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【第2回】日体大、37年ぶりの日本一! ~なるべくしてなった日本一~

日体大は、初戦、準決勝、決勝と試合を重ねるたびにどんどん強くなっていき、最後には無敵という言葉がふさわしいのではと思うまでになっていました。特に決勝は、選手がのびのびと野球をしているように感じました。選手起用は当たり、積極的な走塁など野球というスポーツで考えられるあらゆる戦術で観るものを楽しませながら、神宮大会という舞台で3試合14得点を叩きだし、失点はわずか1。

なぜ、こんなに強いチームとなったのでしょうか。
 

それぞれの役割を全うしなければ優勝はできない

11月15日、いよいよ決勝戦です。準決勝では大雨の中8回コールド勝ちし、北海道勢初の決勝進出となった星槎道都大(北海道二連盟代表)。初戦に大学初完封で注目を浴びた福田俊投手(横浜創学館・3年)が三戦連続の先発です。日体大は東妻勇輔投手(智辯和歌山・3年)が先発。前日とは打って変わって、気持ちのいい青空が広がっています。
 

北海道勢初の決勝、星槎道都大

初回から毎回ランナーを出す日体大でしたが、なかなか得点に結びつきません。星槎道都大は3回表にサードの送球エラーから初のランナーを出すも、大保優真内野手(旭川実・4年)の抜けたかと思われたライトへの鋭い打球を冨里優馬外野手(日体荏原・4年)がダイビングキャッチし、惜しくも得点はなりませんでした。この試合もまた、先制したのは日体大でした。5回裏、1死1塁で打席には船山貴大内野手(日大三・3年)。初球の直球をレフトスタンドへ運び、先制の2点本塁打となりました。
 

値千金のホームランを打った船山選手

福田投手はここで交代。得点には結びつきませんでしたが、このあと2死1,2塁からダブルスチールを成功させるなど、日体大は積極的に攻撃をしかけます。
 

リーグ戦では打席に立たない東妻投手もヒットを打つ

6回裏、2死1,3塁で坂本選手の打席、ここで日体大がまた仕掛けます。一塁ランナーがスタートを切り、キャッチャーは二塁へ送球、その間に三塁ランナーがホームに滑り込みます。3-0となり、その後両チーム得点がないまま9回表の星槎道都大の攻撃。初戦リリーフ登板したときとは違い、球速を抑えつつ打たせて取る投球でここまで2安打無失点の東妻投手、最後の打者がライト方向に打ち上げた打球を冨里選手がグラブにおさめ、日体大が37年ぶりの優勝を決めました。

抱き合って喜ぶ濱村和人主将と前川紀洋グランドマネージャー

試合後、グラウンドで行われた優勝監督インタビューでは、古城隆利監督が涙ぐみ声を震わせながら「スタンドにいるメンバー外の部員たちが、声を枯らして応援してくれました。昨日までは寒く冷たい雨の中でしたがグラウンドに声援を送ってくれて、本当に力になりました」と話しました。また、日体大の先輩で帝京大ラグビー部の岩出雅之監督が大学選手権8連覇の常勝軍団を作った背景にある“体育会イノベーション”に着目し、2年前から、上級生が雑用を進んでやり下級生が環境に早く順応できる状況を作り出すよう取り組んできたことに触れ「上級生が雑用をやってくれて、下級生が練習や大学生活に集中できるような環境を作ってくれたおかげです。上級生はしっかり人間性を持ってくれて、チームを引っ張ってくれました」と部員の努力を称えました。

スタンドのメンバーも共に戦った

ヒーローインタビューは船山選手と東妻投手でした。先制のホームランを打った船山選手は、「ヒットやホームランをたくさん打ってきたと思うが、今日のホームランを打ってどんな気持ちだったか」と聞かれ「ホームランは大学に入って2本目なのでたくさんは打っていません(笑)」と笑いを誘っていました。

2安打完封の東妻投手は涙を流しながら4年生への思いを語り、ライバルであり同志の松本航投手(明石商・3年)の名前もあげ「早く肩を並べられる投手になりたい」と話しました。また、まっすぐで素直な東妻投手、「雑用をするのが大変だなと思う時もあって」と正直に言っていたところになんだか好感が持てたと同時に、その経験がこの優勝に繋がったということを感じるインタビューでした。
 

4年生の濱村主将と3年生エース東妻投手

その後、囲み取材を受ける中で、古城監督が松本投手と東妻投手についてこのようにおっしゃっていました。

「松本は1年のときからエースを狙ってもらって、東妻は飛び道具的な使い方でした。いいときはいいけど…という感じだったので。去年松本が活躍して、それから新チームになってみんなに目標を書かせたとき、東妻が“打倒松本”と書いたんですよ。同じチームなのに打倒って(笑)。今年の春は東妻が良くて、でも松本は大学日本代表に選んでもらえて。お互い刺激しあっていますね」

そして、決勝打となる2点本塁打を打った船山選手については、

「一年間、公式戦でノーエラーなんですよね。6番、8番、9番辺りを打っている選手でしたが今は3番で使っていて、(神宮大会の)1戦目が高垣、2戦目は冨里が活躍して、あとは誰が活躍していないかなと思ったら船山で、活躍してくれましたね。信頼できるリーダーだと思っているので、チームリーダーとして期待しています」

と、来年もチームを引っ張っていく選手だとお話しされていました。古城監督は船山選手の話をするときに必ず“一年間公式戦ノーエラー”を強調されます。それは本当にすごいことですから何度もおっしゃるのもわかりますし、捕れる打球しか捕りにいかないからエラーをしないわけではなく、打球に対する反応が早く守備範囲も広い、スローイングまでの一連の動作がスムーズ、そんな大学トップレベルの正確で美しいショートの守備なんですよね。日体大日本一の理由のひとつであることは間違いありません。

次にお話を聞いたのは松本投手。初戦、準決勝と先発した松本投手は、この日も登板機会があればいつでもいけるように準備していました。

「点とられたらいくぞ、と言われていました。連投の疲れはありません。ハリはありますが、悪いハリではなくいいハリですね。日本一は実感がないです。4年生ではないので、これで一区切りついたなという気持ちにもなりませんし、まだ気が抜けていません。開会式で昨年優勝の明治大が(今年は神宮大会に出られなかったため)ひとりで返しに来た優勝旗を来年は全員で返しに来よう、と思っています」

対戦した打者も打てないと話す“伸びのある直球”を投げられるのはなぜか、という質問に対しては、

「140キロ前半でもバッターに速い印象を持たせるには? と考えています。投げるときは、キャッチャーのグローブのさらに奥に投げるというイメージです。あとは、指を鍛えるボールで鍛えています。オリックスの山岡投手や巨人の菅野投手がやっているのと同じものです」

との答えでした。この指を鍛えるボールというのは、“ウェイトボール”だと思われます。菅野投手は3kgのウェイトボールを使って、力強い直球が投げられるようになったとか。来年は、変化球をうまく交ぜて投球をパターン化しないようにしたい、と話していた松本投手。更なる進化が期待されます。

決勝のホームランを打った船山選手は、「エッサッサ」を初めて見た記者に質問攻めにあっており、丁寧に答えていました。

――エッサッサって練習するんですか?

「いえ、授業でやるので」

――え!体育の授業でやるんですか?野球部以外も?

「(体育大のため)ほとんど体育の授業です…1年生のときにセミナーで、集団行動とエッサッサを学生全員がやります。エッサッサは野球部だけではなく、大学全体でやるものです」

――へー、そうなんですか!みんなが履いている白いパンツは何か名前があるんですか?

「エッサパンです」

――エッサッサのパンツで?

「そうですね…(笑)」

選手自らエッサッサを説明しているのも珍しい光景でしたが、体育大なのに「体育の授業でやるんですか?」という質問を受け「ほとんど体育の授業です」と軽くツッコむところや、その後「日本一になったので今度は追われる立場ですね」と言われて「1回なっただけなのでまだ追われる感じは…」と答える様子は、船山選手の人柄の好さを感じました。
 

スタンドで共に戦ってきた応援団長

 

改革を恐れず、部内競争を激しく

監督、コーチなど指導者の力はもちろん、先に述べた“体育会イノベーション”も日体大が強くなった理由のひとつと考えられますが、他にもいくつか理由があるようです。日体大野球部は部員171人で1~3軍まであるそうですが、今大会のスタメンには一般受験で日体大に入学し、3軍から這い上がった選手がいます。それは、2番セカンドの坂本耕哉選手(松阪・4年)。セカンド守備は大学ナンバーワンと言っても過言ではない坂本選手。犠打をする場面も多く、かなりの成功率を誇ります。打撃の調子が上がらず昨年は2軍に落ちてしまったこともありましたが、そこからまた調子を上げ1軍に復帰しました。ちなみに、古城監督も大学時代、3軍から這い上がった選手だったそうです。
 

坂本耕哉選手は永和商事ウイングで硬式野球を続ける

また、今大会5番レフトに入っていた谷津鷹明選手(向上・4年)は向上高校の主将で1年生のときから期待されていましたが、2軍に落ちてしまった時期もありました。しかし、2年生の時に2軍の首位打者をとり、その後1軍で活躍するように。今大会も、関東大会から6試合連続でヒットを打っており、2塁打も多い打撃センス抜群の選手です。
 

谷津鷹明選手は独立リーグの栃木ゴールデンブレーブスへと進む

では、2軍、3軍の選手は、どうすれば1軍に上がれるのでしょうか。日体大では「日体リーグ」と呼ばれる育成リーグを毎朝6時30分から行っており、2軍4チームと3軍の選抜チームが参加します。2週間に1度、成績や練習への取り組みなどにより、1~3軍の入れ替えが行われるそうです。それを判断するのは、日々指導に当たっている学生コーチだそうですが、日体大の学生コーチは体育大学ならではの特色があります。日体大は体育の教員免許を取得できる大学であるため、将来は体育の教員を目指している学生も多くいます。野球部員も選手として上のステージを目指す者、野球の指導者を目指している者など、目標はさまざまです。

そのため、ある一定のところで目途をつけて学生コーチになり、指導者としてのスキルを磨く部員もいるとのこと。他の大学よりさらに目的が明確な学生コーチが存在すること、そして育成リーグで常にチャンスを感じられることが、競争意識を高め全体のレベルを上げていっているのでしょう。

古城監督はドラッガー「マネジメント」を参考にし、今の仕組みを作られたとおっしゃっていました。指導者も常に新しいことを勉強し続けなければなりませんが、古城監督はいろいろなところに足を運んだり、話を聞いたり、書籍を読んだりして、本当に多くのことを学ばれていると感じ、変化を恐れずそれを実践してきた結果が今に出ているとも思いました。また、選手が全力で戦えるようにサポートするスタッフの存在は、強いチーム作りに欠かせないものです。次回は、そんなスタッフに焦点を当てます。
 

【第1回】日体大、37年ぶりの日本一! ~優勝への序章~
【第3回】日体大、37年ぶりの日本一! ~強いチームを作るために変わらないことと変えたこと~

好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいと思い、OLを辞め北海道から上京。 「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦する生活を経て、気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターに。 大学野球、社会人野球を中心に、記者が少なく情報を手に入れづらい大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信することを目標とする。

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