「PIST6」~スポーツとエンタメを兼ね備えた国際規格のケイリン

『PIST6 Championship(以下PIST6)』は新時代のケイリンを目指す。

スポーツエンタメとして誰もがケイリンを楽しめるようにする。選手のレベルアップを図り国際大会招致を目指す。

千葉市にできたTIPSTAR DOME CHIBA(同ティップスタードーム)で新たな試みが始まった。

ドーム内中央に釣り下げられた大型ビジョンやレーザーなどを駆使した華やかな演出。

~漢字の『競輪』とカタカナの『ケイリン』 

「競輪には漢字の『競輪』とカタカナの『ケイリン』があります。『競輪』は昔から公営ギャンブルで行われている9車立て(自転車9台で走る)レース。『ケイリン』は最大7車立て(同7台)、1周250mの屋内木製バンクで行われる国際規格に基づいたレース。ティップスタードームで開催される『PIST6』は後者にあたります(PIST6は最大6車立て)」

『PIST6』の魅力、可能性について語ってくれたのは同社マーケティング&コミニュケーション部PRマネージャー・佐久間義高氏。レース開催に先立ちスタンドからアリーナまでドーム内を細かに案内してくれた。そこにはイメージしていた従来の公営ギャンブル場ではなく最新のエンタメ空間が広がっていた。

PIST6は最大6車立てでレースが行われる。

自転車競技にはスプリントなどと並びケイリン競技がある。日本の競輪から派生しておりルール面などがスポーツ仕様になっているのは柔道とJUDOのような関係に近い。五輪では00年シドニー五輪から五輪種目に採用、08年北京で男子ケイリンで永井清史が銅メダルを獲得した。12年ロンドンからは女子ケイリンも正式競技に加わった。

「現在、自転車競技全般で日本は苦戦しています。自転車競技発展のためにもケイリンから世界基準のフォーマットで戦わないといけないというのがありました」

「競輪のお客さんの高齢化が進んでいます。もちろん施設自体も老巧化が進んでいる。若いファンを取り込んでいかないと競輪業界の未来はありません。足を運びたくなるスポットにする。レース自体も国際規格に合わせ将来的に海外選手も呼べるようにする。PIST6が発展すればレベルも上がり五輪のメダリスト育成にもつながります」

スタイリッシュなドーム型の建物は公営競技場には見えない。

~千葉競輪場がティップスタードームに生まれ変わった

環境をドラスティックに変えるため千葉競輪場は解体され21年にティップスタードームが完成、同年10月から『PIST6』が開催されるようになった。

「千葉市は17年度末で事業を廃止する方針を打ち出していた。そこで当時の包括委託先だったJPF(当時・日本写真判定)が『自分たちでお金を出すから新しいフォーマットで復活させて欲しい』と千葉市へ提案しました。JKA(競輪とオートレースを統括する共益法人)と協議して新しい競輪の種目(250競走)としてPIST6が実現することができました」

前身の千葉競輪は1949年に開設され70年近い歴史を誇る競輪場だった。1周500mの大型バンクで過去にはオールスター戦や日本選手権が開催されたこともある。しかし老朽化が進み改修予算等のメドもつかないことから管理する千葉市では廃止案が検討されていた。そこへJPF側から提案がなされ全面改修での競輪場存続となった。

施設名も当初は千葉JPFドームだったがインターネット投票サービス・TIP STAR(ティップスター)を運営するミクシィが命名権を獲得した。加えてJPFとの合弁企業である株式会社PIST6を設立しPIST6のお客様体験の向上に乗り出した。

エントランスには現代美術家・松山智一氏の作品を常設展示するなどアート感が漂う。

~1周250m、国際基準バンクでのケイリン

「国際基準のバンクで経験を積まなければ国際的な競技レベルは上がりません。控室など清潔でなければ選手のモチベーションも上がりません。環境が良くなることが質の高いレースを生み出すはず。見たいと思っていただければお客さんも増えます。そのために最善のものを取り入れたのがティップスタードームです」

「古くからの競輪のイメージを変えていきたい。国内ではサッカーのtotoやBIGもありますし海外でもスポーツベッティングは盛んです。ルールや倫理観を尊重すれば競輪は健全な娯楽になります。競技自体も五輪につながっているので競技やアスリートのカッコ良さを前面に出していきたい。演出、ファンサービス等に力を入れテーマパークに負けないようにして新たな層を取り組んでいければと思います」

選手が使用するバンクはもちろん控室などのバックステージは他競技に引けを取らないものとなった。お客のための施設やシステム、場内演出などは従来の競輪イメージを変えるものだ。また場外販売が常識だった業界において車券販売をスマホなどネット上のみにするなど、従来競輪からのドラスティックな改革にも挑んでいる。

「以前の千葉競輪は1周500mでしたからコンパクトで観やすくなりました。スタンドは着席型椅子席で収容人員は約2000人。レーザーライトやスモークを活用、ダンサーも加わった華々しい演出がウリの1つです。バンク中央に吊り下げられたセンタービジョンではリプレイや車載カメラからの迫力ある映像が楽しめます。飲食にもこだわりオフィシャルグッズが購入できるショップもあります」

選手1人ずつスモークの中を入場してくる様子はまるで格闘技のようだ。

「施設内で車券販売はしておらずネット販売を通じて完結します。ミクシィが運営するティップスターで専売しています。入場券もPIST6のオフィシャルサイトからの購入でレギュラーシートが2000円、ホームストレート最前列のプレミアシートで5000円。場内での飲食物購入なども全てキャッシュレス決済などデジタル化を進めています」

以前の公営競技場は暗い、汚いなどイメージは決して良くなかった。しかし近年では競馬場が次々と大規模改修するなどして若年層を取り組むことに成功、カップルや若い女性などを見かけるようになった。競輪界は遅れをとっている感もあったがPIST6が先陣を切る形となった。

~スポーツとしてケイリンを楽しんで欲しい

「基本は週末の土日開催で年間100日のレース開催を目指します。コロナ禍も重なり現在は苦戦していますがまだ始まったばかり。ティップスタードームという他競技、業種と比べても快適性で負けないハコはできました。次は認知度と興味を上げることが大事でケイリンのスポーツ性が本当に重要になります」

「PIST6は公営競技ですが基本はスポーツとして見てもらって面白いと感じて欲しい。ケイリンは迫力がある、選手の技術や能力が高い。そう感じてもらえれば足を運んでもらえるはずです。ケイリン観戦だけでも楽しいのに加えてベッティングがあればさらに熱くなれるはずです。週末の至福の時間をティップスタードームで過ごしてもらいたいですね」

最速で時速70キロと言われるスピードと迫力に圧倒される。

北京五輪におけるスノーボードなどエクストリームスポーツが大人気だ。速さ、高さ、危険さなどの「extreme(過激さ)」要素が定義ならば、ケイリンも同じカテゴリーに加えてもおかしくない。最速で時速が70キロとも言われるケイリンを実際のバンク間近で見るとスピードと迫力に圧倒される。

今後、国際自転車競技連合(UCI)の承認があればティップスタードームでの国際試合開催も可能となる。自転車界のスーパースターたちを千葉で見られる日もそう遠くはなさそうだ。新たな娯楽となる可能性を秘めたケイリン、今からチェックしておいても損はない。PIST6の今後に大注目だ。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/株式会社PIST6)

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