• HOME
  • コラム
  • 野球
  • 大学時代「公式戦登板ゼロ」でも社会人野球で輝ける 都市対抗東北2次予選で再スタートを切った男たち

大学時代「公式戦登板ゼロ」でも社会人野球で輝ける 都市対抗東北2次予選で再スタートを切った男たち

大学野球の舞台で輝けなくとも、腐らなければ輝ける時が来る。社会人野球にはグラウンドでそれを証明する選手たちがいる。第96回都市対抗野球大会東北2次予選は6月29日に閉幕し、JR東日本東北が第1代表、TDKが第2代表で本大会出場を決めた。東京ドーム切符を懸けた熱戦に心躍らされるのはもちろん、選手個人の多種多様な背景が垣間見えるのも都市対抗予選の醍醐味。今回は、大学で「公式戦登板ゼロ」ながら社会人でチャンスをつかんだ二人に話を聞いた。

JR盛岡・山崎諒が踏んだ“高校以来”の公式戦マウンド

JR盛岡の新人左腕・山崎諒投手(22=富士大)は、直球と変化球を織り交ぜた緩急のある投球で存在感を発揮した。エフコムBC戦は先発で6回途中1失点と好投し勝利に貢献。日本製紙石巻戦はチームが敗れる中、6回から救援登板して2回1失点と踏ん張った。

日本製紙石巻戦では交代直後の先頭打者に本塁打を浴びるも、その後は追加点を与えず。山崎は「ホームランを打たれたことである意味緊張がほぐれて、そこからはスイッチが入って腕を振れた。粘って次の回もゼロに抑えられたのでよかったです」と手応えを口にした。

貴重な左投手として早くも重宝されている山崎

盛岡四高では主戦として活躍するも、富士大時代は公式戦登板ゼロ。山崎は「ケガの影響もあって伸びきらず、同級生のレベルも高かった。大学時代は辛抱というか…あまり良い4年間ではなかったと思います」と率直に当時を振り返る。

「同級生」のうち、オリックスドラフト1位の麦谷祐介外野手ら6人がNPB入り。「自分にとっては友達なので同級生がプロに行くのは不思議な感覚がありますが、頑張っている姿は間近で見ていた。こういう選手がプロに行くんだと、肌で感じられました」。“最強世代”に身を置いたがゆえにチャンスは巡ってこなかった。ただ、第一線で輝く同級生の存在に刺激を受け、自身は「社会人になったら試合で投げられるよう頑張ろう」と大学卒業後を見据えて野球に打ち込んだ。

久々に立った公式戦のマウンドは心地よかった。「練習試合とは全然違いますね。負けたら終わりだし、会社を背負う責任もある。プレッシャーも感じましたが、楽しみながら投げられました」。清々しい表情で初めての都市対抗予選を噛みしめた。

同郷の同級生とともに誓う「JR盛岡を強いチームに」

JR盛岡には、同じ岩手出身で富士大ではチームメイトだった金野眞尋投手(23=富士大)とともに入社した。「地元のJR盛岡を強いチームにしよう」。1年時から寮の同部屋で仲の良かった金野と、就活の時期に約束を交わした。

金野は東北二次予選では3試合に登板。うち2試合は先発で、初戦のマルハン北日本カンパニー戦では6回1失点と堂々たる投球を披露した。金野も富士大ではBチームが主戦場だった投手。苦楽を共にした二人が社会人1年目から信頼を得ており、山崎は「今大会は眞尋と二人で試合を作ることができた。これからも眞尋と一緒に、社会人野球の舞台で頑張りたいです」と笑顔をのぞかせる。

ルーキーながら大事な試合で先発を任された金野

JR盛岡は今年、山崎と金野を含む計9人の新人選手が加わった。特に投手陣は若手が多く、日本製紙石巻戦では同じく新人の古川端晴輝投手(22=法政大)、新沼琉真投手(18=一関学院高)もマウンドに上がった。山崎は「ここから強くなる想像はできている。同期と切磋琢磨して、お互いを高め合いたい」と胸を張る。

さらに「(JR盛岡は)若手が多くフレッシュで、先輩方が優しいのでアットホームな雰囲気もある。バランスの取れた良いチームだと思います」とも話す。伸び盛りのチームを、先頭に立って引っ張っていくつもりだ。

B-net/yamagata・本間秀真が対峙した「野球人生で一番強い相手」

B-net/yamagataの新人右腕・本間秀真投手(22=仙台大)は、JR東日本東北戦で社会人では初めての先発登板を経験した。本間も仙台大では公式戦登板ゼロ。200人以上の部員を抱える大所帯で台頭するのは難しく、一度もAチームに上がれないまま大学野球を終えた。

それでも、球速が4年間で15キロアップするなど着実に成長は遂げた。「仙台大の4年間があったからB-netでも野球をやろうと思いました」。本人がそう話すように、成長を証明するため、地元のクラブチームで野球を続ける道を選んだ。

JR東日本東北戦で先発した本間

JR東日本東北は昨年の都市対抗で準優勝し、今大会も第1代表の座を獲得したチーム。本間は初回から猛打を浴び2回3失点で降板した。「完敗です。今までの野球人生で一番強い相手でした。打球の質も違うし、自分がレベルアップしないと通用しないなと感じました」。試合後は悔しさが募った。

一方、「ここで野球をしていなければ都市対抗予選の舞台にも立てなかったと思うので、B-netに入ってよかったです」とも口にした。自身の選択が間違っていなかったと確信するマウンドにもなった。

JR東日本東北戦では、大学時代の同期である浦野冬聖投手(22=仙台大)が相手の3番手として登板し好投した。以前から大学同期との対戦を熱望していた本間は「こんなに早く実現するとは」と驚きつつ、「(浦野は)社会人になって球の質もコントロールもさらに良くなっていた。まだまだ並べるような存在ではないですが、もう一回頑張りたい、負けていられないと思いました」と刺激を受けていた。

B-net/yamagata戦で好救援を披露した浦野

浦野は大学時代、新人戦で先発を任され4年時にはリーグ戦で白星を挙げた左腕で、本間にとっては「雲の上の存在」。そんな元チームメイトと真剣勝負の場で顔を合わせられるのは、ひとえに野球を続けたからこそだ。「次に戦う時は、成長した姿を見せられるよう頑張ります」。新たなモチベーションを胸に、また白球を追う日々が始まる。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

関連記事