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「悔しい気持ちの方が大きかった」…日本一の瞬間に立ち会った東北福祉大下級生が臨んだ“負けられない”新人戦

「福祉は強くなきゃいけない。プライドを持って戦おう」――。第74回全日本大学野球選手権大会で7年ぶり4度目の優勝を果たした東北福祉大。歓喜の日から1週間後、仙台六大学野球春季新人戦でも盤石の戦いぶりを披露し、頂点に立った。新人戦に参加するのは1、2年生のためそのほとんどが大学選手権ではメンバー外だったが、日本一の大学の選手であることには変わりない。大会前に冒頭の言葉を共有し、王者のプライドを胸に臨んだ。

「やられっぱなし」だったライバルとチームメイトに

新人戦では「元甲子園球児」の活躍が目立った。準決勝の東北工業大戦では、甲子園を春夏計3度経験した新岡歩輝投手(2年=クラーク記念国際)が9回5安打9奪三振無失点で完封。決勝の東北学院大戦は昨夏の甲子園で登板した松倉汐音投手(1年=智辯和歌山)と櫻井椿稀投手(1年=鶴岡東)のリレーで無失点に抑えた。

決勝は五回まで両チーム無得点と手に汗握る攻防に。東北福祉大は六回に3点を先制すると、八回には松橋日々生外野手(2年=ノースアジア大明桜)の3点本塁打などで6点を奪い勝負を決めた。貴重な一発を放った松橋も高校3年の夏に聖地を踏んでいる。

優勝を決定づける本塁打をマークした松橋

本塁打の打席の直前、ネクストバッターズサークルにいた藤原天斗捕手(2年=八戸学院光星)から「頼むぞ」と声をかけられた。藤原はこの日、六回に飛び出した走者一掃の3点適時二塁打を含む3安打。「あいつが打ったなら俺も打たなきゃ」。気合いを入れ直してフルスイングすると、打球は右翼席へ飛び込んだ。

二人には甲子園での“因縁”がある。2年前の夏、八戸学院光星とノースアジア大明桜は初戦でぶつかり、八戸学院光星が快勝。この時、藤原は左翼を守る松橋の頭を越える3点本塁打を放った。春の東北大会でも藤原に同様の本塁打を浴びていただけに、松橋は「高校ではやられっぱなしでした」と頭をかく。

好リードと勝負強い打撃を披露した藤原

大学ではチームメイトになり、仲を深めた。今でも頻繁に当時の対戦を振り返るという。今回の新人戦では、藤原は準決勝、決勝ともにフル出場し、攻守にわたって勝利に貢献。対する松橋は大会前に調子を落として2試合連続で途中出場となったが、藤原の活躍を目にして奮い立ち、少ないチャンスをものにした。

「自分もここで」…スタンドから見つめた歓喜の輪

松橋は日本一の瞬間を明治神宮野球場のスタンドから見つめた。「単純にかっこいいなと…。自分もここで試合に出たいというモチベーションが高まりました」。刺激を受けると同時に、「これからは『日本一の福祉』という目で見られる。新人戦であれ絶対に負けられないと、気が引き締まる思いがしました」と責任感が芽生えた。

新人戦準決勝で完封勝利を挙げた新岡も、大学選手権では同じくスタンドでその瞬間を迎えた。1年秋にリーグ戦デビューを果たすも、今春は不調でベンチ入りがかなわず。「優勝して嬉しい気持ちでしたが、自分も一緒にグラウンドに立ちたかったという思いもありました。内心、悔しい気持ちの方が大きかったです」と本音を吐露する。

大学でも個性を磨き続けている新岡

高校時代に腕の高さを投球ごとに変える変則投法を確立。大学進学後も独自のスタイルを貫いており、新人戦でもあらゆる角度から140キロ前後の直球と5種類の変化球(スライダー、カットボール、チェンジアップ、ツーシーム、スプリット)を投げ分け打者を翻弄した。

大学選手権でも活躍した主戦の櫻井頼之介投手(4年=聖カタリナ学園)や堀越啓太投手(4年=花咲徳栄)は150キロを超える速球を武器に持つが、新岡は「自分はずっと上から放っても150キロは出ないので、リーグ戦で投げるなら変則枠だと思います」と言い切る。スタンドで味わった悔しさとその直後の好投を力に変え、最強投手陣に割って入るつもりだ。

松橋や新岡のほかにも、日本一を目の当たりにしてやる気がみなぎったり、焦燥感に駆られたりした選手は少なくない。部内競争がますます激化し、秋もまた強い東北福祉大が見られるだろう。

「打倒・東北福祉大」に燃える5大学の秋にも注目

今春の新人戦では東北学院大の奮闘も際立った。準決勝では仙台大との接戦を制し4対3で勝利。決勝は結果的に0対9と大敗を喫したものの、先発の澤橋晴人投手(2年=秋田中央)が5回途中無失点と好投し中盤までは接戦を演じた。

準決勝で同点打と決勝打をマークした小野洋一郎内野手(2年=東北)は「(仙台大は)間違いなく格上なので、雰囲気だけは負けないようにして臨みました」と胸を張った。塁上では雄叫びを上げガッツポーズ。謙虚な姿勢だが思いの強さは十二分に伝わった。

仙台大戦で2安打2打点と躍動した小野

1年春からリーグ戦の出場機会を得るも、右肩の故障で出遅れた今春は8打数無安打と結果を残せず。特に仙台大・佐藤幻瑛投手(3年=柏木農)の150キロ台中盤の直球には「手も足も出なかった」。新人戦に向けては「この球を打たなきゃいけない」と自身に言い聞かせ、打撃練習の際にマシンとの距離を近づけるなど速球対策に徹した。

この日の相手先発・今野一成投手(2年=古川学園)も初回の打席から150キロに迫る直球を投げ込んできた。それでも2打席目以降は対応し、練習の成果を発揮した。

「一緒に神宮に行こう」。星孝典監督のその言葉が決め手となり、高校の先輩のいない東北学院大を進学先に選んだ。全国の舞台に立つためには、現状「2強」とされる東北福祉大と仙台大を倒さなければならない。「打倒・東北福祉大」に燃える5大学もまた、一段と強くなって秋を迎えるはずだ。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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