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【スケートボード 永原悠路(後編)】サステナブルな取り組みとして使用済みデッキをギターに生まれ変わらせたい!

現在、永原は自分を取り巻く人たちやスケートボードができる環境に感謝し、使用済みのデッキ(スケートボードの板:乗る場所)のリユース(再利用)計画を進めるなど環境問題にも取り組んでいる。来年開催されるパリオリンピックに向けた戦いが始まっている中、今後の目標も聞いてみた。(取材/文:大楽聡詞、取材協力/写真:株式会社SFIDA)

アクションスポーツの最高峰国際競技大会「X Games」出場!

2022年4月、永原悠路(以下 永原)は日本オープンで優勝。その後、同月千葉で開催されたX Games Chiba 2022男子パーク競技で日本人初の入賞を果たした。

X Gamesは、スケートボード・BMX・Moto Xなどのアクションスポーツの国際競技大会。世界各国で開催される。

日本の会場は千葉のZOZOマリンスタジアム。X Games男子パーク競技に出場できるのは世界から16名のみ。永原はその中の1人に選ばれた。どのような経緯で決まったのだろうか。

「いきなりインスタグラムに招待状が届きました(笑)。その後、正式な招待状をメールで受け取りました」

世界大会の招待状がSNSのDMで届くとは令和ならでは。さまざまな競技が行われるX Gamesは3日間開催。永原が出場した男子パーク種目は2日間行われ日本人初の決勝進出、4位入賞を果たした。

第5回日本スケートボード選手権大会!

2022年11月、新潟で開催された第5回日本スケートボード選手権大会(以下 日本選手権)。全種目中、一番注目が高かったのは男子パーク。

地元新潟出身で北京五輪スノーボードハーフパイプ金メダリストの平野歩夢。平野と東京五輪代表の座を争った前年の日本選手権覇者である笹岡建介。そして永原。

大会は3本走り、合計得点で競われる。

永原はボードの一部が欠けた状態で臨んだが、2本目に大会最高のランを決めて優勝した。

「日本選手権はコロナ対策で無観客、関係者のみ。今まで観客がいて盛り上がっている状態が自分のモチベーションに繋がっていたんです。でも観客がいないと全然空気感が違って慣れない環境で緊張しましたね。同じことを感じていた選手も多く、思い通りの滑りができなかったようです」

スケートボード選手・永原悠路の休息

永原は1年を通して活動するため、身体的ケアも同時に行わなければならない。

ひとつの大会が終わったら、すぐ次の大会に向けての練習に移る。スケーターにとってそれが普通の感覚なので、「必ず休みを取らないといけない」という概念はない。

常に集中し緊張状態で練習を行う。大会の雰囲気をイメージして普段の練習に取り組まないと身につかないし、そもそも練習にならない。

大会を主としてスケートボードをやっていると「遊びのスケートボード」ではなくなる。最近は「仕事としてのスケートボード」を意識するようになった。

その状況で「気分転換だ」と感じるのは何をしている時だろうか。

「美味しいものを食べている時が唯一スケートボードから離れている感覚かも(笑)。でもモチベーションを継続させるためには、スケートボード以外に趣味があった方がいいかもしれないですね」

練習を共にしたボードを別の形で蘇らせたいと語る永原

使い終えたスケートボードを再利用して楽器に

永原は、競技以外にも関心を寄せている事がある。それは、使い終えたボードの再利用について。選手は月に2〜3本、少なくても年間24本は交換している。

角に当たったりするとデッキの端が欠けたり、割れやひびが入ってしまう。テール(後ろの部分)が削れ過ぎると、感覚が変わってトリック(技)習得の妨げになる。また、デッキが湿気てくるとハジキが悪くなりトリックにも影響が出る。結果としてケガの原因となる可能性もある。

スケートボードの競技者人口は日本国内で約3000人、全世界で約8500万人。全員が1カ月に2,3本を交換・破棄するとは限らないが、役目を終えたボードはほとんど破棄されてしまうそうだ。

永原はスケートボードに出会ってから、交換のたびに破棄されていくボードを見て「何かいい方法はないか」と考えてきた。

ボードは苦楽を共にしてきたパートナー。練習や大会で一喜一憂しながら一緒に頑張ってきた。だからこそ「捨てれば終わりではなく、違った形で蘇らせてあげたい」という想いがある。

具体的には、どのような再利用を考えているのか?

「スケートボードのデッキ(板)を使ってギター制作に再利用できないかと考えています」

永原は、他にもベースやドラムのスティックなど、楽器に使われるのが良いと考えている。

スケートボードのデッキの素材で有名なのはハードメープル(さとうかえで)という重厚な木材。それを加工した薄いベニヤ7枚をプレス、カットしてデッキが作られる。

ハードメイプルはとても硬い材質であるため、ギターやベースのネックにも最適な木材だ。レスポールなどのボディのトップ材としてもよく使用されている木材である。

ギターを選んだ理由は、「競技中や練習中の音楽は欠かすことが出来ない。スケートボードなどの横乗り系スポーツと音楽は切っても切れない関係にある」から。

永原自身もジャンルを問わず音楽好きで、最近はロック系を好んで聴いている。「スケートボードとロックのコラボが実現できたらすごい!最高です」と目を輝かせた。

「僕以外のスケートボード選手からも使用済みボードを提供いただいて、スケーターの思いが込められたギターを作りたい。そしてアーティストの方から1曲弾いてもらえたら…それが出来たら最高だと思います」

樹木が形を変えボードとなりスケーターの身体の一部として走る。そして魂を吹き込んだ楽器となり音を奏でることができたら素晴らしい繋がりになる。

永原はスケートボード界だけでなく環境問題にも関心を持ち、自分ができることを模索している。

今後の目標について

永原の今後の目標は二つ。一つは競技者として世界の頂点に立つこと。

「昨年の日本選手権で日本一を獲得したので、ステージを上げて世界一を獲れるように頑張りたい」

来年2024年7月26日〜8月11日にパリオリンピックが開催される。出場権獲得をかけた予選大会が世界各国で行われ、すでに挑戦は始まっている。

もう一つの目標は「スケートボードを広める、伝える」だ。つまり世間のスケートボードに対する印象を良い方向に変えていくこと。

これまでのスケートボードに抱かれたマイナスイメージは、東京オリンピックで正式種目に採用され風向きが変わった。

「まだ少なからず素行不良のイメージがあると思うので、『スケートボードはクリーンなスポーツだよ』とキチンと伝えたい。そのためにもお手本となるスケーターを心がけています」

スケーターは努力家でストイック。転んでケガを負っても何度でも立ち上がり、諦めない根性と精神を持っている。絶え間ない努力や苦労を表に出さず高難度のトリックをやってのける。そんなクールな部分も魅力的だ。

2023年2月、2024年パリ五輪予選対象大会第1戦となる世界選手権がアラブ首長国連邦(UAE)のシャルジャにて開催された。

永原悠路は男子パークの日本勢最高位で23位。準々決勝での敗退となったが、最後のランでは新技キックフリップバックサイドリップスライド(板を空中で1回転させてコースの縁を滑る技)を決め、会場は観客や選手らの歓声に包まれた。

転倒などの影響もあって得点が伸びず準決勝に進むことができなかったが、永原が会場を興奮の渦で沸かせたのは確かだった。

さらなる躍進が期待される永原悠路、男子パークの頂点に駆け上がる彼の活躍を応援しよう。
<おわり>

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