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「問答無用で心に刺さる」ランズエンド代表・崔領二が世界遺産プロレスにこだわる理由

昨年10月16日、「世界遺産プロレス~熊野那智伝説」(和歌山県那智勝浦町、以下那智の滝大会)が開催された。歴史的場所での前代未聞の大会は、今後も間違いなく語り継がれるはずだ。

そして来たる4月23日には、「奈良国宝奉納プロレス~榮山寺・八角堂大会」が予定されている。

崔領二は必殺技にも「那智の滝」と名付けている。

~何も知らない人がスゴイものに触れて欲しい

同大会の主催はLAND’S END プロレスリング(以下ランズエンド)。代表の崔領二は、かつて恋愛バラエティ番組『あいのり』(フジテレビ系)出演で話題となった。プロレスが世間に届く方法を常に考えている経営者でもある。

「プロレスを含めた興行というのは、大きな会場で多くの人を集めるのが理想です。大きな利益を出すことに繋がります。しかし会場はスタジアムやアリーナという、俗にいう『箱』が中心になってしまいます。そうではなくて、周囲のロケーションに圧倒されるような場所でやりたかった」

「こんなすごい場所でプロレスをやるのか、と感じてもらいたい。人気と知名度のあるレスラーは数多くいます。莫大な収益を上げている団体もあります。その中でランズエンドのような小規模団体は、強烈な印象を残すことが大事です。また個人的にも世界遺産に興味があります」

国の名勝「那智の滝」が見える那智山青岸渡寺・三重塔の前にリングを設けての大会。青岸渡寺や熊野那智大社、那智勝浦町などの協力で開催に辿り着いた。

那智山青岸渡寺・三重塔の前にリングを設けてプロレスが行われた。

~蘇りの地を共有して欲しい

崔個人としても那智の滝には思い入れがあった。2002年前後、心身の不調に陥った時には、すがる思いで訪れた。回復させてもらい大きな力を授かったと感じており、今でも大事な場所だ。

「本当に助けてもらいました。『蘇りの地』と聞いていた通りでした。僕が体感したものを、皆さんにも共有して欲しい気持ちがあります。必ず何かを感じて得られる場所です」

「『ここがスゴイ、こういう歴史がある』という予備知識があることで、プロレス・ファンには受け入れてもらえます。でも何も知らない人の心にも刺さることをやりたかった。極限のスゴイものに触れて感動して欲しいです。説明不要、問答無用のものは人々を惹きつけるはずですから」

その後も何度となく同地を訪れたことで、2007年2月に和歌山県那智勝浦町の観光大使に就任。同年7月には当時在籍していた団体ZERO-ONEで那智の滝大会を行った。その後、自身が旗揚げしたランズエンドでの再開催を考え続けていた。

「大会開催は簡単にできるはずない、と覚悟していました。我々は完全によそ者ですので、『お前は誰だ?』からのスタートです。本気の気持ちを伝える。自分たちが本当にやりたいことを知ってもらう。そのためには嘘はいらないし、情熱を伝えるしかなかったです」

多くの地元関係者の協力と理解が得られ大会開催に至った(参拝時は無言、マスクなし)。

~お金と人の両方が戻ってくるようにする

地元の方々との対話を何度も重ね、開催へのゴーサインが出た。しかし本来なら2021年に開催予定だったが、コロナ禍等で約1年の延期となった。2022年10月の開催となったことで、より多くコストがかかってしまう結果にもなった。

「経営的には大赤字です。1度中止になったものを含めて、諸々合わせると1,000万円超かかった。地方ならば家が1軒建つくらいの金額を団体(会社)としての持ち出しになりました。強い思いを持って開催した大会ですが、金額だけを考えると多少の目眩もしました(笑)」

「通常の興行なら観客を増やせばチケット代金が多く入ります。賛同者やスポンサーも数多く集められれば言うことありません。最終的に利益が出れば団体としても喜ばしい。でも神社仏閣での開催なので営利追求することはできません。チャリティ記念グッズ以外は、全て無料の興行です」

地方興行ではリングや機材を運ぶだけで30万円近くかかる。選手、スタッフの人件費を入れれば300万円は下らないという。団体経営だけを考えればリスクしかない大会をなぜ行うのだろうか。

「商売は損から入らないとダメ、という考えがあります。自分たちしかやっていないことでゴールを目指す場合、最初はノウハウも道筋もありません。前に進むためのインフラは自分自身で引かないといけないので、損をするのは当たり前です」

「ビジネスで考えると、注ぎ込んだ分(お金)を回収したい気持ちは強いです。最終的にそうなってくれれば良いですが、まずは人(脈)が帰ってくることが多いです。やったことに対して感じてくれる人は必ずいるので、そういう繋がり、パイプはどんどん太くなります」

歴史的場所で行われたプロレスに対する評価は高い。

~那智の滝から榮山寺・八角堂へ

那智の滝大会に興味を抱きコンタクトしてきたのが、榮山寺関係者だった。開催に向けての営業等は一切していないにも関わらず、「お金は負担するのでやって欲しい」という話をもらった。

「最初は榮山寺がどこにあるかさえも知らなかったので、驚きました。お寺業界には宗派を超えた横のつながりもあるそうです。那智の滝大会の話が業界関係者の間を巡って、興味を持っていただいたそうです。那智の滝大会への評価が高く、本気で開催したい気持ちを伝えられました」

学晶山榮山寺は、養老3年(719)年に藤原武智麻呂公が創建した藤原南家の菩提寺。寺内にある八角堂は国宝指定されており、天平宝字4年(760)年~8年(764)頃の建立とされている。

「(開催は)何度も断りました。見栄えは良いかもしれないですが、簡単に出せないほどの大金がかかります。それでも『やりたい』と何度も連絡をくれました。食事等を共にしながら色々なことを話し合い、同じ方向を向けた。那智の滝でやったことが榮山寺に繋がりました」

崔領二が目指すは、説明不要、問答無用で人々を惹きつけるプロレス。

~歴史の中に加われるというロマン

世界遺産プロレスは普段の興行以上に経費がかかるが利益は出ない。収支決済は確実にマイナスになるが、それでも継続するには理由があるからだという。

「カッコイイ言い方をすればロマンしかない。歴史や人類は繋がっていて、その中に自分たちも加わることができるということ。榮山寺・八角堂は奈良時代、1000年以上前にできたもの。とてつもない時間を生き延びてきた建物の前で、2023年にプロレスができる。こんなワクワクすることはありません」

「スポーツにおける『勝った?負けた?』は、面白くて熱くなれる。しかし世界遺産プロレスは、それとは別の話になると思います。プロレスが歴史の1ページになれるのが素晴らしい。とてつもなく大きなやりがいしかありません」

「今後も世界中の文化遺産、国宝でやりたい。その地域の人たちと一緒に、歴史に即した最高の形で、地域を盛り上げ、歴史をリスペクトできる大会を行う。これこそがランズエンドの方向性であり存在価値ではないでしょうか」

ランズエンドは「地の果てからの新たなる航海」を続ける。

ランズエンドとは、英国南西部先端に位置する岬の名前。「地の果て」を意味しており、崔の理想と信念から団体名として採用したことでも有名だ。

「有無を言わせないロケーションの説得力で夢や希望、ロマンを与えたい」という独自の方向性を重視。その究極が世界遺産プロレスであり、開催自体が快挙であり素晴らしいこと。今後もずっと続いて欲しい、異色ジャンルのプロレスに注目したい。

(取材/文・山岡則夫、取材協力/写真提供・LAND’S END プロレスリング)

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