スポーツの“文化”を作るのは選手だけではない 北海道イエロースターズが醸成する「境界線のない一体感

境界線のない一体感--。男子プロバレーボールチーム「北海道イエロースターズ」が思い描く理想だ。プロスポーツとあって、コートと客席の間に一線を引くチームも少なくない。だが、北海道イエロースターズは選手、ファン、スタッフ、スポンサーが一体となって「共創」する空間を追い求め、草の根活動に精を出している。
「日常生活に溶け込む」ための積極的な地域貢献活動
2016年に「サフィルヴァ北海道」としてチームが設立された当初から、地域貢献活動は積極的に行われていた。2023年に現チーム名の北海道イエロースターズに改称してからはより活発化。現在はオフシーズンのみならずシーズン中も月に2、3回ほどは活動に取り組むという。
具体的には、包括連携協定を締結している市町村でのバレーボール教室や学校訪問などを行う。地域の祭りなどのイベントに選手を派遣したり、合宿を実施したりすることもある。また昨年からは、ドライバーの目に留まりやすい、黄色の学童用傘を小学校に寄贈する「ハッピーイエロー・アンブレラ」と呼ばれるプロジェクトをスタートさせた。

「株式会社北海道イエロースターズ」の澤野佑介社長は、「境界線をなくすというのは、ゲーム(試合)に限った話ではありません。日常生活に北海道イエロースターズのバレーが溶け込むことを指しています」と話す。地域の人々にチームや選手を身近に感じてもらうのを目的とした活動だ。
澤野佑介社長が明かす「境界線をなくす」意図
澤野は「境界線をなくす」意図について次のように持論を展開する。
「スポーツビジネスを学ぶ中で、スポーツをする側とスポーツを見る側、支える側が分断されすぎていると感じました。我々はアスリートに無謬性や高潔性を求めがちですが、それを押しつけるのはナンセンスでむしろ寛容であるべき。(見る側、支える側が)愛さないと愛されないと思うんです」

バレーボール教室では選手は子どもとフランクに話し、ともに体を動かす。すると選手のことを好きになった子どもやその親が応援のため会場に足を運ぶようになる。そんな好循環が生まれており、昨年のホーム最終戦には「北ガスアリーナ札幌46」を埋める2000人以上の観客が駆けつけた。「分断」は徐々に解消されつつある。
郡浩也主将「交流の幅を広げて普及につなげていきたい」
選手もファンとの距離の近さを実感している。昨年から主将を務める郡浩也(こおり・ひろや)選手は「プロのようなカテゴリーの選手とファンが直接会って話す機会はなかなかないが、このチームではそれができる。選手もファンもお互いを身近な存在に感じられていると思います」と声を弾ませる。
そして距離の近さは選手にとってプラスに働く。「元気な子どもたちと一緒にバレーをするとエネルギーをもらえる。応援の力も大きい。北海道イエロースターズの人気や知名度は年々高まっていると感じますし、その中でプレーできることは幸せです」。実際、2023-24年はV.LEAGUE DIVISION2 MEN(男子2部リーグ)で優勝、2024-25年はV.LEAGUE MEN(SV.LEAGUEの男子セカンドディビジョン)で東地区優勝と結果を残している。

郡自身、中学までは野球をしていたが、高校1年生の頃にバレーボールを始めた。当時から身長が190cm近かったこともあって勧誘を受け、それを機に入部してからはバレーボール一筋。「6人全員が役割を果たさないと勝てないところが魅力」と語るように、始めたからこそ競技の面白さに気づいた。
しかし、幼少期はバレーボールを「テレビの世界」と認識していたという。プロ選手になってからは身近に感じられる環境を提供できているからこそ、「気軽に始めて上手くなれるスポーツなので、ぜひ子どもたちにトライしてもらいたい」と願う。今後に向けては「今は小中学生に教えるのがメインですが、(座った姿勢で行う)シッティングバレーボールという競技もあるので、いずれは体に障害のある子にも教えたい。交流の幅を広げて普及につなげていきたいです」とも力を込める。
「変化」続け強くなる北海道イエロースターズの挑戦
「北海道イエロースターズは変化するチーム。チーム名や親会社が変わりながら、どんどん強くなっている」。郡はチームの魅力についてそう口にする。
特に近年は変化が目まぐるしい。昨年9月からは経営基盤を強化するため武ダGEAD株式会社が親会社となり、さまざまな改革に着手してきた。同社から出向した澤野は「(前社長の)平野龍一のやってきたことを継承しながら、多くのヒト・モノ・カネのリソースを入れてより加速度的に進めていく」と意気込む。

「北海道イエロースターズを『文化』にしたい。その『文化』は、ホームゲームを運営する選手、ファン、スタッフ、スポンサーが一体となって築いていく」と澤野。2000人以上の観客が一体となって応援した前シーズンの最終戦、北海道の3月にもかかわらず会場は熱気に包まれ室内温度が上昇していた。「境界線のない一体感」は間違いなく醸成されてきている。
チームの直近の目標は、10月に開幕するV.LEAGUE MENで優勝すること。その先にあるSV.LEAGUEへの所属も揺るぎない目標だ。SV.LEAGUEはより注目度が高く、全試合配信されるため、ファン層の拡大が見込まれる。北海道のみならず、全国に北海道イエロースターズの「文化」を根付かせるための挑戦は続く。
(取材・記事 川浪康太郎/写真 北海道イエロースターズ提供)