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東北福祉大の次期エース候補・後藤凌寿が今秋成長中、女房役とともに歩むプロへの道

 仙台六大学野球秋季リーグ戦は残すところあと2節。春の王者・東北福祉大は開幕から6試合連続コールド勝ち、計58得点1失点と絶好調だ。

  今秋のドラフト候補に名前の挙がる杉澤龍外野手(4年=東北)、甲斐生海外野手(4年=九州国際大付)、坂根佑真投手(4年=天理)が猛アピールを続ける中、来秋のドラフト候補も存在感を示している。中でも成長著しいのが、最速150キロ右腕の後藤凌寿投手(3年=四日市商)。9月25日の東北大2回戦、今季3度目の先発マウンドに上がった後藤を取材した。

三重の県立高校からやってきた快速右腕

 後藤は三重県出身で、高校は地元の県立・四日市商でプレー。高校時代は投手と遊撃手を兼任し、投手としては3年次に145キロを計測した。県大会2回戦が最高成績で甲子園経験なしと実績こそ乏しいが、プロ入りを目指し東北の名門・東北福祉大に進学した。

東北大2回戦で6回無失点と好投した後藤

  大学では1年秋にリーグ戦デビューし、東北地区大学野球王座決定戦では1年生ながら2試合連続で救援登板。自己最速を更新する148キロをマークするなどし、富士大との決勝では1回2奪三振無失点の好投を披露した。2年から3年春にかけては故障の影響もありリーグ戦は2試合の登板にとどまったが、この秋チャンスが巡ってきた。

 今秋最初の登板は、開幕2戦目の東北工業大2回戦。リーグ戦初先発のマウンドで初回に三者連続三振を奪うと、3回にも三者連続三振。4回、48球を投げて走者を一人も出さないパーフェクトピッチングで、奪三振は8を数えた。宮城教育大2回戦では5回を投げ7奪三振無失点。この試合では自己最速を更新する150キロをたたき出した。ドラフトを見据えるには時期尚早かもしれないが、大器の片鱗を感じさせる投球が続いている。

変化球が使えるからこそ際立つストレート。目指すは「最速155キロ、常時150キロ」

 東北大2回戦では、序盤は変化球を多投した。持ち球は縦横のスライダーとフォーク、スローカーブ。カウント球として120~130キロ台のスライダーを有効的に使い、140キロ台中盤のストレートと時折投げる100キロ前後のスローカーブで相手打者のタイミングを外す。見事な投球の組み立てで隙を与えなかった。圧巻だったのは4回。この回はストレートの割合も増えたが、スライダーとのコンビネーションが冴え渡り、いずれも空振り三振で3アウトを取った。

 5回まで無失点に抑え、自身初となる6回のマウンドにも上がった。先頭の笹渕勇武外野手(4年=佼成学園)からはこの日最速タイの149キロストレートで見逃し三振を奪う。6回はストレートを多投し、その全てが145キロオーバー。最後は中丸宏平外野手(3年=佼成学園)を93キロのスローカーブで遊ゴロに打ち取り、6回3安打7奪三振無失点で「防御率0.00」を継続した。

背番号11をつける後藤。長身がマウンドに映える

 「これまではリリーフだったので1イニングで出し切る投球をしてきたが、先発はそれを毎イニング続けないといけない。5、6イニング目でも球速が出るようになったのは収穫」。先発投手として、球数が増えても球速が衰えないことに手応えを感じている。現在身長は183センチで、体重は春より約4キロ増えて81キロ。体重を増やしたことで体力面が強化され、結果につながった。

 一方で課題も明確になった。この日は1、2、3、6回に二死から四死球を与え、三者凡退は5回の1イニングだけ。「ポンポンと2アウトを取って、気が緩んでしまった」と振り返り、「次からは絶対にしない」と気を引き締めた。球速は「最速155キロ、常時150キロ」を目指しており、「変化球が良くてストレートで三振が取れて、遅いカーブもある」伊藤大海投手(北海道日本ハムファイターズ)を目標に掲げる。プロ入りの可能性を高めるため、まずは東北福祉大のエースの座を狙う。

「良さを引き出す」女房役・大井光来の信念

 今秋登板した3試合のうち2試合でスタメンマスクをかぶったのが、同級生の大井光来捕手(3年=鶴岡東)。チームには正捕手の戸高誠也捕手(4年=九州国際大付)らもいるが、後藤は「プライベートでも仲が良く、一番相性の良いキャッチャー」と大井に絶大な信頼を置いている。

 大井は「自分は目立たず、ピッチャーの良さを引き出す」キャッチャーを理想としている。後藤の良さについては「まっすぐが目立つが、変化球でカウントを取れるところや、器用なところが一番」と解説してくれた。東北大2回戦では、「気持ちの良いカウントでストレートを放らせられるよう、意識して組み立てている」と話す大井のリードも投球を助けた。

東北大2回戦で好リードを見せた大井

 1年次から間近で姿を見る中で、時に褒め、時に注意する関係性を築いてきた。1年秋にデビューした後は、後藤に「過信がある」と感じることもあったという。失投や気の抜けたプレーを目にした際は、「大事なところを任せてもらっている以上、その一球で負けたら僕らが後悔する」とブルペンで伝えた。後藤の良さを最大限に引き出したい思いがあるからこそ、覚悟を持って言葉を投げかけている。入学以降ともに怪我に悩まされる時期も長かったが、今秋に向けては毎日のように二人でブルペンに入り、対話を続けてきた。

まだまだいる東北福祉大のスター候補生

 来年ドラフトを控える3年生には、後藤以外にも逸材がズラリと名を連ねる。東北大2回戦では7回に浅野駿吾投手(3年=遠軽)が今季初登板。140キロ台中盤のストレートを武器にフライアウトを重ね、1回無失点と好投した。

 今秋は登板機会を得られていない選手の中にも、高校2年次に甲子園で活躍し大学でも2年秋から結果を残している北畑玲央投手(3年=佐久長聖)、今春にリーグ戦デビューした磯上航希投手(3年=日大東北)、佐々木繕貴投手(3年=古川学園)ら、速球が武器の右投手がそろっている。

東北大2回戦で今季初登板した浅野。投球からは気迫が伝わってくる

 野手では大井のほか、和田康平内野手(3年=埼玉栄)や竹中研人内野手(3年=駒大苫小牧)ら、恵まれた体格と長打力が魅力の選手がこの秋チャンスを与えられている。和田は東北大1回戦でリーグ戦初安打となる2点適時打を放ち、2回戦では5番に抜擢。竹中は東北大2回戦に代打で出場し、右翼席へ今季1号ソロを運んだ。投手、野手ともに伸び代のある選手が多く、気は早いが来年のドラフトも今から楽しみだ。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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