筑波大学女子バレーボール部「もっと上手く、強くなるための環境改善へ向けて」
筑波大学女子バレーボール部(以下筑波大)は、日本屈指の強豪チームとして知られる。しかし、練習環境や運営基盤は他大学に比べて決して恵まれているわけではない。選手、関係者たちは工夫と苦労を重ねながら活動をしている。
~「他の強豪大学がエアコン完備なのを聞いて驚いた」(本田凜)
「ユニバシアードの代表合宿の時、他大学選手といろいろな話をしました。強豪大学で体育館にエアコンがないのは筑波大くらいだということが発覚して驚きました(笑)」
第21回アジアU20女子バレーボール選手権大会(2022年)の優勝メンバーでもある本田凜(3年)は、他校との練習環境の違いに驚いたと振り返る。
「日本代表の練習は西が丘(東京都北区)の味の素ナショナルトレーニングセンターでもやりました。もちろん空調完備、暑さで集中力が途切れることがなく動きやすかったのを覚えています」
「筑波の暑さはかなりのものですから(笑)」と福島県出身の本田はしみじみと語ってくれた。
~「バレーボールに関してやることは変わらないが…」(井上凜香)
「(筑波大の体育館に)エアコンがないのは知っていました。梅雨から夏にかけて相当な暑さになることは覚悟して、筑波大への進学を選びました」
岡山・就実高時代の2024年に春高バレーで全国優勝を果たした井上凜香(1年)は、「自身の成長のために多少の我慢は仕方ない」とも語る。
「高校時代も体育館にエアコンはありませんでした。汗をすごくかいてバテやすい状態になります。でも、先輩方もこの中でプレーして結果も出されているので言い訳にはなりません」
「やるべきことは変わらない」と井上は強調した。一方で「エアコンが入ると助かる部分があるのは確かですけど…」とも呟いた。
~「室温、熱気のみでなくフロアコンディションに悪影響がある」(中西康己監督)
今季も2024年春季リーグ戦(関東学連1部)で優勝を果たすなど、歴史と実績の両方を積み重ねている同部。活動拠点となっているのが大学内にある球技体育館だ。1973年にできた施設はエアコン設置されておらず老朽化も目立つ。夏場は窓を全開にして大型扇風機を使用しながら練習に励んでいる。
「さすがに限界だと思います」と同部の中西康己監督が説明してくれる。
「近年の気温上昇は想像以上で体育館内の温度と湿気はすごい。競技への熱い思い(=精神論)だけで乗り越えるのは不可能なレベルです。エビデンスはないですが、故障者やコンディション不良者が出るのにも関わっていると思います」
「体育館の床が梅雨時期から夏場は湿気でウエットな状況になります。ひどい時はワンプレーごとに選手みんなで床を拭きます。状況に応じて床に石灰を撒いてプレーすることさえあるほど。けがや故障にも繋がるので、常に慎重を期しています」
「床を拭いている時間を選手同士が話し合う時間に使えれば、といつも思います」と表情を曇らせる。エアコンのない体育館のデメリットは気温や湿度だけではない。床コンディションにも悪影響を及ぼして練習の効率化を妨げている。
~「可能なら少しでも優れた環境で切磋琢磨したい」(中村悠)
「さまざまな状況から判断して、現状打破のためのプロジェクトを行なうことを決めました。状況を周囲にもしっかり伝えて、エアコン導入へ向けて動き出します」とは主将・中村悠(4年)。
「高校時代はエアコンのある環境でプレーしていました。高校3年時に体育館に導入され、最初は違和感もありましたが慣れるとやりやすかった。今は高校からそういった環境でやってきた選手も多いので、今の筑波大の状況はキツイ部分もあるかもしれません」
中村の出身校である三重・三重高ではコロナ禍明けからエアコンが導入されたという。練習環境でのエアコンの有無の両方を体験してきた言葉には説得力がある。
「暑い中の練習では汗の量も多くなるし体力的にも厳しい。チームを見ていても、『しんどそうだな』というのを感じる時もあります。状況が許すなら良い環境で練習をしたい気持ちはあります」
「コロナ禍でプレーできなかった時のことを考えれば、甘いことは言えないのですが…」と最後に付け加えてくれた。主将としての葛藤も抱えているように思えた。
~「筑波から東京へ出るのだけでも時間とお金がかかる」(熊谷仁依奈)
今回のプロジェクトは、プレーする選手側からの要望もあって実現した。体育館へのエアコン導入と共に意見として出たのは、「遠征費を含めた運営活動費の補助にも使用したい」ということだった。
「高校時代も遠征はたくさん行きましたが、交通費などはあまり気にしませんでした。当時は親が全てを管理してくれていましたし、同部OB・OG会や後援会などの方にも支えられて最低限のお金で活動できていました」
宮城の強豪・古川学園出身の熊谷仁依奈(2年)は、大学入学後に環境の違いに驚きを覚えた。家族を含めた周囲に対して、改めて感謝の気持ちを強めたという。
「筑波大に入って一人暮らしも始めました。バレーボール、日常生活と全てにお金がかかるのを実感します。筑波大はアクセスが多少、不便な場所にあるので、東京へ出るのにも時間とお金がかかります。普段から節約することを常に考えています」
「バレーボール部はアルバイトをしない」というルールがある。学費はもちろん、バレーボール活動費も親から援助してもらっている。
「他大学の選手も同じような状況だと思いますが、多少でもバレーボール活動費を減らせれば助かります。今回のプロジェクトでカバーできれば本当に嬉しいです」
「つくばエクスプレスを使うと東京(秋葉原)までで片道で1205円かかりますから…」と笑うが、確かに安い金額ではない。その他にも全国クラスの大会出場となると莫大な出費がかさんでしまう。
「選手たちは我慢しながらも情熱を失わずにプレーしています。しっかりとしたチームを作るには、多少のお金がかかるのは理解しています。皆さんにご理解いただければ嬉しいです」(中村)
男子日本代表が盛り上がりをみせ「バレーボール人気復活」とも取り上げられるが、実際の現場は簡単なものではない。多くの負担を背負いながらボールを追い続けている選手は多い。
バレーボール界の未来を担う筑波大の逸材たちは、決して恵まれた環境でプレーできているわけではない。少しでも改善するために、多くの人々に理解と賛同をしてもらえたらと願う。そして、筑波大のプロジェクトが競技を超え、大学スポーツの在り方へ一石を投じることになってくれることを信じたい。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・筑波大学女子バレーボール部)