高校名は「関係ない」 東北学院大で進化遂げた石川岳人&井上裕策が臨む大学ラストイヤー
仙台六大学野球春季リーグ戦は13日に開幕する。昨秋4位からの巻き返しを図る東北学院大は第2節が行われる20日に初戦を迎える。今オフは小野涼介投手(1年=一関学院)、伊藤達也外野手(1年=仙台育英)ら甲子園経験者を含む有望な1年生が加わり、ポジション争いが激化。そんな中、チームの浮上に欠かせないのが、リーグ戦での実績が豊富な4年生の存在だ。大学ラストイヤーに臨むキーマン二人に話を聞いた。
エース候補の左腕「自分のピッチングを」
最速143キロ左腕の石川岳人投手(4年=石巻西)は、投手陣の柱としての期待を背負う。速球とスライダー、カットボールなどの鋭い変化球を武器に、1年春からリーグ戦に登板。昨年は先発ローテーションの一角を担い、春は19回3分の1を投げて3勝、防御率1.39、20奪三振、秋は27回3分の2を投げて1勝、防御率3.25、29奪三振をマークした。
数字上は春の方が良く見えるが、本人いわく春は「理想のピッチングとはかけ離れていた」。24与四球、与四球率11.17と制球難に苦しんだのがそう振り返る理由だ。投球の際、左膝が一塁側に倒れる癖があったため、夏の期間に軸足の使い方を改善。その結果秋は15与四球、与四球率4.88と課題だった数字が大きく良化した。
新チームの投手陣は、昨年まで絶対的エースだった古谷龍之介投手(現・JR東日本)が抜ける。石川は「東北福祉大、仙台大に唯一立ち向かえると言ってもいいピッチャーがいなくなった。焦りとか不安とか、『自分がエースにならないといけない』という考えもあったんですけど、最近はそういう気負いがマイナスに働き始めていると感じています」と冷静に現状を見つめ、「チームを勝たせるため、おごらず、自分は自分のピッチングをする」と気を引き締める。
堅守の三塁手が「迷い」捨て打撃改造
野手陣では、2年春から三塁の定位置を守っている井上裕策内野手(4年=仙台南)が攻守でチームを牽引する。「取れるアウトを確実にアウトにする」ことを心がけた堅守が最大の魅力で、10試合に出場して無失策だった2年秋にはベストナインを受賞した。
一方、本人は「(昨年まで)バッティングに迷いが出てしまっていた」と打撃面の課題を感じている。クリーンアップに座るほどの打撃センスを持つ左打者だが、過去最高打率は昨秋の.257で3割を超えたことはない。殻を破るべく、今オフは打撃強化に努めた。
自らの足りない部分を補おうと、チームメイトの打撃を観察し、打者としてのタイプが違う選手に質問をぶつけた。中でも真逆のタイプだったのが、同期の右打者・三浦竜世内野手(4年=古川学園)。互いに打撃のコツを教え合うと相乗効果が生まれ、関東遠征ではそろって5割を超える打率をマークした。取材日だった3月下旬のオープン戦でも、井上は好機で2本の適時打を放ち、ほかにも右翼方向へ特大ファールを飛ばすなど好調ぶりをアピールしていた。「集大成」と位置づける今年はもう一皮むけた姿を見せてくれそうだ。
「明らかにレベルが違った」大学で台頭
仙台育英、鶴岡東、聖光学院…。東北学院大のメンバーの出身高校を見ると、甲子園に何度も出場している強豪私立校の名前が目に入る。高校時代から実績のある選手が成長を続けているのはもちろん、石川や井上のように甲子園出場経験のない公立校の出身者が主力選手として活躍する例も少なくない。
石川は中学時代に軟式野球の宮城県選抜に選ばれたこともあり、私立校から声がかかったものの、「強豪校で投げるビジョンが見えなかった。強豪校に行ってスタンドで応援するくらいなら、自分でプレーした方が楽しい」と考え地元・東松島市にある石巻西に進学した。高校では実際に1年春から公式戦に出場。当時から仙台六大学でプレーする将来を思い浮かべ、3年間、全体練習とは別に自ら考案した練習メニューにも取り組んでいた。
高校卒業後は希望通り、仙台六大学の加盟校である東北学院大へ。入部当初は「ノックを見ただけで明らかにレベルが違うと感じた。(試合に出るイメージは)すぐには浮かんでこなかった」とやや尻込みしながらも、早い段階からリーグ戦の登板機会を得た。
井上は仙台南で1年秋からレギュラーの座をつかんだ。コロナ禍で、受験勉強に専念するため退部する同期が続出する中、最後の夏まで野球を続けた。3年時に大会の中止が相次いだことで高校野球は「不完全燃焼」に終わり、大学での継続を決意。東北学院大ではやはりレベルの高さを目の当たりにした。1年時はノックで遊撃を守ったため、同じく遊撃手で甲子園を経験している小林三邦内野手(4年=鶴岡東)の守備に圧倒されたが、井上も食らいつき翌年にはその小林と三遊間を組むようになった。
「入った後にどうするか」で運命は変わる
大学野球において、強豪私立校出身者と公立校出身者で違いはあるのか。二人に聞いてみた。
「いくら弱い公立校で野球をやっていたとしても、結局は同じ大学生だし、同じ年代の人間。石巻管内の公立高校生は卒業後に野球を継続する選手が少ないので、大学でもやっていけるということを後輩たちにも感じてほしいです」(石川)
「関係ないと思っています。高校にシニア出身者と軟式出身者がいるように、入ってしまえば一緒で、入った後にどうするかが大事。自分の場合は、公立校では時間が限られていてできなかった練習を大学ではできて練習量を増やせているので、そういう環境もありがたく感じています」(井上)
高校の名前や過去の実績は関係なく競い合えるのが、大学野球の醍醐味の一つ。東北学院大の部内競争、そしてリーグ戦での戦いぶりに今年も注目だ。
(取材・文・写真 川浪康太郎)