「5年ごとのジンクス」を超える。そのために下した決断と覚悟とは。アビスパ福岡・長谷部茂利監督と前寛之選手に聞く。
10月16日にJ1残留を決定したアビスパ福岡。このチームはかつてJ1でのプレー1年、J2でのプレー4年の周期を繰り返してきた。これは「5年ごとのジンクス」と呼ばれている。しかし、今年このジンクスを破り、勝点51を獲得してJ1第8位につけている(11月7日時点)。前回の記事では、この「5年ごとのジンクス」を破ってJ1で戦い続けるためにクラブが下した決断と覚悟について、アビスパ福岡の川森敬史社長に話を伺った。
今回は、ピッチで戦うアビスパ福岡の長谷部茂利監督と前寛之選手・城後寿選手・北島祐二選手の4人に、今季J1で戦うために下したそれぞれの決断について話を伺うことができた。本記事では、長谷部茂利監督と前寛之選手への取材の様子をお届けする。
(取材は2021年10月20日および29日に実施)
長谷部茂利監督-「ご支援頂いた方への恩返しは、勝って結果を出すことしかない」
「今季アビスパがJ1で戦うにあたり、長谷部監督が日々アビスパの選手に伝えているメッセージとは、どのようなものだったのでしょうか」
「とにかく『勝点50・10位以内』そして『来季もJ1で戦う』という目標のために、チームが一つになることの大切さについて、日々話をしていました。プレーに関しては、一つ一つのプレーの質と強度を上げることを常に選手たちに意識してもらえるように、ゲームの時はもちろん、練習の時から選手に伝えるようにしていました」
「先程、長谷部監督ご自身もおっしゃられたように『勝点50・10位以内』そして『来季もJ1で戦う』というのが、今季のアビスパの大きな目標でした。この目標を達成するために、今年監督ご自身がされた最も重要な決断とはどのようなものだったのでしょうか」
「決断というより、むしろその3つの目標を達成するための覚悟をしたと言ったほうが良いかもしれません。来季もJ1で戦うという目標は達成することができましたので、次は『勝点50以上・10位以内』を何が何でも達成するために、今シーズン終了まで戦い抜いていきます」
「今季、アビスパは後半アディショナルタイムでの得点がJ1の中で最も多いチーム(6点)となっています。長谷部監督の目から見て、このアビスパのゲーム終了間際の強さはどこから生まれているのだと思われますか」
「お話にあったアビスパの後半アディショナルタイムでの得点ですが、そのほとんどはホームの福岡での試合のものです。そしてその大きな要因は、アビスパのサポーターの方々のおかげであると私は思っています。
後半のアディショナルタイムは、ピッチでプレーしている選手にとってすごくきつい時間帯です。もちろん、自分たちだけが苦しいわけではなくて、相手チームの選手も同じように苦しい状況でプレーしています。そして『この試合を勝ちたい』って強く思っていることも、選手たちはお互いにわかっています。
そのように体力的また精神的に厳しい状況の時に、スタンドからサポーターの応援の手拍子が聞こえてくると、選手たちにとってはものすごく大きな支えになります。
サポーターの方も声を出すことができない分、より力を入れて手拍子で応援してくださっているためでしょうか。ベスト電器スタジアムでのアビスパサポーターの手拍子は、ピッチのどこにいてもとてもよく聞こえますし、選手たちが最後の最後まで戦うための大きなパワーになっています」
「昨年アビスパはクラウドファンディングを実施して、2,560万円ほど資金が集まりました。このニュースを聞いた時、長谷部監督が最初に感じたこと、考えたことはどのようなものだったのでしょうか」
「本当にありがたいと思いましたし、ご支援頂いたお一人お一人に心から感謝しています。そして、どうやってこのご恩をお返しようかと考えたところ、やはり自分ができることはゲームで勝って結果を出すことしかないと思いました。『アビスパ福岡がJ1に昇格する姿を絶対に見てもらいたい』と思いながら、昨年は戦っていました」
「今回、アビスパは「『J1定着大作戦』みんなでつなぐアビスパの未来」というタイトルでクラウドファンディングを実施しています。このクラウドファンディングに参加して頂いた方や、迷っている方に、メッセージをお願いできますでしょうか」
「皆様のご支援を頂きまして、昨年のJ1昇格、そして来シーズンもJ1で戦うことが可能になりました。監督として、来季は更に強いアビスパを作りたいと思っておりますし、皆様にもより強くなったアビスパのゲームをぜひ見て頂きたいです。どうかご支援のほど、よろしくお願いいたします」
前寛之選手-「アビスパは、最後の最後までゲームをやりきるパワーを持っているチーム」
「チームのキャプテンを任されている前選手に伺います。昨年のアビスパの戦い方と今年の戦い方を比べて、一番大きく変化したことはどのような点でしょうか」
「プレーのベースになるものは昨年から大きな変化はありません。でも、J1で戦うために、プレーの質とスピードが向上したことが最大の違いだと思います」
「昨年アビスパに加入した時からチームのキャプテンをされていますが、新たにプレーするチームでキャプテンになるという決断は、難しいものでしたか。また、もしも難しいものだったとしたら、前選手にアビスパでのキャプテン就任を決断させた要因とは、何だったのでしょうか」
「アビスパへの移籍のお話を頂いた時点でキャプテンをやってほしいという要望があったので、特に難しい決断ではなかったです。とはいえ、キャプテンは基本的にチームに一人だけですし、僕自身選手としてのキャリアがそんなに長いわけではないので、その責任も十分感じていました。でも、お話を頂いた時には、とにかく全力でやってみて経験をつもうと思いました」
「今年は新型コロナウイルスの影響もあり、サポーターも声が出せずに、手拍子やハリセンを叩く形で応援をすることになりました。今までとは大きく異なる応援の形でしたが、どのように感じていますか」
「やはり歌や声援がないのは、ちょっとさみしいと感じる時もあります。観客の皆さんにプレーを見ていただくのがサッカーだと僕は考えているので、早くサポーターのみなさんが思う存分声を出して応援ができるようになるといいな、といつも思っています」
「今季、アビスパは後半アディショナルタイムでの得点がJ1の中で最も多いチーム(6点)となっています。ホームで行われた広島戦においても、前選手が後半アディショナルタイムに劇的な同点ゴールを挙げています。キャプテンとして、このゲーム終了間際の強さはどこから生まれるものだと思いますか?」
「アビスパは、最後の最後までゲームをやりきるパワーを持っているチームです。そしてアビスパの選手たちは、J1で勝点3を取る難しさを熟知しています。だからこそ最後まで諦めずに前に出て戦うことができますし、『絶対にこの試合を勝つんだ』という強い気持ちが生まれるのだと思います」
「「今回、アビスパは「『J1定着大作戦』みんなでつなぐアビスパの未来」というタイトルでクラウドファンディングを実施しています。このクラウドファンディングに参加して頂いた方や、迷っている方に、メッセージをお願いできますでしょうか」
「いつもアビスパをご支援頂き、本当にありがとうございます。このコロナ禍において、変わらずアビスパにご声援を頂いていること、本当に感謝しています。そして、これからのアビスパも皆さんに支えて頂けると、僕も本当に嬉しいです。皆さんのご協力、どうぞよろしくお願いいたします」
アビスパ福岡の今年の快進撃とJ1残留は、決して偶然ではない。J1で戦い続けるクラブになることを共通の目標とし、過去の降格経験を糧にしながら、クラブレベル・チームレベルそして個人レベルで何をすべきなのかの決断を重ねた結果である。
今季は、スタジアムに入場できる観客数も制限され、サポーターも従来とは異なる方法で選手を応援することになった。しかし、応援はアビスパの選手たちにしっかり届いており、試合終盤まで戦い続けるのに十分な支えとなっていた。そのことは、今取材での長谷部監督と前選手の言葉からもよく分かる。
次回は、アビスパ福岡の城後寿選手と北島祐二選手に、今季のアビスパの戦いにおけるそれぞれの決断や覚悟、チームに対する思いなどを聞く。
(取材/文 對馬由佳理)