福井商業高校サッカー部監督 高木謙治―変化の決断、その先に見つけたもの―

年末年始に開催される全国高校サッカー選手権大会。今年の福井県代表は、17年ぶり2回目の出場となる福井商業である。

長年、丸岡高校という強豪校が全国大会に出場していた福井県。そんな伝統の強豪校を決勝でPK戦の末に破り、久しぶりの全国大会に進んだ福井商業の快進撃の原動力とは、何だったのだろうか。

福井商業高校サッカー部監督に就任して今年で10年目となる、高木謙治氏に話を聞くことができた。

試合前、スタンドの応援団と共に円陣を組む選手たち

「攻撃的なサッカー」への方向転換

全国高校サッカー選手権への出場、おめでとうございます。試合の日が近づいてきていますが、チームの雰囲気はいかがですか。

高木謙治氏(以下、敬称略)「ありがとうございます。初戦の対戦相手である大津高校(熊本)に決まってから、選手の意識が変わってチームの雰囲気が一層引き締まってきたように感じています。この数日間、福井は天候の悪い日が多くて雨や雷の日が続いてるのですが、そうした悪天候でも戦えるような精神的な強さを持とうと、選手たちには話しています。」

今回、福井商業が17年ぶりの高校サッカー選手権への出場を果たした原動力はどのようなところにあると、監督は思われますか。

高木「昨年までの自分たちのサッカーを一新して、攻撃的なサッカーに変えたことが一番大きな要因だと思います。

 昨年(2023年)の福井大会の決勝戦も、今年と同じ福井商業と丸岡高校のカードだったのですが、その時福井商業は負けてしまったんですね。実は私たちはその前から何度も決勝戦で丸岡高校に負けていて、私自身もこのままでは一生丸岡高校に勝てないのではないだろうか、と思いました。

 とはいえ打開策を考えているうちに、ふと、もしかしたら自分のサッカーへの考え方が凝り固まっているんじゃないか、と思ったんです。福井県は丸岡高校が全国大会の常連校なのですが、その丸岡高校と似たようなスタイルのサッカーを自分たちがしている限りは、ずっと勝てないのではないだろうか、と考えました。

 そこから、丸岡高校に勝つためには、非常に攻撃的なサッカーで勝負することが必要じゃないか、という考えに至りました。そのため今年はチームのスタイルを全く変えて、とにかくどんどん点を取りに行く攻撃的なサッカーをしようと決断したんです。その方向転換が今年最も大切な試合で結果として表れた、ということでしょうか。」

チームのプレースタイルを変えるという決断は、監督としてかなり勇気がいる事だったのではないでしょうか。

高木「実は今年、攻撃的なプレースタイルに変えた直後に、チームの失点がなかなか減らなかった時期があったんです。さすがにその時には、プレースタイルの変更の決断は間違っていたのかもしれないと、考えたこともありました。

 でも、なによりも選手たちが攻撃的なサッカーへの変更に前向きにチャレンジして、失敗から積極的に学ぶ姿勢を持っていたこともあって、結果的にはプレースタイルの変更を続けることになったんです。選手たちも丸岡高校を倒して全国に行くという強い思いがあったので、対応していたのだと思います。」

失点しても前を向く、選手たちをスタンドが支える

プレースタイルの変更に際して、選手やスタッフと監督が交わした会話で、何か印象に残っていることはありますか。

高木「特にこれといって印象的な会話は思い出せないのですが、監督として選手の失敗を絶対に責めないという方針を、スタッフやコーチ陣と共有していました。というのも、自分たち大人の方がそのような形で最初に姿勢を変えないと、子どもたちも変わることはないだろうと考えたためです。

 昨年までは、ゲーム中に誰かがミスをすると、選手たちの間からネガティブな言葉が出て、ミスした選手の反省を促す、というのがチームの流れだったんです。でも今年は、ミスをしても選手たちが次のプレーでどのように取り返そうかと話すことが多くなりました。その結果として、失点してもポジティブな気持ちを持ち続けるようになったんです。例えば2点取られても、3点取り返そうという気持ちでゲームを進めることができるようになりました。そのような姿勢で試合を重ねた結果、選手たちが成長していったというのが実情です。

 ゲームスタイルを変えることで、チーム全体の姿勢も変わっていった結果が、今回の選手権出場につながっていたのでしょうね。」

ゲームを見守る高木監督

17年ぶりの全国大会、そしてその先を生きる選手たちへの思い

福井商業にとって、今回の高校サッカー選手権出場は17年ぶり2回目となります。出場に関して、さまざまな人が監督におめでとうのメッセージを送られたのではないかと思いますが、その中で印象に残っているものはありますか。

高木「実は私自身福井商業サッカー部の出身で、ちょうど先週末に福井商業サッカー部のOB会があったので出席してきました。そこに、私より一つ年上で当時キャプテンをしていた先輩が来ていました。

 その先輩は今でも頻繁に試合を見に来てくれているのですが、その人がそのOB会の中で、『去年の福井大会の決勝戦も今年と同じカードだったけど、見ていて決しておもしろいゲームではなかった。でも、今年は福井商業が昨年とは全く異なる攻撃的なサッカーをしていたから、試合がとてもおもしろかったし、優勝という結果も出せた。とっても感動している』と言ってくださったんですね。その言葉を聞いたときは思わず私も泣いてしまうくらい、本当に嬉しい一言でした。」

監督ご自身も福井商業サッカー部のOBということですが、ご自身の高校時代と、今指導している選手を見ていて、どのような点が違うなと感じられますか。

高木「自分がサッカー部でプレーしていたころから、福井商業のサッカー部は県大会のベスト4に入るような学校ではあったんです。ただ、当時高校のグラウンドは非常に狭く、そのころ強豪だった野球部が練習していると、サッカー部はほとんど練習するスペースがないような状況だったんですね。サッカー部が練習していると、野球の硬式ボールがサッカー部の選手に当たる、なんてこともしょっちゅう起きていました。

 今のサッカー部は、学校外の人工芝のグラウンドで練習することができます。そのグラウンドへの移動にはマイクロバスを使う必要がありますが、日頃から人工芝のグラウンドで練習することで、試合の時に近い状況を体験することができるのは、大きなアドバンテージになります。また、そうした環境のおかげか、選手のモチベーションも非常に高いですし、素直に私たちの指導を聞く選手がほとんどです。自分たちが高校生の頃は、ここまで素直に監督のいうことは聞いていなかったようにも思います。」

日頃から人工芝で練習できることは、試合では相当なアドバンテージになるものでしょうか。

高木「はい。土のグランドと比べると、人工芝はボールがイレギュラーに転がることが少ないんです。そのため、足元の不安がなくなるので、選手たちが周りを見ながらプレーする事ができるようになります。私自身、サッカーは周りを見ることから始まると考えているので、日常の練習を通して、顔を上げて周囲の状況を見る習慣をつけることができるのは、試合中に大きなプラスになると思います。」

今回の全国高校サッカー選手権出場を通して、選手たちに、監督から一番伝えたいことはどのようなことでしょうか。

高木「12月末の初戦では、優勝候補の一つでもある大津高校と対戦することになりました。この1年をかけて私たちは攻撃的なサッカーへと方向転換をしてきたわけですが、全国大会という場でその成果を試す最大のチャレンジが来たな、と思っています。それと同時に、選手たちはこの大舞台のために1年間自分たちのサッカーを変えてきたわけですから、その成果を全力で発揮してほしいです。

 そして、今回の全国大会での結果がどのようなものであれ、選手たちにはこの後の人生で挑戦者であり続けてほしいと思っています。高い壁を超えようと決断する勇気を持ち続けて、迷ったときにこそ難しい道を選択することができるよう、これからの人生を過ごしてくれたら嬉しいです。」

いよいよ全国大会の舞台へ

自分たちの全国高校サッカー選手権出場が、福井県のサッカーが良くなるきっかけになってほしいとも語る高木監督。

プレースタイルの変化が、チーム全体のサッカーへ向かう姿勢の変化を生み出し、その結果としてこの冬の全国大会出場に至った事がよくわかるインタビューとなった。

福井商業サッカー部のこの1年の集大成は、もう間もなく、全国大会の大舞台で披露されることになる。

(インタビュー・文 對馬由佳理)(写真提供 福井商業高校サッカー部)

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