今年の注目は誰だ!? 侍ジャパン社会人代表選考合宿

侍ジャパン。それは、各年代のトップ選手が日の丸をつけて世界と戦う誇り高き集団。

そんな侍ジャパンの社会人代表選考合宿が、3月16~18日の3日間、JR東日本野球部柏野球場で行われました。招集された候補者42名の中から、今年8月に開催される「第18回 アジア競技大会」の登録メンバー24名が決まります。

3日に渡って午前中は全体練習が行われ、16日・17日の2日間は午後からJR東日本との練習試合も行われました。代表候補となった42名の中には、昨年10月に行われた「第28回 BFA アジア選手権」優勝メンバーの他、同11月の「第43回 社会人野球日本選手権」で頭角を現した選手、また4月から社会人1年目となる選手も含まれており、個々の能力はもちろんチームとして戦ったときにどんな化学反応が起こるかも気になるところです。

16日は開催が危ぶまれるほどの強い雨が降りましたが、なんとか練習試合が行われました。グラウンドの状態も万全とは言えない中、自分の持ち味を最大限生かしてプレーする選手たち。特に指先の感覚が重要な投手にとっては、強い雨とぬかるむ足元だけではなく吐く息が白くなるほど低い気温の中の投球が心配ではありましたが、全くそれを感じさせない投手がいました。富山凌雅投手(九州国際大付高-トヨタ自動車・3年目)です。
 

ブルペンで投げる富山凌雅投手

昨年の社会人野球日本選手権の準決勝では8回3安打11三振無失点でチームを優勝へと導いた富山投手、その好投が社会人代表候補へと繋がったのでしょうか。この日も6人に対し、無安打4三振無失点と圧巻の投球を見せました。

富山投手の所属するトヨタ自動車では、過去何度も社会人代表に選ばれ今回も候補者の一人であるベテラン佐竹功年投手(早稲田大-トヨタ自動車・13年目)が投手陣の柱となっていましたが、佐竹投手に頼りきりではいけないと昨年は若手が大きく成長を見せました。富山投手もその一人で、近くで見られるブルペンでの投球を見てみると、まさに言葉の通り直球が“唸りを上げている”のを感じました。また、変化球もキレがあり特に落ちる球の変化が鋭く、空振りを取れるのも頷けます。侍ジャパンの大きな戦力となるのではないでしょうか。

この日の練習試合は15-9で社会人代表候補が勝利しましたが、9点をとった強豪JR東日本にもまだまだ力のある選手がたくさんいます。もしこのような試合で活躍した選手がいたとしたら、急に社会人代表に選ばれる可能性もあるのか? そんな疑問が湧きでてきました。しかし、この日の前日に行われたメディカルチェックを受けていない選手が選ばれることは絶対にないそうです。

 

与えられた場所で結果を出す

私も出演しているSHOWROOMで不定期配信中の「楽しみまSHOW!野球女士」という番組でひょんなことから応援するようになり、いつも優しい笑顔で視聴者へのコメントをくれる松本桃太郎選手(仙台大-Honda鈴鹿・2年目)は、この日3打数1安打2四球1打点の活躍。試合後、打撃の調子と挑戦しているレフトの守備について聞いてみました。

「打撃はいい感じできていると思います。今日も一本出ましたし、調子いいと思いますよ。守備は、自分のチームではサードで代表のときだけレフトですが、外野は内野と違って打った瞬間の球が見えなくて怖いです」
 

安打を放つ松本桃太郎選手

仙台大時代に仙台六大学リーグの最多安打記録を更新した松本選手はフルスイングが持ち味でしたが、社会人になってからわざと詰まらせた打球でポテンヒットを狙ったりと打撃の幅が広がりました。2年目の今年はどんな進化をするのか楽しみです。

そして、5回の守備からつき、1打席のチャンスでヒ安打を放ち存在感を見せた原澤健人選手(東洋大-SUBARU・1年目)はこの3月に大学を卒業したばかりです。入社前の今はアルバイトのような形で会社に行き、書類の整理などをしているのだとか。184cm、96kgという恵まれた体格で、見るからにスラッガータイプの原澤選手。ポテンシャルの高さはあるものの強豪東洋大ではなかなかレギュラー定着ができずにいましたが、最後の秋にその才能をいかんなく発揮しました。

この日は1打席のチャンスで結果を残した原澤健人選手

「明治神宮野球大会」では、一試合で2本塁打を放つなど大活躍。打席に立つだけで怖さを感じる選手へと成長。そして、まだ入社前のこの3月に社会人代表候補となったのです。

まずは、昨年の後半に安打数が急激に増えた要因について聞いてみました。

「試行錯誤を繰り返して、タイミングの取り方を変えました。あと、初球からどんどん打つようにしました」

神宮大会では一試合2本塁打も打っていましたね。優勝した日体大の好投手、松本航投手との対決も興味深かったです。チーム4安打のうちの1本、惜しくもアウトになった打球も大飛球でした。

「ホームランは打てて良かったですね。あの頃は調子が良かったので、好投手相手でも打てない球はファウルにして次の球、次の球と自分のコンディションに合わせて打つことができました」

まだ入社もしておらず、チームに合流して間もないこの時期に社会人代表選考合宿に招集ですがどう感じていますか。仲の良い選手はいるのでしょうか。

「東洋大の先輩の阿部(良亮 日本通運・4年目)さんや笹川(晃平 東京ガス・2年目)さんがいるので、いろいろお話してもらっています。決まってからも全然実感がなかったのですが、実際ここに来てみてすごい選手ばかりでやっと実感が出てきました。若手なので、イケイケでいこうと思っています」

体は大きくも心は優しい、そんな印象の原澤選手。こちらの質問にも優しい口調で答えてくれました。社会人野球でも、持ち前のパンチ力を見せつけて欲しいです。

 

責任と自覚を持つ

17日は、前日とうって変わって日差しの強い一日となりました。土曜日ということもあり観客も多かったこの日の練習試合は、6-7でJR東日本が勝利。序盤は相手先発投手の制球が定まらなかったこともあり、3回までで6得点の社会人代表候補でしたが、その後は得点できませんでした。また投手陣も課題の残る結果となりましたが、1アウト2、3塁のピンチを作るも後続をセカンドゴロと見逃し三振に抑え無失点で切り抜けた吉川峻平投手(関西大-パナソニック・2年目)と、4連打を浴びて1点を失うも回を跨いで5者連続奪三振とスタンドからどよめきが起きるピッチングをみせた高橋拓巳投手(桐蔭横浜大-日本生命・2年目)は、自分らしさをアピールできていたように感じました。
 

高橋拓巳投手は5者連続三振を奪った

この日の試合後も2選手にお話を聞きました。白鷗大時代は主将を務め、ショートの守備ではどんな打球も処理する名手、大きな声でチームを引っ張っていた堀米(ほりまい)潤平選手(白鷗大-東芝・3年目)は163cmと小柄な選手です。昨年よりもバットをかなり短く持っているように感じたので、まずはバッティングフォームについて聞いてみました。

「昨年のウィンターリーグから今のフォームになりました。小さくてボールがなかなか見えないので前かがみになって、バットを短く持って手元まで引きつけています。(構える前に体を大きく開いて右手を高く上げるのは)外野の方までよく見て、視野を広くしたいと思ってやっています」
 

視野を広くするため打席に立つと必ずこのポーズをする
そして極端にバットを短く持つ

守備にも定評がある堀米選手ですが、どんなことに気をつけていますか。

「一歩目を大事にしています。スタートを良くして、あとはシンプルに“第一に捕る”“第二に投げる”です」

今年で社会人3年目になりますが、この2年でどのような変化がありましたか。また、自チームや社会人代表チームでご自身をどのような位置づけと考えていますか。

「年々、責任と自覚が出てきています。見られている立場ですから、責任を持ってやらなければなりません。チームでは…1~9番まで選手がいて、ただのカレーライスができたとします。そこに調味料を加えてさらにアクセントをつけたい。その調味料の役割ができればと思っています」

今後はどんな選手になっていきたいですか。

「東芝のショートは堀米だ! と思ってもらえるように、安心感を与えたいと思います。また相手からの見られ方、第三者からの見られ方を意識して、責任感を持って過ごしていきたいと思います」

こちらの質問が中途半端になってしまったときも、言いたいことをくみ取ってくれて求めている以上の答えをくれた堀米選手。“責任”という言葉を何度も使い、野球選手であると同時に社会人であるという大事なことをしっかり意識して過ごしているのだな、と感じました。

もう一人は、笹川晃平選手(東洋大-東京ガス・2年目)です。主将も務めていた大学4年の秋には東都1部リーグで打率と本塁打で二冠、打点もリーグ2位の成績を残しました。何よりもどんな球にも臆せず飛び込んでいく外野守備が印象的で、フェンスに激突し肋骨を折りながらも試合に出続けたという逸話もあります。高校、大学でも4番を打ち続け、日本代表の経験も豊富。昨年の「第28回 BFA アジア選手権」でも4番を任され、優勝に貢献しました。
 

この日は安打こそなかったが、四球での出塁や犠牲フライで打点を稼ぐ

そんな笹川選手ですが、お話してみるととても穏やか…というよりふわっとしていると言ったらいいでしょうか。なんだかゆっくりとした平和な時間が流れていました。まずはガッツ溢れる守備について、あそこまで飛び込んでいくと怖さがないのか聞いてみました。

「いえ。野手にできるのは捕ることだけなので、とにかく捕れるのは捕ってあげたいという思いです」

どんなチームでもずっと4番を任されていることは、どう感じていますか。

「やっぱり光栄だと思っていますし、やりがいがあると思います」

大学生から社会人になって一年、社会人野球のレベルをどう感じましたか。また、笹川選手自身はどんな変化がありましたか。

「変化球のキレやコントロールが大学とは違うと感じました。自分自身は、気持ちの面でゆとりが持てるようになったと思います」

社会人代表候補で仲のいい選手はいますか。

「北村(祥治 トヨタ自動車・3年目)さんとか(佐藤)旭(東芝・4年目)さんとか、あとピッチャーには同級生が多いので」

今年はどんな目標を持っていますか。

「チームを勝たせたいです。去年は都市対抗も日本選手権も2回戦で負けてしまったので、チームを勝たせることのできる選手になりたいです」

たまに不思議くんな発言もありながら、野球のことになると明確に答えが出てくる笹川選手。今年もチームの柱として、社会人代表として躍動してくれるのではないかと期待が高まります。

「第18回 アジア競技大会」が行われるのは今年の8月から。今後の各大会での活躍も加味され、侍ジャパン社会人代表が決定します。昨年の「第28回 BFA アジア選手権」でも全勝優勝という圧倒的な強さを見せた侍ジャパン社会人代表、今年の8月はどんなメンバーでどんな戦いを見せてくれるのか今から楽しみです。
 


そんな社会人代表候補の選手たちも出場している大会が各地で行われていますので、まずは予習がてら球場に足を運んでみてはいかがでしょうか。そこでは常に全力で戦う、本気な大人たちの姿が見られます。

野球日本代表 侍ジャパンオフィシャルサイト

http://www.japan-baseball.jp/jp/team/amateur/

 

公益財団法人 日本野球連盟(JABA)

http://www.jaba.or.jp/

山本祐香
好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいとふと思い、OLを辞め北海道から上京。「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦。気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターとしても活動している。記者が少なく情報が届かない大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信する役割も担う。趣味は大学野球、社会人野球で逸材を見つける“仮想スカウティング”、面白いのに日の当たりづらいリーグや選手を太陽の下に引っ張り出すことを目標とする。

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