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兵庫県加古川市でオリンピアン 羽根田卓也選手とカヌー体験会開催 尾野藤直樹氏「心が元気になり、明日への活力を」

9月24日~25日、兵庫県加古川市で「オリンピアン羽根田選手と加古川市でカヌー体験会」が開催された。

講師は2016年のリオデジャネイロ五輪のカヌーでアジア人初の銅メダルを獲得した羽根田卓也選手。480人の参加者がオリンピアンから直接指導を受け、自然と触れ合う2日間となった。今回はその模様をお届けする。

(取材協力:加古川市、協力 / 写真提供:一般社団法人カヌーホーム 、文:白石怜平)

「加古川市かわまちづくり計画」の一環として開催

加古川は兵庫県中央部を流れる兵庫県最大の一級河川。

加古川市は地域と連携し、かわとまちが一体となった魅力的な水辺空間を形成。新たな人の流れと賑わいを創出する「加古川市かわまちづくり計画」を進めている。

今年はキッチンカーやハンドメイドマーケットが集まるイベントやワークショップ。ヨガやサップレース、親子カヌー体験、ノルディックウォーキングなどのアクティビティイベントや有名アーティストの野外ライブ等が開催。

「オリンピアン羽根田選手と加古川でカヌー体験会」も「加古川市かわまちづくり計画」の一環として行われた。

9/25のイベント前、加古川市の取り組み「かわまちづくり」に共感したケイ・ケイネットワークグループ代表の髙井利夫氏から、空気を入れて膨らませるカヌー「パックラフト」が加古川市に贈呈されるなど、今後のイベントの発展に向けてさらに力を入れている。

一級河川である加古川

アジア初のメダリスト 羽根田卓也選手による講習会

羽根田選手は9歳から父と兄の影響でカヌースラロームを始めた。高校を卒業後、世界レベルで活躍する事を目標に強豪国のスロバキアへと単身で渡った。

その努力が実り、16年リオ五輪 カヌースラローム競技ではアジア人初となる銅メダルを獲得。一躍カヌーを日本中に知らしめた。現在、全日本選手権14連覇中。自身5度目となる24年パリ五輪への出場を目指している。

カヌー体験会は今年で2度目の開催。実は20年に1度開催を予定していたが、コロナ禍で中止に。昨年に初めて開催し、今回を迎えた。

昨年10月30日に初めて行われ、定員80名に対し300名を超える申し込みが殺到していた。大好評だったため、今年は事前募集で480名(各日240名、各クール120名)と枠を用意し、2日間の開催となった。

カヌー体験は小学生以上が対象。1人乗り用と2人乗り用があり、事前に申込みでどちらのカヌーに乗るかを選択。なお小学3年生以下は保護者の同乗が必須となる。

ライフセイバー佐藤和伯氏による安全講習

1クールを90分制。120名を2チームに分けて、「水辺の安全講習」と「羽根田選手とカヌーを一緒に漕ぐ体験会」が入れ替えで行われた。

水辺の安全講習はライフセイバーの佐藤和伯氏が指導を担当した。佐藤氏は全日本ライフセービング選手権で入賞経験を持つベテラン指導者。水の中で起こりうる事故、事故が起きた時の対処方法、溺れた人の救出法など40分間、学生スタッフと共に子どもたちにレクチャーした。

羽根田選手とカヌーを一緒に漕ぐ体験会

カヌー体験の参加者一人ひとりにライフジャケットとパドルが渡され、持ち方・漕ぎ方を丁寧に学んだ。

今回、参加者が漕ぐのは「パックラフト」。これはカヌーに似た形で空気を入れて膨らませるゴムボートのことである。

500人近くの参加者が集まった

水面に出て20分が過ぎるとパドルの扱いにも慣れ、自由に水面を移動できるようになった。約30分間、水上でボートを漕ぐ時間を楽しんだ。参加者からは、

「意外と難しかったが、子どもと一緒に力を合わせたら上手く前に進めたので楽しかったです」

「カヌーがこんなに楽しいとは思わなかったので、また遊びたいです」

「最初できなかったけど羽根田さんに優しく教えてもらったら漕ぐことができて嬉しかったです」

など多数の声が上がった。

羽根田選手は参加者一人ひとりにパドルの持ち方や動かし方を指導した。

カヌーイベント尾野藤代表「小さな幸せを感じるイベントにしたい」

カヌー体験会の現場運営は一般社団法人カヌーホームが担当した。代表は尾野藤(おのとう)直樹氏。尾野藤代表は大学時代カヌースプリント競技で全日本チャンピオンになり4年間国内大会負けなし。

男子カヌースプリント競技の第一人者としてナショナルチームを牽引。引退後は指導者として、国立スポーツ科学センターでのスタッフ経験をもとに科学的な知見に基づいた指導を行っている。

 子どもたちのライフジャケットをチェックする尾野藤代表

その傍らで日本オリンピック委員会 専任コーチングディレクターを務め、2018年にカヌーホームを設立、カヌーの普及活動に日夜取り組んでいる。

今回のイベント開催の経緯について尾野藤代表は、

「2020年が加古川市の市制40周年でした。その時、市の方から『何か加古川を使ったイベントを開催出来ないか』と相談を頂きました。一般の人たちが水域を楽しめる催しを探しておられたようです。

なので、初めにカヌー体験を考えました。ただ水の中で遊んだ経験がない人は、水に対して『怖い』という印象を抱いている人も多い。それなら一緒に安全講習を行うこともお話しさせて頂きました」

また、羽根田選手と尾野藤代表は愛知県豊田市にある「名鉄学園杜若高等学校」の先輩後輩という間柄。今回のイベントも尾野藤代表が尽力したからこそ実現した。

「オリンピアンの羽根田選手に直接指導を受けながらカヌー体験ができる機会なんてなかなかありません。カヌーと触れ合う場所を作りながら、なおかつ加古川の素晴らしさを一緒に体験できる機会を作ってみてはいかがでしょうかと提案しました」

上述の通り、昨年は小学生を中心に参加人数80名と人数制限かつ1日限定開催だったのに対し、応募は300名以上だったことから、「希望者する全ての方に参加してほしい」という思いを尾野藤代表や加古川市は抱いていた。

加古川市と尾野藤代表の想いから多くの方の参加が実現した

そこで今年は2日間、事前募集480名と昨年以上の規模での開催となった。イベントの規模が拡大するに伴い、事前準備の負荷も大きくなる。

「我々が『カヌーを広めたい』と思っていても、市の施設や河の利用など(市の)職員の方々全ての気持ちが一つにならないと大規模イベントの開催は難しいです。

私は『カヌーが好きで、カヌーをやることは当たり前だ』と思っていますが、誰もがそうではないですよね。でも今回は、元々カヌーに親しみの薄かった方々も『加古川の魅力を伝えたい』という共通の思いで積極的に動いてくださりました」

と、イベントをつくり上げるスタッフの想いが一つになったと尾野藤代表は話した。

大学生のメンバーも貴重な機会を楽しんだ

スタッフの中にはカヌー競技の名門校の一つ・関西学院大学カヌー部も参加した。現役時代、尾野藤代表は『カヌーはマイナー競技だ』と言う世間の声と戦っていた。

日本チャンピオンになってもカヌー競技に対して、なかなか自信を持てなかったという。常に「オリンピックでメダルを獲得したい」「カヌーをメジャー競技にしたい」という想いを抱き続けていた。

しかし2008年、当時29歳で現役を引退して指導者となり、カヌーホームを設立。様々なイベントを通してカヌー競技の本当の魅力に気づかされたという。

「カヌーの楽しさや素晴らしさを見失いかけていた時期もあったと思います。体験会を通して初めてカヌーに乗る方たちが『楽しかった』と言ってくれる声や笑顔を見ると、改めて自分がカヌーを好きであることを実感します。

そのことをスタッフとして参加している大学生や若い選手にも感じてほしい。自分が取り組んでいるカヌーの魅力や素晴らしさを知ってほしいですね」

このイベントの目玉は、オリンピアンの羽根田選手が直接指導してくれること。そして初めてカヌーに触れた子どもたちが”オリンピックのメダリストに教えてもらった記憶”は一生残る宝物となる。

尾野藤代表は子どもの頃、『オリンピック選手だよ』と言われ名前も知らない選手にサインを貰った記憶があるそうだ。「ちょっとした出会いで未来が変わります。特に年齢が小さければ小さいほど一瞬で変わります。その機会を創りたい。可能性に溢れた子どもたちに何か機会を与えることは大人としての役割だと思います」

羽根田選手に触れることで喜ぶのは子どもたちだけではない。大学生スタッフがオリンピアンを身近に感じることで、『日本人でもカヌー競技でオリンピックのメダルが獲れることを実感してほしい』と、尾野藤代表は過去の自分を振り返るように話す。

「羽根田選手は留学し長い年月をかけてメダルを手にしました。単身海外に渡り苦労をしているから常に謙虚。そういった姿勢も感じてほしいです。話によると”このイベントのスタッフになりたい”と競争率が高いようです。2日間、世界トップレベルの選手を間近で感じることができたのは貴重な経験になります」

「また来たい」と思えるイベントになった

尾野藤代表がイベントを企画する際に大切に思うのは、「参加者に喜んでいただくことが不可欠」なこと。そしてゲストやスタッフに「本当に来てよかったです。また是非参加させて下さい!」と言葉をもらった瞬間にイベントの成功を感じるという。

現在は、全国で毎月のようにカヌーイベントを開催するカヌーホーム。最後に尾野藤代表へイベントを通して伝えたいことを聞いてみた。

「今はインターネットの世界が発展し、VRやゲームなどが娯楽の中心になって『リアル』が少なく感じます。リアルを感じてもらえるよう、『小さな幸せを感じるイベント』をつくりたいと考えています。『水って気持ちいいな』とか『風が吹くと涼しいな』とか…

これは自分自身で水や自然に対して気持ちが向かないと気付かないものです。今回イベントに参加してくれた方、スタッフやゲストの皆さんの笑顔を見て改めて感じたのですが、『リアル』に触れることで心が元気になり、明日への活力を持って貰えたら嬉しいですね」

尾野藤代表は早くも来年を見据え、準備を始めているという。規模が広がった今年からどう進化するのか、カヌーの発展とともに見守っていきたい。

(終わり)

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