東北で女子硬式野球の「アイリスオーヤマ杯」初開催 元侍ジャパン女子代表監督率いる履正社が初代王者に
4月27、28日、白石市益岡公園野球場、アステムチャレンジスタジアム(柴田球場)、角田市野球場の3会場(いずれも宮城県)で「第1回アイリスオーヤマ杯女子硬式野球交流大会」が開催された。仙台大女子硬式野球部などからなる実行委員会が主催。女子硬式野球の普及や地域活性化に貢献することを目的に初めて実施した。
第1回大会には仙台大のほか、履正社(大阪)、花巻東(岩手)、惺山(山形)、盛岡誠桜(岩手)、秀明八千代(千葉)、岩瀬日大(茨城)、クラーク記念国際(宮城)、日本ウェルネス宮城(宮城)の高校8校と埼玉のクラブチーム「侍」の計10チームが参加。東北だけでなく全国から女子野球に打ち込む選手たちが集い、2日間にわたって熱戦を繰り広げた。
「女子野球ファンを東北に増やそう」
初代王者に輝いたのは全国屈指の強豪・履正社。準決勝まではいずれも接戦を制して勝利を重ね、決勝は仙台大相手に11対0と大勝した。決勝では各打者が安打を量産し打力を発揮した一方、2ランスクイズを成功させるなど走塁意識の高さも際立った。
主将の堀明日香投手(3年)は決勝の先発マウンドを託され、4回無安打無失点と好投。相手打線には若生彩杏内野手(2年)、真弓心外野手(2年)ら履正社OGの好打者が並んだが、「どこ(のコース)が強いとかはある程度分かっていたので、あえてそこで勝負して打たせて取るピッチングをしたりして、アウトを取りにいきました」と先輩たちに物怖じすることなく強気の投球を披露した。
小学1年生の頃、地元・広島で広島東洋カープの試合を観戦したことがきっかけで野球を始めた。当時と比べて女子野球の競技人口は大幅に増加している。堀は「先輩たちが築き上げてくれたものがあるから、こうして野球をできている。自分たちがもっと頑張ったら、今の小さい子たちにも広がるので、間にいる立場として頑張りたいという気持ちがあります」と思いを明かした。
今大会も優勝を目指すのはもちろん、「女子野球ファンを東北に増やそう」との意気込みを持って参加した。履正社は部員59人を抱える大所帯で、設備の充実したホームグラウンドを持つ。練習や試合はホームで十分に行えるため遠征の機会は少なく、東北遠征は今回が初めてだった。今後も履正社の野球を通して、女子野球の魅力を全国に広めていくつもりだ。
「まさか母校に…」履正社監督が感じた喜び
履正社の橘田恵監督は、特別な思いで決勝を戦っていた。橘田監督にとって仙台大は母校。仙台大では硬式野球部に所属し、男子選手と同じ練習をこなす日々を送った。
新人戦で仙台六大学リーグの女子選手で初となる公式戦デビューを果たし安打も記録するなど、選手として活躍したのち、指導者に転身。履正社は2014年の創部当時から率いている。17、18年には女子野球日本代表監督も務め、侍ジャパン女子をワールドカップ優勝に導いた。
まさに女子野球界のパイオニア的存在と言える橘田監督は「私が大学生の時、120人くらいいる男子に混じって毎日汗水流して野球をさせてもらったからこそ今がある。その中で、まさか母校に女子硬式野球部ができるなんて思ってもいなかったので、すごく感慨深いです」と笑みを浮かべた。創部2年目を迎えた仙台大女子硬式野球部の野球を目にするのはこの日が初めて。母校と戦える喜びを噛みしめながら采配を振るった。
女子野球の普及については「女子プロ野球ができたこと、女子野球日本代表が侍ジャパンに入ったこと、高校野球(全国高校女子硬式野球選手権大会)の決勝を甲子園でできるようになったことなどが大きな要因。地域とのコラボレーションを展開したり、企業さんが誘致してくださったりしていることも良い後押しになっている」と分析する。
「チームが増えると同時に、指導者やスタッフも必要になる。全力で女子野球をやってきた子たちがまた熱い気持ちで野球と携われる場所が増えて、新たな力も借りながら広がっていくのはうれしい」。現役時代、野球と携わりながら生き続けることは「夢の話」だと思っていた。それが現実になった今、橘田監督は常に全力で野球と、選手たちと向き合っている。
試合後に涙も…公式戦さながらの真剣勝負
今大会は単なるチーム間の交流にとどまらず、真剣勝負が展開された。敗戦後に悔しさから涙を流す選手も少なくなかった。秀明八千代の主将・藤崎珠好内野手(3年)はその一人。準決勝で履正社に敗れた直後、目を真っ赤にしながら取材に応じてくれた。
「勝負どころで打てなかった。自分たちが徹底してきたことはやれたのに結果を残せなくて悔しい」。3月に出場した全国高校女子硬式野球選抜大会は初戦で大敗。気持ちが落ちかけたが、今大会で履正社と初対戦できることをモチベーションに、全員で気合いを入れ直して練習に励んできた。それだけに悔しさは倍増した。
勝利には届かなかったものの、チームは3対5と善戦。2回に先制点を奪い、6回には橋本早季内野手(2年)の2点ランニング本塁打で1点差に迫るなど奮闘した。普段は全国大会でしか対戦する機会のない関西の強豪校と一戦を交えた経験は、必ずや今後に生きてくるはずだ。涙をぬぐった主将は「強いチームから吸収できるところは吸収して、より一層強くなりたい」と誓った。
東北では近年、高校の女子硬式野球部が続々と新設されており、直近では聖光学院(福島)で女子硬式野球部が発足した。さらに昨年創設された仙台大女子硬式野球部は東北地区で硬式野球を続ける女子選手の受け皿としての役割も担っており、東北全体での盛り上がりがますます増している。今大会のような東北以外の地域も巻き込んだ大会を開催できるのも強みの一つ。これからも様々な挑戦に取り組み、女子野球界全体の発展に貢献する。
(取材・文・写真 川浪康太郎)