強さを取り戻し、その先に描く未来へ コロナ禍に揺れる大学スポーツの今 神奈川大学男子ラクロス部の再挑戦(後編)
神奈川大学男子ラクロス部の隅野英樹ヘッドコーチ(HC)、小楠章太主将に現在の活動についてのお話を聞くインタビュー後編。今回は、これまでにラクロスを通して経験してきたことや競技の魅力、そして今後の神奈川大学ラクロス部の未来についても語って貰っている。また、関東学生ラクロスリーグ戦を来月に控え、遠ざかっている公式戦への勝利を手にするために、それぞれが必要だと考えていることについての話も聞くことができた(注:写真は取材用として撮影されたものであり、通常はマスク着用で活動しています)。
チームコンセプトとスローガン、込められた想いとは
黄金期を知る隅野HCが復帰して迎えた2021年。神奈川大学ラクロス部は生まれ変わろうとしていた。これまでを振り返ってチームのコンセプト、スローガンを作り直した。
コンセプトに据えたのは『雑草魂』。ここに込められたのは「決して諦めない気持ち」だ。隅野HCは語る。
「『泥臭さ・がむしゃらさ』という意味と捉えています。最後まであきらめない、カッコ悪くても自分の思い通りに物事をやり切るという、信念の強い人間を目指してほしいという思いから、この言葉となりました。
実は、この言葉は学生の意見、考えから生まれたんです。近年のラクロス部がうまくいかない状況から、4年生が中心となり、“どうやればチームはよくなるのか?”を考えていた中で、“学生が主体性をもっていくべきでは?”といった話し合いの中から生まれた言葉でした。『雑草魂』について、部員に説明してもらった際に、「がむしゃらさ」「あきらめない」といった強い信念のようなものを感じました。『雑草魂』は、この強い信念を支える言葉として捉え、日々、チーム活動において常に意識するようにしています。
雑草魂で向かうために、4年生部員で考えたスローガン。それは『一心一新』という言葉だった。ひとつの心になって、一新していく。目指すのは「チームが一丸となり勝ちにこだわる、強さを取り戻す」というものだ。小楠主将は「勝利へのこだわりが大切だった」と語る。
「昨シーズンまでを振り返り、試合に勝てなかった原因や、今季、勝利のために何が必要かなど、ミーティングを何度も行ってきました。その中でもう一度チームがまとまる事、『一丸』となることが最も必要だという思いが生まれました。
大切にしたのは一丸となる目的です。学生生活最後でもある為、楽しく終わりたいという意見もありました。でも、楽しさを求めてチームがまとまるだけでなく、あくまでも勝利を目指しながら、その過程で自然とチームが一つになる、一丸となる事が理想的だと考えました。やっぱり、勝ちにこだわりたいと思います」
『一心一新』には勝利にこだわる強い思いが込められているという。さらに、主将としてチームの勝利を求める理由は他にもあるという。
「一年生の時の新人大会があり、一年生メンバーのみで戦う公式戦でした。当時は人数が少なかったことで他の大学との合同チームとしての出場でしたが、決勝リーグに進出できて嬉しかったことが最も印象に残っています。その時のメンバーは今も殆ど残っていますが当時メンバー間で『3年後、もっと大きな大会で結果を残したいね』と話していました。その約束を果たしたいという思いもあります。
また、4年生である私たちが、(現時点において)公式戦での勝利を知る最後の代になります。私が1年生の時にリーグ戦で勝利することが出来たのですが、勝利を知る自分たちが引っ張って行き、試合に勝つことでチームスポーツとしての喜び、そしてラクロスの楽しさを後輩たちに伝えたいと思っています」
解りあうことで感じはじめたチームの変化
選手たちの考えが反映されチームコンセプト、スローガンも決まった。そして実際に現場での指導の第一歩として新たに始めたことがあったという。隅野HCはこう語っている。
「コーチ復任後、一番最初にやろうと決めていたのは、チーム内でのコミュニケーションを増やしていくことでした。毎週、定時にミーティングをすることを現在も継続しており、少しずつ習慣化されてきたと感じています。コミュニケーションが増えてきたことで選手たちの気持ちも少しずつ前向きになれてきたという印象があり、部員の表情も明るくなってきています。部の雰囲気が変わったことは、今年に入り18人の新入生が入部したことにも表れていると思っています。
対面でのコミュニケーションが取り辛い現在ですが、『できることをやる』という意識も持つようにしています。時間が遅くなった時はオンラインでコンタクトを取り合い、また練習が土日に限られる中ですが、練習後には必ずミーティングを企画するなど、会話をする、互いを解り合うということを続け、言葉をかけあう場面が増えてきたことで部内の雰囲気が以前(2015年当時)に近づいて来てる、チームとして『一心』になってきていると感じています。
また、自分はこれまで24年間ラクロスを続けているのですが、2004年に社会人クラブチームに所属していた時の全日本選手権での優勝の経験が今の指導に繋がっていると感じています。当時、新たにクラブチームが出来る事があり、私が所属していたチームはメンバーが10数名まで減少してしまいました。練習もままならず、定期的に使用できるグラウンドもなく、日本一を目指せる状況ではありませんでした。その厳しい環境から、チームメンバーは自分たちで練習環境を整え、リーグ戦に参加できるようメンバーを集め、チーム全体が最後まであきらめずに活動をおこないました。日本一を目指せる状況でも、リーグ戦すら出れるかわからない状況から、リーグ戦、全日本選手権と勝ち上がり、日本一になることが出来ました。
メンバーが少ない中、勝ち続けることが出来た理由として挙げられるのが、コミュニケーションを取り続けたことでした。全員が社会人だった為、会う時間も多くはなかったのですが、飲みに行く機会を設けたりしながら、それぞれのメンバーを褒め合うなどできるだけ会話、コミュニケーションを繰り返すことに力を注ぎました。それを続けた結果、試合中もメンバーが何をしてほしいか相手の考えがわかるようになるなど、コミュニケーションをとることでチームが一丸になることができました。
まさに、現在の神奈川大学ラクロス部と重なる部分も多く、その時と同じ雰囲気に近づいて来ていると感じています」
逆境に置かれたからこそ、生まれてきた感謝の気持ち
コロナ禍により、昨年より厳しい状況が続く中、小楠主将は部での活動をする上での意識として大きく変わってきたことがあった。
「現在は徐々に練習が再開されてきており、コミュニケーションも増え、精神的な面でチームとしてのつながりが出来てきたのかなと感じています。チームメイトと関わりを持てるようになり、モチベーションも高まってきて、リーグ戦に向けて頑張ろうという意欲も持てるようになりました。
コロナ過は多くのマイナス面もありましたが、周囲の皆さんへの感謝の気持ちを持てるようになりました。今まで当たり前にできていた活動が、当たり前ではなく色々な方の協力の上で行えていたこと、また今シーズンも練習環境を整えて下さる皆さんへの感謝の思いが、今まで以上に大きなものとなりました。」
さらにラクロスという競技の魅力について、また新たに加わった新入部員にはラクロスを通してどんな経験をしてほしいかという問いかけにも、競技への、そして後輩たちへの熱い思いが込められていた。
「ラクロスは『地上最速の格闘球技』と言われています。一試合での得点は多ければ二桁に上ることもあり、ゴールシーンは試合で特に盛り上がります。シュート時の球速は時速150~160kmを越えることや、選手同士のコンタクトの激しさも見どころの一つです。
ラクロスは「カレッジスポーツ」と呼ばれるように、大学生から始める人が多いです。初心者が殆どの為、練習すればするほど上達し成長の度合いがわかりやすく、モチベーションにも繋がります。また、大学から始めて日本代表も目指すこともできることなどもこの競技の魅力だと思っています。 新入部員の皆さんにはラクロスの楽しさを感じて貰いたいと思っています。大学生という学生年代の最後に、ラクロスを通じて『熱中できた、本気になれた』という経験をして貰いたいと考えています。」
2部昇格へ向け「一丸となる事」、そしてラクロス部の未来とは
今季、チームとしての目標である2部昇格、達成するために最も必要だと感じていること。小楠主将の答えはここでも「チームが一つに」なる事を挙げている。
「チーム一丸となり、一人一人が何かしらの役割を担い、個人が出来ることをやる、それぞれが活躍することだと思います。
今までの神奈川大ラクロス部は能力の高い3・4年生の主要選手が固定される形で試合に出場していました。ですが現在は、そこまでの技術を持った選手はいない為、そういった戦い方は出来ないです。今シーズンは上級生中心とはなるものの、一部のメンバーだけで一試合を通して戦うことは難しいので、下級生の力も必要となります。たとえワンプレーのみだったり、短い時間でも出来ることをやる、スタッフも含めたチーム全員の力で戦うという意識が最も必要だと考えています」
——最後に、お二人にうかがいます。今回のクラウドファンディングを通じて実現させたいこと、そして苦境を乗り越えたその先に描く神奈川大学ラクロス部の未来について教えて下さい。
小楠さん:部活動への参加がままならない学生が多い為、練習環境を整えさせて頂きたいと考えています。その上で、リーグ戦での勝利という結果を残し、支援を頂いた皆さんへの恩返しをしたいという思いとともに、今回のクラウドファンディングを通し、現在のメンバーや今後、新たに入部する学生も含め、全員が不自由なく部活動を行なえる、「誰も置いていかない」環境を作っていきたいとも思っています。
ラクロスに集中でき、結果も残すことが出来るようになったその先には、色々な人から応援されるチームを作っていきたいです。今回、『結果にこだわる』という話もしてきましたが、ただ勝てばいいというわけではなく、勝利することで応援してくれる皆様の力になれるようなチームを目指したいです。
そのために、地域の方々ともさらにコミュニケーションをとりたいと思っており、挨拶を積極的に行ったり、(コロナ禍もあって)現在はまだ難しいですが大学周辺での清掃活動などを通じて、地域の皆様との交流も深めていけたらと思っています。
隅野HC:チームが活動する上で金銭的に苦しい現状であるため、今回のクラウドファンディングで支援していただくことで、練習の環境を整えてチームの強化に繋げ、そして関わってくださった皆様に試合での勝利という形でお返ししたいなと思います。 また、一回限りの繋がりだけでなく、学生やOB以外でも神奈川大学ラクロス部を気にかけてくれる、関わってくれる方々のコミュニティと言えるような組織を作っていけたらという思いがあります。例えばサッカーのJリーグクラブみたいに、神奈川大学ラクロス部を通して様々なイベントが出来るコミュニティを築いていくことや、他にも、部活動であり学生が関わっていますので、スポーツ以外の面でも力になりたいとも考えています。社会人の先輩とも言える様々な業種の方、大勢の大人が関わっていただくことで、社会について学生たちへのアドバイスや、卒業後の就職・進路についてのフォロー、サポートの部分にも繋げていけるようなコミュニティに出来たらなと、思っています。
これまでにない苦境の中、チーム立て直しの中心的存在である二人の言葉からは、力強さ、前向きさとともに、生まれ変わりつつあるチームの変化が伝わってきた。今も置かれている状況は難しいながらも、隅野HCの経験から語られてきたコミュニケーションの重要性はチームを確実に進化させ、また小楠主将のコメントにある「誰も置いていかない」というフレーズも、まさに全員一丸へと向かう揺るぎない意志が感じられる。
クラウドファンティングでの支援を受けた先に描くラクロス部の未来と共に、3年振りとなる公式戦での勝利、さらには2部への昇格も実現できる、そんな思いも抱かせてくれる今回のインタビューだった。(取材・文 佐藤文孝)