社会人・エナジック、阪神二軍に圧勝した先に見据えるのは都市対抗出場
エナジックは創部初となる都市対抗野球本戦への出場を目指している。
激戦の九州地区を勝ち抜いての東京ドーム行きはタフな道のりだが、チーム関係者には確かな手応えがある。今季から指揮を執る難波孝光監督とチーム在籍10年となる投手・山下星也が現状を語ってくれた。
「社会人選手は常に『NPB二軍には絶対に勝ちたい』と思っている。勝ったのは嬉しかったですが、ある意味では予定通りです」(難波監督)
エナジックは2月18日の阪神二軍とのオープン戦(沖縄・具志川野球場)に「8-2」で勝利を収めた。12安打を放った圧勝劇は球界を騒がせたが、「チームの成長度を考えると驚くことではありません」と同監督は振り返った。
エナジックは水関連製品の開発・販売会社で、野球部は2008年10月に沖縄・糸満市で発足、12年から同・名護市へ本拠地を移した。16年から昨年までは、オリックス等で活躍した石嶺和彦氏が監督を務めたことでも知られている。
~エナジックの浮き沈みを身を持って体験した上での監督就任
難波監督はチーム創設から7年間を選手として過ごした。チームを離れた時期もあったがスタッフとして復帰、昨年12月からは指揮を任されている。「(監督就任は)全く考えていませんでした」と語る同監督だが、いわば「エナジックの生き字引」と言える存在だ。
「チーム創設時に入団、7年間プレーして30歳を迎えた時に現役引退しました。大阪で一般企業に就職しましたが、『エナジックスポーツ高等学院を手伝って欲しい』ということで再度、沖縄に戻りました」
チーム刷新を図るための戦力外通告を受け現役引退を決意、大阪へ渡っていた。その後2021年12月にエナジックスポーツ高等学院が立ち上がった際に事務職員として戻ることになった。
「当初は高校の事務職員で野球とは関係ありませんでした。22年11月頃に『(野球の)社会人チームへ行ってくれ』と言われ、野球部長に着任した。当初はコーチ等の役割はせず、実務全般をこなしながら練習等を手伝う感じでした」
~営業職で培ったタイムマネージメント
野球部長として時間が経過するに連れ、コーチの役割も求められるようになった。当時のチームは雰囲気が決して良い状態ではなく、「何とかしたい」という思いが強かったという。
「僕の知っている中でも最悪な雰囲気でした。選手個々の能力は高かったので、部長時代から『勿体無い』と思っていました。コーチ業務に携わるようになって最初に手をつけたのがタイムマネージメントです」
大阪で携わった営業職経験から、時間の重視で効率が上がることを痛感しており野球部にも活かそうと考えた。
「練習メニューのみを決めていたのを、『このメニューを何時までに終了させる』としました。各自に任せつつも正確な終了時間を徹底させた。最初は時間に遅れることもありましたが少しずつ改善しました。練習効率が良くなっただけでなく、チームの雰囲気も良くなりました」
「昼からは各自の仕事があるので午前中しか野球ができない。限られた時間の中でやるべきことに集中することを大事にしました。惰性ではなくメニューの意味を考えるようになったように感じます。チーム内に活気が出て確実にレベルアップするのがわかりました」
~退部者が続出して心が折れそうになったこともある
投手最年長の山下はエナジックに野球人生を捧げてきた一人だ。宮崎県出身ながら高校卒業と同時に沖縄へ渡り、チームの勝利のためにマウンドに立ち続けてきた。
「沖縄へ来て10年以上ですから、今ではホームタウンだしエナジックの仲間は家族です。宮崎ものんびりしていますが、(沖縄は)別の意味でおおらかな場所。『いつになったら勝てるようになるのかな?』と感じた時もありました」
野球が大好きで都市対抗出場を夢見てエナジックへ入団した。しかし現実は厳しく、当初は野球だけに専念する状況でもなかったという。
「練習時間が短いのに戸惑いました。また午後からの社業では草刈りなど、かなりきつい肉体労働もあったのでコンディション調整も難しかった。有望選手が何人も辞めてしまい心が折れそうになった時もありました」
「チーム状況を見かねて、応援してくれる地元の方々が会社に掛け合ってくれたりもした。そういうことが積み重なりプレー環境も改善していきました。本当にありがたかったですし、そうやって支えてくれている人たちのためにも頑張りたいと思いました」
沖縄は多くのプロ選手を輩出する「野球どころ」だが、都市対抗出場へのハードルは高いものがある。しかしここへきて山下には確固たる自信が生まれ始めている。
「監督、コーチ陣が一新したことで実績ゼロからの再出発です。不透明な部分もありますが、逆に大きな勢いを生み出すことも可能です。短期決戦なので流れに乗ることが何より重要。雰囲気はすごく良いのでガチでチャンスだと感じています」
~半年弱の期間を短期ではなく長期と捉える
「客観的に判断してチーム力が上がったのは間違いないと思います」と難波監督は胸を張る。念願の都市対抗初出場へ向けて準備に余念がない。
「監督就任時に都市対抗出場へ向けたプランを立てました。パワーポイントで資料を作りチーム内で共有、徹底した。何をやるかを明確にして意味がわかった状態でやることが大事だと思いました。ここまでは順調に来ていると思います」
都市対抗沖縄県予選は4月末から始まるため、新体制となってから半年弱しか時間がない状態での準備となった。
「本音はもっと時間が欲しい。でも大会日程は決まっているので、そこへ合わせてできる限りの準備をしたいと思います。練習やオープン戦では1つずつ課題を持ち『4月の予選で最高の状態に持っていくのに今はこうする』とやっています」
「考え方次第で内容や取り組み方は変わるはずです。(予選が始まる)4月までは実際の時間は少なく短期ですが、それを長期と捉えプランを立てています。目先のことに拘りながら(=短期的)、4月の時点で完成する(=長期的)ようにしたい」
指導者としてエナジックに関わり始めた頃から重視しているタイムマネージメントが、ここにも活かされているようだ。
~諦めた部分も作りながら適材適所を見極める
「諦めた部分もあります」(難波監督)と取捨選択にも余念がない。戦い方を明確にして九州予選を勝ち抜く構えだ。
「できることに絞って戦っていこうと思います。練習時間も少ないので、『1試合に1回出るかどうか?』のプレーに時間を割くのではなく、当たり前のプレーを確実にできるようにしています」
「時間があれば腰を据えて選手育成もできます。実戦的な練習もできてさまざまな作戦も取り入れられます。でも現実的に時間は待ってはくれないので覚悟を決めました。勝てる確率を少しでも高めることに集中しています」
年明けから主力選手が体調を崩して調子が上がらないなど、予定が狂った部分もある。しかしその中で可能な限りの準備をして勝ち抜くことを目指す。
「イレギュラーな部分が出てくるのは想定内です。チーム内で大筋が決まっていれば、そこからの組み替えで対応もできるはず。我々、首脳陣が適材適所をしっかり見極めてやっていきたいです」
「強豪チーム関係者からもエナジックは要注意と言われるほど実力は上がっています」(山下)
「九州予選は沖縄開催です。チームに沖縄出身者も多いので応援の勢いに乗って東京ドームへ行きたいです」(難波監督)
チームの歴史を知り尽くしている2人は、大きな自信を胸に抱きつつ今年に賭けている。16年目の悲願に向け、エナジックの戦いが始まる。沖縄からの強烈な風が東京ドームへ向かって吹き始めるのはまもなくだ。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・エナジック)