熊谷蓮、佐藤大拓、伊藤理壱…昨秋計20登板の東北工業大硬式野球部新2年生トリオに注目
東北工業大硬式野球部は昨年、仙台六大学野球連盟のリーグ戦で春5位(宮城教育大と同率)、秋6位と苦戦した。リーグ戦の優勝からは1973年春以降遠ざかっており、Aクラス入り(3位以内)も直近10年で2回にとどまっている。特に秋は1勝しか挙げることができず、18得点(1試合平均1.63得点)、79失点(1試合平均7.18点)と投打ともに振るわなかった。
そんな中、秋は1年生投手3人の奮闘が際立った。リーグ戦11試合中、熊谷蓮投手(新2年=東陵)、佐藤大拓投手(新2年=仙台)は7試合、伊藤理壱投手(新2年=仙台城南)は6試合に登板し、台所事情の苦しい投手陣を支えたのだ。春季リーグ戦開幕を前に、今春も鍵を握ることとなりそうな3人に話を聞いた。
早期デビューの左腕は元プロコーチの助言受けさらなる高みへ
左腕の熊谷は昨秋、先発で3試合、中継ぎで4試合に登板。中継ぎで安定した投球を続けると、仙台大1回戦では先発し強力打線相手に6回3安打1失点と好投した。仙台大戦は最大の武器である直球が冴え、ストライク先行のテンポのいい投球が光るマウンドだった。「大学に入ってから一番いい投球だった。レベルの高い仙六で、『自分でもやっていけるんだ』と思えた」と手応えをつかんだ一戦を回顧する。
東陵時代は主に中継ぎで活躍。エースだった長峰颯太投手は東北福祉大、ともにブルペンを支えた高橋幸誠投手は東北学院大に進学し、同学年の投手陣から3人も「仙六」の門をたたくこととなった。進路選択の際に「1年生のうちから出場機会を得られる」ことを重視していた熊谷は、目論見通り1年春からリーグ戦のマウンドを踏んだ。長峰、高橋よりも早いデビューに、「東陵の卒業生の中で最初に試合に出たいと思っていたので、そこはうれしかった」と素直な胸の内を明かす。
春の登板で得た経験が、短期間での成長を後押しした。春はリーグ戦初先発となった宮城教育大2回戦で4回3分の1を投げ8失点と大乱調。この時、セットポジションでの投球に不安を感じたことから、秋は走者がいなくてもクイックモーションで投げる高校時代のスタイルに戻した。中継ぎをこなす中で徐々に感覚を取り戻し、自身2度目の先発を任された仙台大1回戦では本領を発揮することができた。
今オフはさらなる成長を目指し、新たにチームに加わった荻原満ヘッドコーチの指導を受けている。荻原コーチはプロ野球・巨人でプレーした経歴を持ち、また熊谷と同じ左投手とあって、教わることは多い。変化球の握りやマウンド捌きの極意、自らの投手としての癖など、聞けることは何でも聞いている。大学生活は残り3年。伸びしろは十分だ。
先発でも中継ぎでも、楽しみながら投げ続けた大学1年目
制球力と変化球に自信を持つ右腕・佐藤は、7試合中6試合が中継ぎ登板。防御率は2点台で、東北福祉大、東北学院大と強豪相手にも力投した。
高校では先発を任されることが多く、3年夏はエースナンバーを背負った。「マイペースな性格なので、試合の流れがある中で投げるのが難しかった」と振り返るように、慣れない中継ぎには戸惑いもあった。
それでも、登板するたびに経験値を積み、昨秋の最終登板となった東北大2回戦ではリーグ戦初先発を果たす。「気楽に投げられた」というマウンドで、5回3分の1を投げ3安打1失点と好投。1年目から先発も中継ぎも経験できたことは大きな財産となった。
「仙六」では、将来のドラフト候補と目される同学年の投手とも投げ合っている。特に150キロ以上の球を投じる東北福祉大・堀越啓太投手(新2年=花咲徳栄)、仙台大・渡邉一生投手(新2年=日本航空/BBCスカイホークス)らの存在については「すごすぎて、意識したくないです」と苦笑いを浮かべる。
その一方、上位校との対戦は「楽しかったのが一番」だったといい、またトップレベルの投手たちからは間違いなく大きな刺激を受けた。春に向けては、現状最速130キロ台の球速を、150キロとは言わずとも140キロ台中盤まで伸ばそうとフォームの試行錯誤を重ねている。今春はその名を何度コールされるのか。2年目の成長に期待がかかる。
守護神候補の右腕は雪辱の春へ気合十分
伊藤は先発、中継ぎ問わず上位校との対戦で何度も起用されたが、毎試合複数失点を喫する苦しいシーズンとなった。かつて脱臼したことのある右肩の痛みをかばいながらの登板だったこともあり、「体のメンテナンスがうまくいかなかった」と唇を噛む。
ただ、東北工業大投手陣の中で屈指のポテンシャルを持つのは事実。仙台城南では投手、内野手の両方で活躍し、投手としては高1の時点で球速140キロ、高3になると150キロを計測した。高3春にはブルペンで154キロを出したこともあったという。「自分の一番の強みであるまっすぐを磨きたい」との思いで、大学では投手に専念することとなった。
大学のリーグ戦では140キロ台を連発する一方、その球をいとも簡単にはじき返される場面も目立った。現実を受け止め、ど真ん中でも空振りを取れる直球を目指しつつ、「まっすぐを生かす」ため変化球の習得にも取り組んでいる。高校時代はカーブ、スライダー、フォークで勝負していたが、大学に入ってからツーシーム、シュート、縦スライダーを新たに取り入れた。
さらにこの冬は、筋トレと食トレで体重を昨秋と比べて約10キロ重い80キロまで増やした。球速を伸ばすというよりは1年通して投げられる体をつくることが目的で、調整不足だった昨秋の苦い経験を生かしている。
荻原コーチの提案で、今春は抑えを任される予定。抑えのポジションに挑戦するのは初めてだが、新たに習得した変化球でカウントを奪い、自慢の直球で三振を奪うイメージを頭に描きながら練習してきた。「大事な場面で抑えられるような投球をして、強みであるまっすぐをいろんな人に見てもらいたい」。最終回のマウンドに立つ伊藤の投球に注目だ。
(取材・文・写真 川浪康太郎)