関西独立リーグ~プロとしての価値を高めるため試行錯誤を重ねる日々
関西独立リーグ(以下関西独立)の話題を見かけることは、ほとんどない。
「野球どころ」と言われる関西地方で10年以上継続しているリーグだが注目度は低い。野球レベルやプレー環境など現状では問題点も少なくない中、かつてNPBで名を馳せた2人が奮闘している。
06ブルズの谷口功一GMと桜井広大監督。
巨人、阪神というNPB屈指の名門でプレーした男たちは、現状に戸惑いながらも前進し続ける。
~「高校野球で言うと地区大会ベスト32レベルの野球」(谷口GM)
「NPBや社会人は当然として、独立でもルートインBCリーグ(以下BC)や四国アイランドリーグ(以下四国)にも行けなかった選手が集まっている」
プロとは名ばかりでレベルはかなり低い。今季から就任した谷口GMは厳しい言葉を交え現状を説明し始めた。
「例えるなら高校野球の地区予選ベスト36より下のイメージ。NPB一軍がベスト4以上で二軍がベスト8、独立や企業の強豪がベスト16で関西独立はもう1つ下のレベル。同じ独立でもBCや四国の控えや練習生が関西の主力と良い試合できるくらい。技術、フィジカル、メンタルなどトータル的に劣っている。あとは抽象的な言い方だけど育ってきた野球環境が違う。試合の進め方、勝ち方を知らない。ずるいことを含め野球の作法、経験値がなさ過ぎる。選手の出身校を見ると『何県のどこの学校?』という選手が多いのもわかる」(谷口GM)
日米、様々なレベルの野球を知る谷口GMにとって、関西独立のレベルは低く感じる以外なかった。天理高2年だった90年に夏の甲子園で全国制覇、91年ドラフト1位で巨人入団して西武、近鉄でもプレーした。プロ生活7年間で一軍登板なしに終わったが、その後もメジャーリーグを目指し米国独立リーグでも投げた。野球に対する意欲の高さと培った経験の豊富さは球界屈指だ。
~「すべてにおいて草野球レベルかと思った」(桜井監督)
「すべてが草野球かと思った。野球選手として何もできていないような状態なのに何も考えずやっている。信じられなかった」
現場の指揮を執る桜井監督は、プロには程遠い草野球とまで表現した。
「自分が知っている野球とは正反対。前監督が知人だったので『顔出して教えてやってくれ』と言われ初めて見た時に衝撃を受けた。技術面に関しては多少は感じる選手もいた。バットを振る力があったり当て感がある打者もいた。でも『本気で野球に向き合っているのかな?』と感じた。それがトータル的なレベルの低さにつながる。監督になってからはそれを受け入れるというか。合わせるというか。彼らの考えを1つずつ探るというか。そういう状況だから自分が望む野球をすぐにやるのは無理なので少しずつ動いている」(桜井監督)
桜井監督には見たことのない野球だった。PL学園高時代に高校通算26本塁打を放ち、01年ドラフト4位で阪神入団。プロ在籍10年で308試合出場225安打30本塁打116打点を記録する。11年限りで戦力外となるが四国・香川で2年間プレー、1年目にベストナイン、2年目に10本塁打59打点で二冠王を獲得した。現役引退後は独立リーグのコーチなどを経て今年から06ブルズ監督就任。野球の本道を歩んだ男が違和感を覚えたのも不思議ではなかった。
~「プロ野球」と言いながら選手は無報酬でバイトと平行してプレーする。
現在の関西独立は運営母体が変わった2代目リーグになる。初代は09年から13年まで『KANDOK』として愛称で存在した。当時の一部在籍球団が脱退する形で13年12月に『BASEBALL FIRST LEAGUE』として新たに立ち上げたリーグが現在につながる。20年の命名権契約で『さわかみ関西独立リーグ』という名称となった。
06ブルズは初代時代の12年のリーグ参入初年度からリーグ3連覇を果たす。リーグ母体こそ変わってはいるが独立球団としては10年目のシーズンを迎え老舗球団。しかし他球団同様、現在は選手報酬が発生していない。選手たちは蓄えた貯金を切り崩したり、バイトと並行するなどしてプレーしている。プロと呼ばれてはいるがNPB経験者にとっては信じられないような日常が存在する。
「親会社やスポンサーにお金を出してもらい野球をさせてもらっている。学生時代のように親(=自分側)がお金を出して野球をやっているのではない。だからこそ野球への姿勢だけは徹底させる。例えば、人のお金で野球をやっている選手がヒゲを生やしたり茶髪とかは考えられない。容認している球団もあるが、うちは禁止。そんな時間とお金があるなら野球をしろ。用具の1つでも買え。サプリメント摂取するなど自分に投資しろ。そしてグラウンドでは身体を張って野球をしろ。守れないならチームにいてもらっては困る。そこに関しては言い訳はさせない。独立もプロという位置付けなので慈善事業やサークル活動ではない」(谷口GM)
「選手は給料が出てレベルが高い球団やリーグへ行く。生活できてその先の可能性もあるから当然のこと。06ブルズは10年やってきて給料は出ないしNPBに行った選手がゼロ。誰からも『NPBになんて行けへんチーム。ここにいてもしょうがない』と思われている。それではアカン。独立リーグは球団数も増えて良い逸材の奪い合いになり始めているから、今のままでは先が見えている。GMの立場からすると『野球への取り組み方から…』という言葉が出るのはわかる。でも監督からすると結果がすべてだから良い選手も必要。それに良い選手がいればチームもリーグ自体の魅力も出ると思う」(桜井監督)
~リーグの価値を高めるためには所属選手の姿勢を変え、良い選手を獲得すること。
谷口GMは選手選考や契約にも携わっている。選手に対して給料が出ていなくても球団経営が苦しいのは百も承知。だからこそお金を出してくれる方々へ何かの形で還元することの重要性を説く。桜井監督は現場の立場から、良い選手を集め結果を出し魅力あるチームにすることが大事と考える。方法論は異なるが、両者とも関西独立の未来を本気で考えているからこそだ。
「上を死に物狂いで目指すか、野球を辞めるか。そこまで腹を括ってやって欲しい。野球への姿勢を徹底させるのはそのための一歩。本気にならないと今のままで終わる。ここのリーグにいるくらいで『オレはプロやねん』みたいな選手がいるのも事実。プロと言うけど自分の野球でお金を稼いでいない。プロ球団の活動場所に所属させてもらっているバイト、フリーターと同じ。チームやリーグが評価され野球でお金がもらえたら本当のプロ球団、プロ選手になれる。でも今は違う。そのために1人1人が野球に本気で取り組むことから始めさせる」(谷口GM)
「良い選手、志高い選手を獲得するのが大事。NPBから調査書が来るような本気でプロに行きたい選手。例えて言うなら阪神時代の金本知憲さんのようなチームを変えてくれる選手。1人いるだけで周囲に影響力がある。今のうちにとっての良い選手とは野球の技術が高い選手ではなく、志が高い選手。『今のままじゃダメ』と現状を許せなくなる人が1人でも増えれば変わる。そういった部分を自発的にやらないとその先が見えている。自分たちで変わって本物になって欲しい。そこはGMと同意見です」(桜井監督)
良い選手が1人でも増えればチーム全体に好影響を及ぼす。06ブルズだけでなく各チームそうなればリーグ全体のレベルが上がる。リーグ全体の評価が高まり各球団の経営が安定すれば、選手に対して給料を払えるようになる。上のカテゴリーを目指せる好素材が集まるようになる。関西独立をより魅力あるものにするための好循環を作り出す必要性がある。
~「無給で4-5年野球やるのは時間の無駄であって、全チーム全選手が1年勝負でやるべき」(谷口GM)
「巨人の二軍で投げていたら給料泥棒と言われた。当時は腹も立ったけど、ここへ来てよくわかる。給料をもらっているなら一軍で結果を出して評価される。二軍の地方遠征でも巨人は何千人も客が入る。球団の人に『本当に見たいのは君たちではない。一軍選手を見れない人が二軍でも良いかと来ている。二軍の10勝より一軍の1勝の方が偉い』と言われた。意識の部分も含めNPBはすごかった。プロを名乗るなら同じ気持ちを持って欲しい。無給で4-5年野球やるのは時間の無駄であって、全チーム全選手が1年勝負でやるべき」(谷口GM)
「最終的には選手が変わらないとチームもリーグは変わらない。本気でNPBに行きたい選手が来て実際そうなったら大きく変わる。チーム全体が本気で強くなる雰囲気になる。またNPB選手を出せばリーグの評価や注目度も格段に上がる。例えば、中学世代のボーイズ・チームから名門校へ行ったら入団希望者も一気に数が増える。東大進学者を出した進学校が受験倍率も上がるのと同じ。『俺でも行けるんちゃうんか』という気持ちになれれば、野球への取り組み方も変わる」(桜井監督)
関西独立は負のループに入りつつある。NPBはおろか他リーグにも差をつけられ始めている。お金を出してくれる人がいるためリーグ自体は存続はできる。無給だが野球できる環境があるため選手には必死さが生まれにくい。上のカテゴリーを目指す好素材は同リーグ球団へは加入しない。関西は野球どころであり、中学、高校までは強いチーム、好選手がひしめき合っている。今夏も甲子園ベスト4のうち3チームが近畿勢(京都国際、智弁和歌山、奈良・智弁学園、滋賀・近江)だったことからもわかる。本来なら関西独立は地区のトップカテゴリーであるべきなのに現状は程遠い。
~「現役を辞める時、僕のように『ああすれば良かった』と思って欲しくない」(桜井監督)
「給料が出ないからバイトしないといけない。そうすると練習時間が取れない。選手は何が大事なのかわからなくなる。野球技術や選手自身の取り組む姿勢もそうだけど、リーグ、球団が環境を整えてあげることが必要。本当は野球のみに打ち込ませてあげたい。時間はかかるでしょうけどね」(谷口GM)
「良い選手がいないとリーグのレベルが上がらない。現場としては少しでも良いと感じた選手を鍛え上げるしかない。現役を辞める時に『ああすれば良かった』と誰もが思う。自分自身が経験してきたから、そういうのを少なくしてあげたい。それができれば良い選手も育つんじゃないかな」(桜井監督)
トッププロを知っている2人からは厳しい現実がどんどん語られた。しかしそれでも可能性を感じるから少しずつでも変えようと奮闘している。
NPBの華やかな舞台ではないが谷口GMと桜井監督の野球への思いは衰えない。関西独立から上のカテゴリー、最高峰NPBでプレーする選手が出る日を信じグラウンドに立ち続けている
シーズン最終盤、06ブルズは神戸三田ブレイバーズとあじさいスタジアム北神戸で対戦した。かつてのオリックス二軍本拠地での試合は『花火ナイター』ということで通常より多い100人ほどの観客が集まった。ナマで見られる『プロ野球』に子供たちは目を輝かせて大きな拍手を送っていたのが印象的だった。
プレーボールからしばらくして、澄み切った六甲の空が夕焼けで真っ赤に染まった。「プロや高校だけが野球ではない」という関西野球人の熱い思いと重なったように見えたのは気のせいではないだろう。06ブルズ、そして関西独立リーグの今後に注目したい。
(取材/文・山岡則夫)