと松葉は言うが、ウエイトトレーニングに取り組んで良かったと感じる部分もあった。今までは投げると体重が落ちてしまっていたが、昨秋に比べて8キロ増えた体重を維持できた。さらに、球速のアベレージを落とさずに長いイニングを投げられるようになった。
「調査書はまったくきていないので、プロに行けるかといったら難しいと思います。でも一回出してスカウトの人に見てもらったという経験は今後に生きてくると思うので、出したことには後悔はしていないです」
そう話す松葉自身の思うアピールポイントは「どの球種もコントロールできているときはゲームを作れる」ところだ。「今は最速が146キロですが、それをアベレージにしたい。スピードを上げたいからと力まず、ウエイトトレーニングをしたり柔軟性をつけることで、自然とスピードアップを図りたいです」と、これからの目標も明確にできている。
ドラフト会議で指名がなければ、東北の企業チームに進むことが決まっている。来春、松葉はどこで野球をやっているのだろうか。未来が決まるその瞬間を待つ。
東海大・串畑勇誠内野手(広陵/185cm75kg/右投右打)
50m走6秒35 遠投110m 内外野守れるユーティリティープレイヤー
もっと注目されてもおかしくない選手だ。
明治神宮大会、準決勝。1点ビハインドで迎えた9回裏。1死から四球を選び出塁した串畑勇誠内野手(当時3年)は二盗でチャンスを広げる。そして2死2塁、あと1アウトで負けが決まってしまう。串畑はスタートを切った。三盗はセーフだった。このあと相手投手は打者に対しストレートの四球を与え、2死1,3塁から千野啓二郎(現Honda)の適時打で東海大は同点に追いついた。
全国大会の準決勝、9回裏2死から誰が三盗すると思うだろうか。
今秋のリーグ戦中にも「最初から負ける気がしないですね。走塁は、めっちゃ自信あります」と笑顔を見せていた串畑だったが、どんな場面でもスタートを切れる度胸、決めるだけの自信があるのには理由がある。
「やるべきことが明確というか自分自身ができることをやろうという、その準備が結果につながると思っています。自分のぶれない部分があって、練習にしろ、試合にしろやってきたから自信がありますし、堂々とできます。自信がない人たちは準備が足りないのかなと思います。みんなが見てくれている中でできるというのは幸せなことだし、自分の場合はもっともっとやってやろうという気持ちになります」
4年生になった今だからこそこう言えるようになったのではなく、以前から同じ発言をしている。串畑は、ずっとこのような心構えで野球に取り組んできた。ちゃんと準備をしてきたのだから活躍するのは当たり前。走塁だけではなく、守備や打撃にも自信がある。走塁に自信があっても、まずは出塁しなければ意味がない。今秋は11打数6安打、打率0.545という成績を残した。足を活かして長打にし、単打なら盗塁で少しでもホームに近づく。どちらにしても気づいたらサードベースの上にいる、それが串畑だ。
さらに、守備では内外野すべて守ることができ、今季のリーグ戦でも、一試合の中でショートとセンターを守ることがあった。「どこでも守れるのも自分の持ち味だと思う。空いたところがあれば自分が守ればいいかなと思います」と、プロでも柔軟な対応が可能だ。
また、硬派そうな見た目で話の中身もしっかりしているのに、話し方はおっとりしていて人懐っこい弟キャラであるところは、プレー以外の部分でファンのつきやすいところかもしれない。
目指す選手は、新庄剛志。エンターテイメント性のあるプレースタイルという点では、確かに似ている。調査書は2球団から届いた。10月26日、串畑勇誠の名前は呼ばれるだろうか。
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