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東北大・佐藤昴 「進化」続ける“国立大の星”が仙台六大学を代表する投手になるまで

 仙台六大学野球連盟、各大学の打線が攻略に苦労する右腕が、東北大にいる。新3年生の佐藤昴投手(仙台一)だ。昨秋は7試合に先発登板し、3完投1完封。リーグ最長の55回3分の1を投げ、リーグ2位の防御率2.28をマークした。東北福祉大2回戦では10回タイブレークの末サヨナラ負けを喫したものの、9回まで1失点に抑える好投を披露。東北学院大1回戦でも9回2失点完投勝利を挙げるなど、抜群の制球力を武器に強豪私立大の打線をも牛耳った。佐藤が国立大、そして「仙六」を代表する投手となるまでの軌跡をたどった。

サイドスロー転向が飛躍の転機に

 佐藤は宮城県岩沼市出身。兄の影響で小学2年生の頃から野球を始めた。勉強は「基本的には宿題(をこなす)だけ」で野球中心の生活だったというが、うまく両立し県内屈指の公立進学校・仙台一高に進学した。

 元々は内野手も兼任するオーバースローの投手だった。仙台一の千葉厚監督に勧められ、1年秋からサイドスロー転向に挑戦。当初は「しっかりストレートを投げられる感覚がなかったし、変化球の投げ方も分からなかった。(転向は)無理だなと思った」。それでも、千葉ロッテマリーンズで活躍したアンダースロー投手・渡辺俊介さんの本を読み、アンダーとサイドの違いはあれど渡辺さんの練習方法を取り入れると、徐々に思い通りの投球ができるようになった。

投球フォームは大学でも改良を重ねている

 「自分のスタイルが初めて通用した。やってきてよかった」と確固たる手応えをつかんだのが、2年秋の県大会3回戦での登板。仙台商高の好投手・齋賢矢投手(現・東北福祉大)と投げ合って9回1失点完投勝利を収め、8強入りに貢献した。勢いそのままに3年春の県大会は主に先発でフル回転し、チームを準優勝に導いた。

 一方、勉強も怠ることはなかった。午後8時頃に仙台市内での練習を終え、岩沼市に戻る午後9時頃から約1時間学習塾で勉強するのが、入学当初からの日課。限られた時間の中で学力も磨き、旧帝大の一角である東北大の現役合格を勝ち取った。

リハビリ生活を支えてくれた先輩の存在

 高校野球の引退試合となった3年夏の県大会では悔しさを味わった。強豪・東北高の打線に打ち込まれ、コールド負けで初戦敗退。元々大学では野球を継続しない予定だったが、高校野球が不完全燃焼に終わったことから、再び「国立大で私立大を倒そう」と意気込んで東北大硬式野球部に入部した。

 東北大では1年秋にリーグ戦デビューを果たした。しかしこのリーグ戦期間中から右肩痛に悩まされ、2年春のオープン戦の時期には、直球の最速が通常より30キロ近く遅い110キロにとどまるほど状態が悪化した。「グラウンドに来てもやることがない。キャッチボールをしても、10メートルも届かない」。初めてのリハビリ生活は想像以上に苦しかった。

昨春の新人戦では高校以来の完投勝利をやってのけた

 そんな時頼りにしたのが、同時期に故障で離脱していた宮家凜太朗投手(4年=春日部共栄)。グラウンドではほとんどの時間を二人で過ごし、できる範囲でキャッチボールもした。また宮家に紹介してもらった整骨院に足しげく通ううちに、少しずつ肩の痛みはやわらいでいった。佐藤は「宮家さんがいてくれてよかった」と感謝を口にする。

 ケガを乗り越え、昨春の新人戦では1回戦の東北学院大戦で9回1失点完投勝利。「真横から投げることを意識していた」ために右肩痛を発症したと分析し、状況に応じてスリークォーター気味のフォームで投げるようになったことが功を奏した。完全復活した右腕はこの試合の後、「秋は先発ローテーションに入って、イニングを稼いでチームを勝たせられるピッチングをする」と誓った。

「忘れちゃいけない」痛恨の一発

 迎えた2年秋。宣言通りシーズン通して先発ローテーションを守り切り、毎試合のように長いイニングを投げた。「投げられるって、楽しいな」。佐藤はマウンド上で、投げられる喜びを感じていた。

 ただ、3勝4敗と負け越したことからも分かるように、「チームを勝たせられるピッチング」をすべての試合でできたわけではない。中でも本人が悔やむのが、東北工業大3回戦。8回まで無失点に抑えるも、1点リードの9回、同学年で意識しているという佐久間永翔内野手(2年=白石工)に逆転の2点本塁打を浴びるなど3点を失い、負け投手になった。

佐久間(奥)に起死回生の逆転2ランを許した

 「チームを負けさせてしまった。普段は抑えたシーンの映像しか観ないんですけど、あのシーンの映像は何回も観ています。あのシーンは向き合わないといけない。忘れちゃいけない」。

 9回無死一塁、佐久間への初球。「引っかけてできればゲッツーを取りたい。ヒットでつながれてもまだ大丈夫」と投じたカットボールが甘く入り、左翼席へ放り込まれた。同じ失敗を繰り返さないため、チームを勝たせられる投手になるため、あえて苦い記憶を何度も掘り返し、教訓にしている。

仙台一同期との投げ合いでも「進化」を

 佐藤は自らの武器と課題、どちらも理解した上で、「変わらないといけない」と強調する。リーグ戦で結果を残したとはいえ、他大学は昨年のデータをもとに対策を練ってくるはず。だからこそ今オフは「進化」をテーマに掲げ、Hondaや明治大の練習に参加するなどして、これまで取り入れたことのないトレーニングや考え方に積極的に触れている。

 今年の目標は「(試合中に)泣かないこと」「ベストナインに選ばれること」「(チームの目標である)Aクラス入りを達成すること」。そしてもう一つ、「野口と9イニング投げ合うこと」。

最大の武器は制球力。昨秋は55回3分の1を投げ19与四死球だった

 「野口」とは、宮城教育大の野口武琉投手(2年=仙台一)のこと。高校時代の野球部同期でありクラスメイト。当時も今も、親友でありライバルだ。昨秋の最終節1回戦、大学入学前に立てた「リーグ戦で投げ合う」との目標が実現した。佐藤は先発し8回3失点、野口は3番手で登板し4回無失点。佐藤は「ピッチング内容は完敗でした」と頭をかきつつ、「去年の秋リーグはいろいろありましたけど、一番の思い出はやっぱり、野口と投げ合ったことです。めちゃくちゃ楽しかったです」と笑った。

 以前の取材で、野口も「(佐藤の存在が)仙六で野球をやる一つのモチベーションになっている。今年は先発で投げ合って、良い試合を二人でつくって、もちろん勝ちたい」と話していた。国立大で「進化」を続ける仙台一出身コンビの投げ合い。次は特別な1勝を懸け、ともに最後までマウンドに立つつもりだ。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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