「アスリート食」にかける想い スポーツ栄養士とタッグを組み「食」でサポート

「スポーツに関わるあらゆる人の人生をHappyに」
かつてアスリートだった経験を持ち、海外体験やサラリーマン生活を経てWALPASSを起業した飯島雄一朗さん。スポーツと食について真剣に考えるようになり、公認スポーツ栄養士の三好友香さんとタッグを組んで最高のパフォーマンスを目指したアスリート食を提供する。
アスリートと食について、飯島さんと三好栄養士に話を伺った。
スポーツと食を考えるようになったきっかけとは

飯島さんは幼少からずっとサッカーを続け、サッカー選手としてドイツに3年間滞在したこともある。引退した後スポーツメーカーに13年間務めてから、「アスリートに最高のパフォーマンス食を提供する」ことを目指してWALPASSを起業した。
そのきっかけとなったのは、あるサッカー部に手伝いに行き、監督との会話の中で「食」が話題になったことだ。
「都内の大学なんですが、地方出身で一人暮らしをする選手も多い。よくある話なんですが、大学に来ていざ競技をスタートさせても、食事を含めた私生活がうまくコントロールできない。高校生のときにパフォーマンスが高かった子が、大学に来てパフォーマンスが上がらない。あるいはけがをしてそのままフェードアウトしてしまう。そういう課題があるという話を聞きました」
飯島さん自身も海外生活では一人暮らしをしていたが、振り返ってみると、食事は、お腹を満たすために食べるだけだった。
練習や試合に明け暮れるアスリートは、スポーツ栄養に特化した食事を考えて作るのは難しい。
「一人暮らしで頑張っている、上を目指すアスリートに対して、自分で簡単にしっかり栄養が取れるものを準備できる環境を作ってあげたいと思って、この事業を立ち上げました」

スポーツ栄養の知識を補うため、人づてに公認スポーツ栄養士の三好友香さんを紹介してもらい、タッグを組むことになった。
公認スポーツ栄養士三好さんが作る「特別ではない」メニューのこだわり
三好さんはさまざまなスポーツで活躍するアスリートの「食」に携わってきた、公認スポーツ栄養士だ。現在はトレーニングラボでのアスリートサポートや、スポーツ現場を目指す人を対象にスポーツ栄養について講師を務めるなど、幅広く活動している。

食とスポーツが好きで、スポーツをする人の役に立ちたい。その気持ちは飯島さんの想いと通じるものがあり、アスリート向けのメニューを提供することになった。
スポーツ栄養は「決まった正解」があるわけではない分野だ。身体や生活、スポーツの種類など様々な要素がある。やってみなければわからないことも多い。そして、理想的な栄養を詰め込めば、理想的なアスリート食になるわけでもない。
「私が普段担当しているトップ選手のなかには経済的に余裕があったり、充分に支援を受けていたりする選手がいますが、トップ層以外ではそうでない選手も多い。子どもたちもそうです。栄養素がベストのものがこれだ、というのがあったとしても、原価が高くなってしまいます。量も質も上げたい中で工夫しています」
そして、「これを食べてはいけない」「これを食べなければいけない」という制限食としてではなく、美味しく食べることを楽しむメニューを考えるのが三好さん流だ。
飯島さんは、三好さんのアドバイスを受け、2021年にまずアスリート向けの冷凍食品のフードデリバリーを開始した。湯煎やレンジで解凍し温めるだけで、誰でも気軽に栄養バランスのいい食事が摂れる。
利用者は一人暮らしの学生や、中学生や高校生アスリートの保護者が多い。スポーツ栄養を考えた食事までは用意ができないケースや、忙しくて食事に十分な配慮をすることができないケースで活用してもらっている。
取り扱うメニューを見ると、「豚の生姜焼き」「ソース焼きそば」「牛すじどて煮」「肉じゃが」など家庭でも見慣れた料理が並び、「アスリート食」という特別な印象は受けない。

「アスリートだからといって特別なご飯を食べるわけではない、というのが根底にあります」と三好さんは言う。
アスリート食というと、極端に脂質の少ないささ身とか、プロテインのようなものを思い浮かべがちだ。
「タンパク質はもちろん大事ですが、タンパク質だけ摂ればいいかというと、そんなことは全くありません。イメージが先行してしまっていると思いますが、炭水化物も、脂質も一定量は必要だし、ビタミンやミネラル類も、それぞれの年齢などに合わせて必要な量があります。
当たり前ですが、バランスよく食べるという視点で見たとき、米は準備できるとしても、おかずはなかなか準備できなかったりします。それがプロテインの粉になるのではなく、食事から摂れるように、メニューで組み合わせて摂ってもらえる内容になっています」
身体に優しく、栄養があり、美味しいものを手軽に摂れる

「人の身体は食べたものからできている」ということを飯島さんは原則とし、原材料にも気を配る。冷凍食品ではあるが、作成する会社の賛同を得て、化学調味料や着色料は使用せずに素材の味を生かす。また調味料など二次原材料まで無添加というこだわりのもと、身体のために必要十分な栄養と簡便さ、美味しさを追求して提供している。
利用者については、年齢、性別、スポーツの種目など、ヒアリングをしてからそれぞれの人に合ったメニューが提案される。
アスリート用「レトルトカレー」をリカバリーメニューに
冷凍食品と並んで、飯島さんは部活中の高校生たちに、三好さん監修のアスリート食を「弁当」として届けることも行っている。
メニュー以外にも身長体重などを管理し、一日のうちでほかの食事はどうしているか、補食をどうするかなど、普段の生活に対するアドバイスも必要に応じて行っているという。
さらに現在、新しいチャレンジを計画している。リカバリーメニューとしての「レトルトカレー」の製作だ。
三好さん監修のレトルトカレーには、アスリート向けの工夫が詰め込まれている。
「例えばラグビーのプロチームでも、試合が終わったあとすぐに食べるリカバリーミールにカレーを準備していたりします。暑い時期でもカレーなら食べやすいですし、運動した後に魚の定食は食べづらいけれども、カレーなら食べられるという方も結構います。スパイスを入れると食欲増進効果もある。アスリートにとって、有効に活用できると思います」
三好さんはそう説明する。市販のレトルトカレーはどうしても脂質が多かったり野菜が少なかったりするが、計画中のアスリート用カレーでは、低脂質なルーを使用し、肉も野菜もたっぷり使う。全体の量も一般のものよりは多めにする。

「イメージ的には、試合や練習が終わったあととか、家に帰って保護者がいないとか、自分で食べなければいけないとき、どんなタイミングでも使えると思います。レトルトなので持ち運びもできますから、温かいご飯があればどこでも食べられます」
飯島さんは自身の経験からも「私も海外で生活しているときは、割とレトルトものを重宝していたので、そういう利便性も含めてレトルトを企画したかったんです」と言う。
アスリート食は特別なものではなく、誰もが気軽に手に入れて役立てられるものであってほしい。それが飯島さんと三好さんの願いだ。より手軽に、普段の食事に取り入れてもらえるものを考え、パフォーマンスに繋げられるよう努力を続けている。
苦労はあるけれど「やっていてよかった」
食事を変えた効果というのは、すぐに数値で表れてくるわけではない。中学生や高校生ではバランスのいい食事をずっと継続するということ自体が難しい場合もある。
「続けるためには、現場にいる指導者、保護者含めて続けやすい環境を作っていくことが大事だと思っています。私たちとしては、食事の部分での手間や時間に問題があるなら、そこの解決ができるようなツールを提供し、うまく利用してもらえればと思っています」
たとえばトップ選手たちは、自身が栄養や自分の身体について理解し、どの部分を強化するのか、そのためにどんな栄養素が必要なのか分かった上で摂取する。中学生や高校生であっても、受け身ではなく「自分に必要なものを摂る」という意識づくりが続けるモチベーションになってくる。
「誰もが気軽に摂れる最高のアスリート食で最高のパフォーマンスを」という願いの実現は簡単ではない。
メニューを用意するだけではなく、コツコツと現場を歩いて見て回り、説明して理解を得ていく。そうした地道な活動の中から、飯島さんは「やっていてよかった」と手応えを感じている。
「関わっているチームで『うちの選手たちは身体が大きくなってきたよ』『明らかに身体が変わってきたよ』と言ってもらえることがあります。しかも『試合も勝てるようになってきた』とか。チームの公式戦などは私も応援に行ったりするんですが、そこでチームが勝つと本当に嬉しい。やっていてよかったと思います」
三好さんは、現場で選手たちと接しているわけではないが、飯島さんを通じて利用者の声を聞き、手ごたえを実感している。
「食事の重要性とか、バランスよくしっかり食事を摂れれば少しずつでも身体が変わっていくんだ、と実感を持ってもらえる方が一人でも二人でも増えたらいいなと思います」
(取材・文/井上尚子 取材協力・写真提供/WALPASS)