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東京ヤクルトスワローズ ベースボールアカデミー 開校までの道のりと築く地域の野球活性化「大人になっても野球と長く触れ合える原点に」

NPBの球団の多くが、本拠地を置く地域の子どもたちに向けたアカデミーを展開している。

その一つが東京ヤクルトスワローズ。現在都内5つの区で開催し、地域の野球活性化に向けて工夫と努力を重ねている。

今回はスワローズのアカデミーを特集する。株式会社ヤクルト球団 スワローズアカデミー事業部の塙篤史事務局長と、住田尚都アカデミーコーチにお話を伺った。

(写真 / 文:白石怜平)

都内5地域で展開、元プロ選手もコーチとして在籍

「東京ヤクルトスワローズ ベースボールアカデミー」は22年の4月に開校した。

拠点は杉並区・渋谷区・港区・中央区・江戸川区の5区。コーチも指導経験が豊富なメンバーが揃っており、その中でも度会博文・村中恭兵の両コーチはかつてスワローズで活躍した元選手である。

かつて選手としても活躍した度会コーチ(写真上)と村中コーチ(同下)

アカデミーの理念としては「野球を通じ子どもたちの健やかな心身教育を」を掲げ、理念を支える3つの軸で構成されている。

それは、”楽しみながら野球の技術を学ぶ”・”健康で丈夫な体作りを目指す”・”礼儀、礼節などの人格形成教育”の3点。これらの実践を通じて、都内の野球人口をさらに発展させたい想いで設立した。

対象は幼児から小学6年生。幼児コース(年中・年長)と、小学生は2学年ごとで計4コースあり、各回週1回60分~80分で展開されている。

幼児から小学2年生までは野球を始める年代として「野球を通じて運動能力を向上させる」こと、3年生から6年生に向けては卒業後も長く活躍することを視野に入れた「怪我をしない」ための指導方針を定めている。

3つの軸を立ててアカデミー活動を行っている

道具は小学2年生までティーボールと専用バットを使用し、安全に野球を始められるようにしている。3年生から軟式ボールとバットの使用を始めるカリキュラムになっている。

現在は約400名の子どもたちが在籍し、毎週楽しさを織り交ぜながら野球そして体を動かすことを学んでいる。

小学校2年生まではティーボールを使用している

塙さんもコーチとともにグラウンドに入っている。各回の練習では、ボールを1球1球気持ちを込めて投げるなど、子どもたちと積極的にコミュニケーションを図っている。

「私は指導者ではないですが、安全に気を遣いながらコーチたちをサポートするとともに、楽しい空間づくりを心がけています」と意図を語った。

塙さんも指導に参加している

様々な連携を築き、念願の開校へ

開校から2年が経過したアカデミー。生徒数も順調に増え、拡大を見せている。ただ、立ち上げまでには長い時間をかけ、地域各所との連携が欠かせなかった。塙さんは、実現までの経緯について語った。

「以前から構想はありました。ただ、人的リソースや開催場所などの課題もあり、なかなか実現まで至らなかったんです。そんな中、球団のトップスポンサーでもあるオープンハウスさまにバックアップいただいて、開校することができました」

アカデミーの翌日に取材に応じていただいた塙さん(写真右)と住田コーチ(同左)

21年の春に準備室が設けられ、開校に向けた準備が本格的に始まった。その後は、東京をフランチャイズに置くチーム同士の協力も大きな力になった。

「動き出しから読売ジャイアンツさんに情報をいただいて、実際のスクール見学にも行かせてもらったんです。住田や川島峻、石附彩の3コーチは元々ジャイアンツアカデミーで指導経験があるので、両球団で交流しながら進めていきました。お互い東京に本拠地を置く球団なので、『協力して東京の野球人口を拡大していきましょう』という想いでやっています」(塙さん)

左から石附・住田・川島の3コーチ

最も大きな壁となったのがグラウンドの確保だった。通年かつ同じ場所・時間で開催できる場所を探すのは困難を極めた。住田コーチは当時のことをこう振り返った。

「都内各所のグラウンドに電話して、直接説明にも伺いました。区役所にプレゼンテーションしにも行きましたし、ひたすら足を運びましたね。

コーチたちとは『誰一人欠けても(開校)できなかったよね』と今でも話しています。今後もずっと語り合える、そんな時期でした」

自らも奔走し、開校まで実現することができた

準備室の設置から1年近くかけて港区・渋谷区・中央区の3拠点での実施が決まり、晴れて開校することができた。その後さらにもう1年かけて江戸川区と杉並区が加わって現在に至る。

「地域の協力なしにはできないものなので本当に感謝です」と塙さんは改めて述べた。

地域とも協力しながら運営を行っている

住田コーチが取り入れたメニューの工夫

住田コーチは、上述の通りジャイアンツアカデミーで指導者としてのキャリアをスタートさせた。専門学校時代から研修で参加しており、卒業後に正式にコーチに就任した。

今につながるコーチとしてのキャリアで欠かせない人物が一人いた。

「倉俣徹(現:巨人軍 野球振興部長)さんに一番お世話になりました。指導のノウハウや子どもたちとの接し方など、今につながる全てを教えてくださった方です。もう感謝してもしきれないくらいです」

21年にスワローズへ移籍したのも倉俣さんの力添えだったという。巨人での経験を基礎に、今も子どもたちの成長に寄与している。

今も生徒の成長に日々向き合っている

スワローズアカデミーの特徴の一つとして、必ず試合形式のメニューが組まれている。幼児コースでは打者がティースタンドで打って走り、守っているみんなで打球を追いかけ、小学生コースからはコーチが投手役を務めて、守備もつけて行っている。

これは住田コーチが導入したものだった。

「1・2年生でも毎回試合を入れるようにしました。これまで3回に1回試合を入れていたのですが、試合の時は特に子どもたちの目が輝くんですよね。

楽しそうに打って・守って・走って。レッスンが終わってからも上手くなろうと、自主的に残って練習しているんですよ。なので上達のスピードも速いと感じています」

毎度試合形式を導入している

渋谷校に取材に行った際、2年生ながら高学年に引けを取らない体格の子もおり、外野を大きく越えるホームランを打つパワーを見せた。

また、ヒットを打つと満面の笑みでコーチに語りかけ、一塁を守っていた度会コーチも「今のいいじゃん!」とハイタッチで迎えるシーンも見ることができた。

1塁で度会コーチが出迎える

「一人ひとりの成長を見ることができる仕事」

この4月で開校から2年が経過した。年中から入った生徒は小学生となり、1年生で入学した生徒は軟式球の使用を開始する年代に上がった。塙さんは2年間を振り返った。

「学年が上がってきて、生徒そして我々も積み上げができてきました。ここまで学んでもらいたいと考えていた部分を吸収してくれて、すんなり次の年次のカリキュラムにも順応してくれました。これからどう育っていくのかが本当に楽しみです」

子どもたちの成長を間近で見守っている

スタッフがグラウンドでコミュニケーションを図ってきた中で、保護者たちからも感謝の言葉も寄せられている。続けてこう明かした。

「入学時に年中だった子どもさんたちが、最初は賑やかったのですが、入学してから参加し続けることでコーチの話を聞いてくれるようになりました。

3年目に入って小学生になったのですが、コーチの話を聞けるようになったことを保護者の方がすごく喜んでくれました。我々も本当に嬉しかったですね」

コーチのたゆまぬ努力が子どもたちの成長に寄与している

また、住田コーチもやりがいについてこう話した。

「最初小さかった子が大きくなってできることが増えていくので、成長の過程を見れるのは一番嬉しいですよね。年中の子がまだ野球というのを知らずに入学して、そこからいろいろ理解して楽しくやってくれて、試合を観たりチームに入って続けている。一人ひとりの成長を見ることができる素敵な仕事だなと感じています」

子どもたちに野球の楽しさを教えている

3年目を迎え、今も日々子どもたちと向き合い野球の楽しさを伝えている。最後に塙さんにアカデミーの目指す未来像を話していただき、インタビューを締めた。

「我々は野球人口を増やしたいという想いが根本にあります。アカデミーをきっかけに野球を生涯スポーツにしてもらえたら嬉しいですね。プレーするのもいいですし、観戦でもいい。大人になっても野球と長く触れ合える原点になれるよう我々も努力していきます。

アカデミーをきっかけに長く野球に携わってほしい想いを抱いている

また、”東京”とチーム名に冠していますので、地域密着もアカデミーを通じてさらに図っていきたいです。地域に根を張りながら、行政・企業さんとも連携をより深めて発展させていきたいです」

時間と苦労をかけて立ち上がったスワローズベースボールアカデミー。その歴史をさらに創り上げることで、東京の野球を活性化させていく。

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