大分トリニータ ”一致団結”プロジェクト~みんなの想いをピッチへ~ 大成功の舞台裏に迫る(後編)「チーム、そしてサポーターと”一致団結”してJ1残留を」
5月16日、大分トリニータのクラウドファンディング「#一致団結プロジェクト」が大盛況のうちに幕を閉じた。
集まった支援金額は88,968,000円・支援件数は4,398件にのぼったこの企画。初日だけで2,000万円を超えてSNSでもトレンド入るなどスポーツ界でも話題となった。
前編ではプロジェクト運営を行ってきた水島伸吾氏・橘良平氏・吉門恵美氏の3名に登場いただき、支援金額が集まった時の心境や成功した要因などを振り返った。
後半では、プロジェクトをしている途中に起こった大きな出来事を中心にお届けする。
(取材 / 文:白石怜平)
プロジェクトに共感したスポンサーからの”支援希望”
ーサポーターさんや現場以外で反応を聞く機会はありましたか
水島:実は行政(大分県)からヒアリングを受けたんですよ。成功事例ということで。県としても把握したいということで、「どういう仕組みでやったのですか?」などと聞かれました。
また、我々の筆頭株主である株式会社ティーケーピー様(以下、TKP)も、このプロジェクトに共感していただき、ユニフォームスポンサーとして、皆さんと共にクラブをサポートしたいという要請が来たんです。
河野貴輝社長から、「企業としてクラブにスポンサーをすることでサポートできるんじゃないか」という言葉をいただきました。
我々も非常に嬉しく、企業さんの想いとクラウドファンディングに参加してくださった皆様の想いをどう両立するかということで協議を重ね、最終的にスポンサーさまと支援者さまの想いを共に身につける意味を込めて、TKP様のロゴをユニホームの鎖骨に、一致団結ロゴを中心に配置する決断をしました。
吉門:そこが今回のプロジェクトの中で1番悩んだ部分かもしれないですね(笑)
水島:5月16日がプロジェクトの終了でしたが、その2日前に榎社長から「重要なお知らせ」という題目で「鎖骨部分のスポンサーとして交渉している企業様が現在あるということ」をYouTubeライブで発表しました。
クラウドファンディングの支援の動きを見て、TKP様が企業としてサポートしたいというその点においても一致団結してプロジェクトを創り上げていると感じた瞬間でした。
ー実際に発表されてサポーターさんの反応はどう感じましたか?
水島:先ほどお話しした榎社長の発表後、皆さんの反応が非常に気になりました。実際、「企業さんがスポンサーにつくことが一番喜ばしいことだ」とご理解をいただきまして本当に安心しました。「ぜひぜひやってほしい」「想いを背負って頑張ってほしい!」といったお言葉をいただき無事に決まりました。
(意見は割れたりしましたか?)
水島:もちろん二分していまして、最初クラウドファンディングを立ち上げた時にもスポンサー企業がついたら掲載箇所が変更になる旨をお知らせしていたのですが、目標達成後だったので。
しかし、一方ではやはり期間中でもチャンスがあるのであれば、スポンサー企業を見つけていくということは我々が絶対にやらなければいけないことです。そうした中、こういった形で打診をいただきましたし、最終的には支援したい企業さんと一緒になることがクラブのためになるので決断しましたね。
サポーターからのニーズに応えたリターンを追加
ー4月30日に目標の5,000万円を達成しました。”NEXT GOAL”として8,000万円目標としましたが、ここはどのように設定していったのでしょうか?
水島:「NEXT GOAL」については、初日の動きを見たときに「5,000万円達成の可能性は充分あるぞ」と感じました。実際に達成して、我々としてはここで終わりではないと。
あらかじめ達成したときに新たなリスタートということで、もう一度皆さんに共感を得られるような目標を立てていこうと準備をしていました。
まずチームがJ1で苦戦している状況を踏まえ、トップチームにプラスになるように6000万円、7,000万円、8,000万円達成時の公約を宣言しました。
「チームのためになるなら追加の支援もやります」という反応も多くありましたし、何も目標がない中で続けるのではなく、最初とは別の目的をしっかりお伝えして継続できたので、ここも1つの成功要因なったのではないかなと思っています。
吉門:1回目のゴールに向けた中で、SNSとかお問い合わせを通じて「〇〇を追加できませんか」などとお声をいただいたので、そういったニーズに合ったリターン品を入れました。
ただ、後から新たなリターン品を追加すると初めに支援した方が「(追加した)後のほうが良かった」と感じてしまうのではないかとも思ったのですが、全くそんな事はなくて「こんな追加が来た!いいね!」や「次はこういうのがあるといいな」という反応を多く目にしたので、こちらも思い切って追加できました。
ー最終的な支援金額が見えて、具体的な用途も決まってきたかと思います。どのように活用していきますか?
水島:集まった支援金はクラブの重要な財源になりますので、用途は慎重に検討しています。最初の5,000万円を設定した際に宣言したのは、クラブハウスと寮の環境改善。
そこに関しては、早急にアプローチしたいと考えています。トップチームのサポートについては、どういったものが必要なのかを選手の体を一番知っているトレーナーやメディカルスタッフ、そして強化部に必要な物をヒアリングして選定しています。
「クラブがJ1にいる意義は大きい」残留に向けた想い
ー今回のプロジェクトを終えて改めて聞かせてください。トリニータのサポーターは皆さんにとってどんな存在でしょうか?
水島:私は高校卒業して選手として入団し、そこから考えるとチームとの関係は25年になりますが、現役時代から知っているサポーターさんもそうですし、最近知り合った方達もそうですけれども、本当に1つの”トリニータファミリー”だと思っています。
橘:私は昨年から大分トリニータのスタッフとして加わりましたが、サポーターの皆さんの「クラブを支えたい」という想い、そのエネルギーを強く感じています。我々スタッフもそれに応えなければならない使命感で溢れています。
スタジアムに来場した方々により楽しんでいただくこともそうですし、私もサポーターの皆さまに還元できるもの、大分トリニータを応援していて良かった、大分トリニータのサポーターで良かった、と思っていただけることを増やさなければいけないという想いが高まりました。
吉門:私は(2009年の)経営危機を経験しており、その時に街角に立って募金活動をしました。サポーターの皆さんはその時から変わらず、トリニータのために色々なご支援をいただいて応援してくださっています。
「トリニータがないと困るけんなぁ」と言ってくれる人たちがたくさんいて、今回の一致団結プロジェクトもそうですけども、トリニータのことを大切に思ってくれている皆さんがこんなにたくさんいるんだと改めて感じました。
我々も皆さんへたくさん恩返しをしなければならないと思いますし、悲しい思いをさせたくないです。なので、フロントとしてもクラブをしっかり存続させる。チームもJ1に居られるよう資金面でもしっかりバックアップしていかなければと痛感しています。
ーそれでは最後の質問です。まだコロナ禍が続いておりクラブとしても大変な状況が続いているかと思います。今後どう向き合って乗り越えていきたいか、意気込みをお聞かせいただけますでしょうか?
水島:少し遡るのですが、2012年にJ1昇格プレーオフへ出場するための条件として、Jリーグからの借り入れを返済しなければならない状況がありました。
その時にも多くの県民の方々を中心にサポートをいただいて、1億2,380万円ほどの金額が集まりました。当時プレーオフに出場するには、J2で3位〜6位に入る必要があったのですが我々は6位に。そこからの下克上で準決勝・決勝と皆さんの想いを持って戦い、プレーオフ優勝を果たしJ1に昇格した歴史があります。
今回も本当に苦しい中で皆さんにご支援をいただいたのですが、まずは5月30日のアビスパ福岡戦。九州ダービーで皆さんの思いを刻んだユニフォームを身に着けた選手たちが、昭和電工ドーム大分のグラウンドで戦い2-1で勝利しました。
今もチームは厳しいシーズンが続いていますが、我々スタッフも後押しすることで、スコアを動かせる位の影響を与えていきたいなと思っています。
また、クラブがJ1にいる意義は大きいと思っています。子どもたちに対しても、J1のチームにいるたくさんのスーパースターが大分に来てプレーを見せる。サッカーをやってる子どもたちにとっては非常に夢の空間だと思いますので、今は厳しい戦いが続いていますが、チーム、そしてサポーターと”一致団結”してJ1に絶対残りたいです。
橘:今も入場者数の制限もありますし、フロントとして工夫していかななければならないことはまだまだあります。ただ、コロナ禍でもスタジアムに来てくださる方たちがたくさんいらっしゃいます。自分たちができることに注力をし、それを乗り越えてJ1残留という目標に向けて精一杯取り組んでいきたいと思っています。
吉門:コロナ禍だからといった言い訳はせず、スタジアムに来ていただける方々にどう楽しんでもらえるか、また、スタジアムにまだ来れていない・本当は行きたいけど…という方々に足を運んでもらえるように、小さいことからコツコツと取り組んでいきたいと思っています。
(あとがき)
「クラブ存続のために」その想いの下一つになり、今も胸に刻まれている”一致団結”のロゴ。経営危機など数々の困難を乗り越えた固い絆の証でもある。
多くの想いを背に、大分トリニータは今回の困難も必ず乗り越えていく。そんなシーンがこの秋に見られるのではないか。