日本で初の本格的な「野球アナリスト養成講座」9月に開講

広尾晃のBaseball Diversity

これまで、スポーツビジネスの分野への就職といえば、スポーツマーケティングや、マネジメント、ファンサービス、あるいはトレーナー、医療スタッフなどが主流だったが、近年、競技をデータ分野で支える「スポーツアナリスト」という職業がクローズアップされている。

野球アナリストという新しい仕事

「アナリスト」とは「調査のスペシャリスト」ということだが「スポーツアナリスト」は、チームの勝利や、選手のパフォーマンスの向上のために、データ分野でサポートしたり、アドバイスするスタッフのことだ。

アナリスト部門が発達しているのは「野球」だ。野球はリーグ戦が前提で、多くのチーム、選手と対戦するから、対戦データも膨大なものになる。

かつては、それを選手本人やコーチ、スコアラーなどが分析していたが、現在は「アナリスト」という専門職が担うのが主流になっている。

野球の試合では膨大なデータが記録される

セイバーメトリクスの導入で急速に発展

アナリストがクローズアップされたのは「セイバーメトリクス」という、統計学的な手法で選手の特色や、作戦などがデータ化されたのが契機だ。

「セイバーメトリクス」は1970年代にビル・ジェームズという研究家が提唱したが、MLBは当初、全く注目していなかった。

しかし21世紀に入って、オークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGM(ゼネラルマネージャー)が、セイバーメトリクスの研究家を雇い入れて、選手起用や作戦を行って、小さな予算規模でリーグ優勝してから注目された。

セイバーメトリクスでは、打率、打点、勝利数、防御率のような従来の選手成績ではなく、出塁率、制球力のようなデータに注目し、これまで低い年俸に甘んじていた選手を主力にピックアップして、成功した。

アスレチックスの成功は「マネーボール」というドキュメントになり、ベストセラーになり、映画化もされた。

進化が著しい「データ野球」

アスレチックス以降、MLB球団では、セイバーメトリクスの専門家を雇用して「データ野球」を展開するようになる。 さらにMLBが弾道測定器「トラックマン」を基幹とするシステム「スタットキャスト」を導入して、全30球団の公式戦での投手の球速、回転数、変化量、打者の打球速度、角度などをオンタイムで公開したことで、データ野球は次の段階に入った。

投手は、より相手にとって打ちにくい球を投げるために、弾道計測器や高解像度カメラなどを使って、自分の投球フォームを分析し始めた。また打者も、スイングスピードを上げ、コンタクト率を高めるために、フォームを見直し始めた。 こうしたアスリートの動作解析をすることを「バイオメカニクス」と言うが、MLB球団では、この分野の専門家も雇用するようになる。

弾道測定器「トラックマン」

また球団ではなく、外部に「バイオメカニクス」を中心としたデータ解析を行う研究、トレーニング施設も設立されるようになった。

アメリカ西海岸にある「ドライブライン」は、多くの選手がフォーム改造に訪れ、MLBの野球に大きな影響力をもつようになっている。

ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平は、MLBに移籍する前から「データ野球」に強い関心を持っていたが、MLBに移籍後は「ドライブライン」で、投打のデータ解析を徹底的に行い、自らのパフォーマンスを向上させている。

また昨年、DeNAで活躍したトレバー・バウアーは同じく「ドライブライン」に通い、データに基づいて自らの投球を変革する「ピッチングデザイン」を行って投手最高の栄誉である「サイヤング賞」を獲得した。

NPBにはすでに60人以上のアナリストが勤務

21世紀以降MLBで起こった劇的な「データ革命」は、紆余曲折を経て、NPBの球団にも導入されている。

現在はNPB12球団で60人以上の「アナリスト」が勤務している。 彼らは、球団のトレーニング施設で投手、打者の動作解析を行い、アドバイスを行っている。選手の中には自分で「ラプソード」や「トラックマン」などの弾道測定器を購入して、自分のフォームをチェックして、パフォーマンスの向上に役立てようとしている選手もいる。

また、球団ではなく、トレーニング施設に勤務して、施設と契約した選手のデータを計測したり、アドバイスを行う業務に就く「アナリスト」もいる。

まだアマチュア野球のレベルでは「アナリスト」の進出は始まったばかりだが、今後は、高校、大学、社会人野球でも「アナリスト」の需要は高まって来ると思われる。

弾道測定器「ラプソード」

「スポーツアナリスト養成講座(野球編)」の特色

総合学園ヒューマンアカデミーが今年9月に開講する「スポーツアナリスト養成講座(野球編)」は、日本初の野球アナリストに特化した講座だ。本格的な野球界に高まりつつあるニーズに対応して、スポーツアナリストの養成を目標としている。

特色は

1.野球特化超実践カリキュラム アナリストに求められる知識やスキルは競技ごとに異なる。野球に特化したカリキュラムで「現場で本当に必要」な知識とスキルを習得。

2.最強講師陣集結 プロ野球界で活躍する現役アナリスト講師を始めとした最強講師陣が直接指導!常に変化する現場のニーズをリアルタイムで学ぶことが出来る。

3.現場に直結!インターンシップ紹介制度 プロ野球チームやトライアウトリーグご協力のもと、希望者にはインターンシップの紹介を行う。 となっている。

打撃データの計測(2022年ジャパンウィンターリーグ)

各分野のトップレベルの専門家が揃う

講座全体を監修するのは、弾道測定器「トラックマン」の野球部門責任者の星川太輔氏。 慶應義塾大学出身の星川氏は、日本初の本格的なスポーツデータ解析企業である「データスタジアム」で、アナリストとして活躍。

2009年の第2回WBC(ワールドベースボールクラシック)では、アナリストとして「侍ジャパン」に帯同してサポートした。

また、2023年の第5回WBCでは「トラックマン」のアナリストとして、ダルビッシュ有、大谷翔平、山本由伸などの選手の投球、打球を計測してアドバイスを行った。

講師陣には、競技者のパフォーマンスを伸ばすトレーナーの山田京介氏、動作解析の藤井透氏、データ分析、プログラミングの川越隆裕氏、バイオメカニクスの永見智行氏、バットスイングのトラッキングデータを担う中田真之氏など。現役NPB球団アナリスト協力のもと、各分野のトップレベルの専門家が揃っている(講師は予定)。

スポーツ最先端の現場は、日進月歩で進化している。今、プロ野球の現場に求められているのは「単に計測してデータが出せる人」ではなく、その数字をもとに「どんな有益なアドバイスを選手にすることができるか」であり、単に知識や機器の操作法を学ぶだけではなく「分析力」「伝える力」「企画力」なども求められる。

大きなチャンスがあります

星川太輔氏

星川太輔氏は語る。

「本講座は、年代男女問わずいろんな方に受講して頂きたいと思います。

単純に野球をもっと知りたい方、野球部や所属している野球チームに貢献したい方、将来野球にかかわる仕事をしたいと思っている方など。もちろん女性でも大丈夫です。いまはNPB球団でも女性アナリストの方がいる時代です。

通常の生活や野球チームの現場では、実際にトラッキング数値を計測し選手にフィードバックする実践体験ができる機会はなかなかないと思いますし、現在第一線で活躍する人に会って話を聞けるチャンスは大変希少です。

これからはNPBだけでなく社会人や独立リーグなどでもアナリストのニーズが間違いなく高くなってきます。アナリストを持つアマチュアのチームはまだ少ないですがこれからは確実に増えます。

そういった現場のニーズに対応できる人材を供給する為に必要最低限の知識や経験を提供します。

ある意味みなさんは事実上1期生ですので1番チャンスがあります。僕みたいに野球が下手でも野球に携わる仕事に就けるかもしれません。同じ志をもつ仲間と研鑽しませんか。 勇気あるみなさんの応募をお待ちしています」

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