障がい者と健常者が一緒に楽しめるパラスポーツ 卓球バレー 三上善子さん

誰でも楽しめる日本発祥の卓球バレー

イスに座った選手が卓球台を囲み、音が出るボールを板で転がし合うパラスポーツ「卓球バレー」。はじめて名称を聞いた時、「卓球台でバレーをするの?」とスポーツをする映像を想像することができなかった。そこで兵庫県卓球バレー協会会長 三上善子さんに伺った。

「卓球バレーは日本発祥のパラスポーツ。1970年代に大阪の養護学校で筋ジストロフィー(※)の子供たちのリハビリとして始まりました。最初は『ボールをゴロゴロ転がす』ので『ゴロ卓球』と呼ばれていたそうです。それが少しずつルール整備されて『卓球バレー』という名前になりました。そして2008年に卓球バレー競技の啓発・普及のため『日本卓球バレー連盟」が設立。そこで私たちの兵庫県卓球バレー協会も一緒に活動させてもらっています」

※筋ジストロフィーとは、筋線維の破壊・変性(筋壊死)と再生を繰り返しながら、次第に筋萎縮と筋力低下が進行していく遺伝性筋疾患の総称。

卓球バレーは、卓球台を利用し6人制バレーボールを基本とした団体競技。得点はラリーポイント制。バレーボールと同じように、「3打以内で相手コートにボールを返す」。使用ボールは卓球のボールと同じ形状で「サウンドボール」と呼ばれる。ただ卓球ボールと違い、中に金属片が入っており、転がると音が出る。

また卓球と大きく異なる点は「ネットを卓球台から5.7cm離す点」だ。通常の卓球のようにボールがネットの上を往復するのではなく、卓球台とネットの間、ネットの下を転がす。30cm×10cmの専用ラケットでボールを打つ。ボールから音が出るので視覚障がい者も一緒に楽しめる競技だ。

「ゲームセンターやボウリング場に置いてあるエアホッケーのような競技ですね。1チーム6人、12人同時に楽しめます。1セット15点、3セットマッチ。先に2セット先取したチームの勝ち。卓球台をイスや車イスで囲み楽しむパラスポーツです」

イスに座りながらプレイするスポーツ。審判員としての顔を持つ三上さんは一番ファールを取られやすいのが「椅子からお尻が離れること」だと。

「審判は卓球台の上だけではなく、競技者がイスから離れるかどうかも注意して見る必要があるのです。興奮してイスからお尻が離れるとファールになり、相手のポイント獲得になります。卓球バレーはボールのスピードが速いスポーツ。主審と副審でポイントだけでなく、選手にファールがないように集中してジャッジします。12人の選手を2人の審判員で見るので大変です(笑)」

昨年11月、兵庫県加古川市で「第1回アザレア杯卓球バレー交流大会」が開催された。参加者は最年少が3歳、最高齢が85歳と幅広い年齢層。健常者から車いす利用者、視覚障がい者、聴覚障がい者、知的障がい者の方々が250名以上集まった。

「卓球バレーはルールもシンプルで分かりやすい。ですから参加しやすいスポーツ。一回体験するとハマる人が多いんです」

兵庫県卓球バレー協会会長 三上善子は審判員や競技者としても卓球バレーを楽しむ

兵庫県卓球バレー協会会長 三上善子

卓球バレーを広めるべく活動する三上さんは、どのような経緯で競技に出会ったのだろうか?

「兵庫県の障がい者スポーツ初級指導員を6年前の2017年に取得しました。その時の研修の種目に卓球バレーがありました。それまで見たことも聞いたこともない種目でしたが、体験したら楽しい競技だったのです。『この競技を広めたい』と思い、地元加古川のスポーツクラブで始めました」

そして三上さんは2019年に「兵庫県卓球バレー協会」を設立した。

東日本大震災の時、体育館で卓球バレーを楽しんでいる被災者のニュースを見たことがある。

「大分に『太陽の家』という就労施設があります。この施設の職員だった堀川裕二さん。震災時に岩手の方から『体育館に避難し自宅に戻ることもままならない。好きな時にお風呂にも入れない状況。気が紛れるように、なにかできるスポーツはないか?』と相談を受け、堀川さんが岩手をはじめ被災地域に卓球バレーの道具を持って行きました。卓球バレーは卓球台がなくてもテーブルをつなげて楽しむことができます。何にもない場所で会議用のテーブルを6枚合わせて、周りにイスを設置。座って楽しむスポーツなので汗もかきません。ルールも簡単、知らない人同士でチームを作り、和気あいあいと楽しむことができる。この時の堀川さんの取り組みがニュース記事に取り上げられました」

現在も岩手では卓球バレーが親しまれている。大会を開催すると約40チームが集まるそうだ。

卓球台の代わりに会議用のテーブルでも楽しむことができる卓球バレー

兵庫県卓球バレー協会会長・三上さんの今後の目標

三上さんは各地の学校や施設訪問をし、卓球バレーを知ってもらうことで地域を繋ぎ、楽しさを伝えていきたいと話す。

「卓球バレーの競技人口も増えています。私自身も卓球バレーを競技者として楽しんでいます。卓球バレーの魅力は障がい者も健常者も一緒に楽しめる。そして幅広い年齢層が楽しめるという点ですね。イスに座って板を持ってボールを転がすだけのスポーツなので身体を動かすのが苦手な方も楽しめます。パラスポーツでも観戦するのが楽しい競技と、自分で競技に参加して楽しむスポーツに分けられます。例えば車いすバスケットは一つのボールを持ち、車輪を動かし激しいぶつかり合いが魅力のスポーツ。私も観戦するのが大好きです。ただ『競技』として捉えた場合、誰でもすぐに試合をして楽しむには難しいスポーツ。卓球バレーは『誰でもすぐに取り組めるスポーツ』です。私も競技者として楽しみますし、はじめて卓球バレーに触れた方から『次いつあるの?』と声をかけられることも少なくありません。この競技の素晴らしさを伝えることが、私の生きがいです」

昨年に引き続き、今年11月に兵庫県加古川市では「第2回アザレア杯卓球バレー交流大会」が予定されている。

国際社会共通の目標として持続可能な開発目標(SDGs)が掲げられている。健常者にとって障がい者の苦労は理解しにくい。しかし想像することはできる。スポーツを通じて障がい者に触れることで少しでも彼らを理解してほしい。
(おわり)

(取材・文/大楽 聡詞 写真/本人提供)

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