白熱する硬式野球部VS準硬式野球部 東北学院大が“異例”のオープン戦「特有の良い文化にしたい」

ボールは違えど、同じ野球――。7月6日、東北学院大の硬式野球部と準硬式野球部によるオープン戦が行われた。岸孝之投手(現・楽天)ら複数のプロ野球選手を輩出している硬式野球部と、全国常連で全国優勝1回、準優勝7回の実績を持つ準硬式野球部。これまで交わることのなかった歴史ある両部の対戦が昨年初めて実現し、今年も開催された。全国的に見ても珍しい取り組みを通じて得られるものとは。
準硬式・伏見善成監督の提案を機に、昨年から対戦が実現
両部のマッチアップは昨年、準硬式野球部の伏見善成監督が硬式野球部の星孝典監督に話を持ちかけ、星監督が快諾したことで実現した。伏見監督は「全国大会で上を目指す上で、レベルの高い硬式の選手の強い打球を体感してもらいたいと思い申し込んだ」と意図を明かし、「こういう機会はなかなかないので、気持ちよく受けていただいた星監督には感謝、感謝です」と謝意を示す。
星監督も「同じ学校の部活同士で対戦することに意味があるし、協力し合って切磋琢磨すれば双方のメリットになる」と歓迎。また硬式野球部の選手たちには「もちろんどちらが上、下というのはないですが、硬式、準硬式、軟式がある中で硬式を選んだ決意をもう一度確認してほしい」と期待している。

一方、「準硬式の良さを知って準硬式の方が合っていると思えば移るのもありだと思う。実際に移った選手もいますが、硬式で挫折しても準硬式で続けてくれるのは嬉しいですよね」とも話す。同じ大学とはいえ、部が違えば野球の戦術もベンチの雰囲気も異なる。真剣勝負を交えながら互いの良さを知る貴重な機会とも言えるだろう。
試合は守備側のボールを使用する形式で実施した(硬式野球部の攻撃時は準硬式球、準硬式野球部の攻撃時は硬式球)。星監督が「レクリエーションにはしたくない」と話すように、オープン戦とはいえ真剣勝負。昨年は硬式野球部が7対3で逆転勝ち、ダブルヘッダーの今年は第1試合は準硬式野球部が8対5、第2試合は硬式野球部が4対2で勝利と、互角の戦いを繰り広げている。
甲子園のマウンドに上がった右腕が準硬式を選んだ理由
準硬式野球部には近年、宮城の高校野球で名を馳せた選手が続々と入部している。今年の1年生の代表格は昨夏の甲子園を経験した長身右腕・千葉桜太投手(1年=聖和学園)。エースナンバーを背負った昨夏は甲子園初戦の石橋戦で救援登板し、チームが初戦敗退を喫する中で5回1失点と力投した。
大学では1年春のリーグ戦から出場機会を得ており、硬式野球部とのオープン戦は第1試合の8、9回に登板。パーフェクト投球で打者6人を抑えて勝利を呼び込み、「ボールは違うけど同じスポーツなので、相手に対する敬意を持って試合に臨んだ。ストライク先行でいけたのは良かったですが、もっとコントロールの精度を上げないと全国では通用しないとも感じました」と冷静に振り返った。

甲子園では届かなかった「日本一」にこだわり、東北屈指の強さを誇る東北学院大の準硬式野球部を進路先に選んだ。「自分の野球人生は大学で最後。日本一を獲って終わりたいという思いで入部を希望しました」。硬式野球を継続する選択肢も残された中、覚悟を決めて新たな道を歩み始めた。
千葉は「甲子園に行って夢を叶えたというよりは、親をはじめとする自分を支えてくれた方々への感謝の気持ちが湧いてきた。その人たちに恩返しをするために日本一を獲りたい」とも口にする。ルーキーだが悠長に構えるつもりはない。来月に控える全日本大学準硬式野球選手権大会に向け、課題と向き合う日々を送る。
練習量少なくても成長、学業との両立で充実する日々
第1試合で途中出場ながら決勝適時打含む3打点をマークした同じくルーキーの熊坂勇星外野手(1年=仙台商)は、高校時代は中軸を担い安打を量産した左の好打者。試合後は「試合をやるからには勝つという意識だったので勝利に貢献できたのは良かった。来月の全国大会に向け弾みがついたと思います」と手応えを語った一方、「準硬式にはいないような選手がたくさんいた。打球の質も投手のレベルも全然違う」と個の能力の高さに舌を巻いた。

野球と学業の両立を図るため、硬式野球部と比べると練習量の少ない準硬式野球部を選択。野球は土日の全体練習がメインで、平日は学業に重きを置いている。熊坂は「授業に出て課題もこなしながら土日は野球に専念。限られた時間の中でも技術を伸ばすことができています」と充実感をにじませる。
仙台商は昨夏、宮城大会で13年ぶりの4強入り。ともに戦った同期の郷家璃久内野手(東北工業大)や作田光哉投手(東北学院大)は大学で硬式野球を継続している。「郷家が新人戦に出て活躍する姿を見たり、高校の最後にケガをして悔しい思いをした作田が大学で楽しくやれているのを聞いたりすると、自分も感化されます」。舞台こそ異なるものの、かつての仲間に刺激を受けながら、熊坂は自ら選んだ準硬式野球の道で輝いてみせる。
硬式主将が見せた意地「夏の期間のモチベーションに」
硬式野球部の主将・田村虎河捕手(4年=駒大苫小牧)は「硬式の大学の選手以上にバッターが振れていて、対応力も高かった。ベンチの雰囲気の良さも見習いたいです」と相手を称賛。試合に向けては「プライドというか、絶対に負けたくない思いは対戦が決まった時からずっとありました」と気合い十分で、第1試合では5回に走者一掃の3点適時三塁打を放ち意地を見せた。
「去年から夏の期間のモチベーションになっています。毎年続けて学院特有の良い文化にして、お互いに強くなりたいです」。単なる交流の場ではなく、互いを高め合う機会にしようと、選手たちも意気込んでいる。

硬式野球部にとっては、直近で今夏のモチベーションがさらに上がる出来事があった。仙台六大学野球リーグで戦う東北福祉大の全日本大学野球選手権大会優勝だ。「日本一の大学と戦うのが楽しみ。壁を打ち破れるよう、夏の期間はより一層厳しく野球に取り組みます」と田村。秋に向け闘志を燃やす硬式野球部と日本一を狙う準硬式野球部の、熱い夏が加速する。
(取材・文・写真 川浪康太郎)