ポニーリーグ“コルト”は、高校での更なる成長を促すためのカテゴリー
中学硬式野球・ポニーリーグ“コルト”は、主に中学3年生が対象のカテゴリー。選手達にとって、高校入学までのプレーできない空白期間が生まれないための工夫から創設された。中学3年夏には“引退”となる、部活動や他団体との差別化にも繋がっている。
11月22~23日、島手そうめんカップ第4回東日本コルト選手権大会が開催された。東日本地区各地の予選を勝ち抜いた8チームが秋晴れの千葉に集結、熱戦を繰り広げた。

~ベストに近い状態で高校へ送り出したい
「中学3年生というポニーリーグの経験を積んだ選手達による、スムーズで締まった印象の大会です」と、同大会の関東連盟副運営局長・水野健一氏は説明をしてくれた。
「選手の多くは、中学1年からポニーリーグでプレーしている。3年間、リーグに在籍しているので、大会の流れや雰囲気などもわかってくれている。試合はもちろん、運営面もスムーズに進行できます」
「最も気を遣うのは、選手の怪我や故障です。この時期に何かあれば高校生活に直結しかねません。そういった部分でも各チームが身体のケア等をしっかり行なって大会に挑んでくれています」

11月の関東地方は晴天に恵まれる日が多いが、少しでも陽が隠れれば気温は急降下してしまう。選手のコンディションには最大限、気を配る必要がある。
「冬場直前まで実戦経験を積めるというのは大きいはず。高校受験に向け勉強にシフトチェンジした選手もいるでしょうが、参加した選手とっては非常に大きな意義がある大会だと思います」
何度も口にするのは『選手ファースト』。高校で野球を続ける選手にとっては、少しでも上達して欲しい。ベストに近いコンディションを維持して欲しい。そういった強い思いが根底にある大会だ。
「この時期まで大会開催する意義を、選手・保護者・関係者のみんなが共有したい。そして3年生にとっては最後の大会、思い切って戦い楽しんで欲しいです」

~“コルト”は結果ではなく、先(=高校野球)に繋げてほしい
各地区を勝ち抜いた8チームで行われた今大会に東北連盟から参加した、酒田ハーバーポニー(山形県)とあきた中央ネオグリッターズポニー(秋田)に話を聞くことができた。
酒田ハーバーポニー(以下酒田HP)は12名の少数部隊で参加。昨年度優勝の市原ポニーを最後まで追い詰めたが、「2-5」で惜しくも敗戦を喫した。
「昨年は、優勝した市原ポニーさんに『1-7』で負けました。今年はリベンジを果たすつもりでやってきましたが…」
酒田HPを率いる朝井光彦監督は、悔しそうではあったが笑顔で話してくれた。
「『東日本の強豪チームと対戦してどのくらいできるか?』が楽しみな大会。東北地方はこの時期には雪が降り始めるところもあります。ボールを握ることもままならないのに、試合ができるなんて最高です」
どの競技でも言われる「雪国のハンデ」を、少しでもカバーできる大会。「選手だけでなく、指導者にも良い経験になります」と言葉に力を込める。

山形県の高校野球が全国で勝てない時期があった。「改善のため、中学生から硬式球に触れよう」という取り組みが始まり、中学硬式チームも次々と誕生。酒田HPもその1つで、活動24年目を迎える歴史あるチームだ。試合経験を増やす理由もあって、3年前からはポニーリーグに加入している。
「酒田HPには、『中学軟式の選手がプレーする場を広げよう』と考えて創設された歴史があります。学校の練習後に集まって硬式で練習をする形なので、“経験値”が圧倒的に低いのは認識しています。それでも、先(=高校野球)に繋げるために懸命にプレーしてくれれば嬉しい。ポニーリーグ加入も、選手のプレー機会が増えることで“経験”を積んで欲しいからでした」
交代選手が再度試合に出場できる“リエントリー制度”などのあるポニーリーグで、選手達は“経験”という大きな武器を積み重ねている最中だ。
「負けてしまいましたが、選手達にとっても忘れられない“経験”になったと思います」と、最後まで穏やかな表情は変わらなかった。

~感謝と覚悟を常に感じてもらいたい
あきた中央ネオグリッターズポニー(以下あきた NGP)は、登録メンバー25人(記録員1人)がマイクロバスに乗ってやってきた。
「これだけの大人数で来れたことが嬉しい。協力してくれた父兄、関係者の皆さんに心から感謝しています」
佐々木将監督は、支えてくれる人達への感謝の言葉を何度となく繰り返した。
「ご家族の協力を得られないと、遠征試合に行けません。『東日本コルト選手権をみんなで目指して、完全燃焼しよう』と、早い段階から話し合いました。この大会へ向けて、予算等もしっかり組んでやってきました」
「秋田から関東への遠征だと、現実的にお金もかかります。でもそれ以上に得るものは大きいし、相応のものを選手・ご家族にも還元できるようにしたい。それは、東北の中でプレーするだけでは得られない“経験”だと考えています」

実息がプレーしていたチームのコーチを務めたことで中学野球と関わり始めた。「地元のニーズに合ったチームを…」との思いを持ち、あきた NGPを立ち上げた。
「野球選手は試合に出場して、プレッシャーのかかる場面でプレーすることで成長します。ベンチにいるだけでは知識は増えても経験値にはなりません。試合出場機会を増やせるポニーへの加入を決めたのも、そういった理由からです」
「酒田HPさん同様、普段は軟式をやっている選手が多い。硬式のプレー経験は少ないですが、実戦に出ることで着実な上積みができます。発展途上の自分自身の現在地を知れる意味でも、東日本コルト選手権はとても重要な大会だと思います」
「野球をやらせてもらった感謝。そしてこれから先への覚悟。選手達には、この2つを常に感じて欲しい」と付け加えてくれた。地に足がついた、素晴らしい考えの言葉をもらえた。

~“コルト”は『選手ファースト』、選手のために存在する
「プレーボールがかかれば、それは勝ちたいですが…」と、控えめだった佐々木監督。しかし、あきた NGPは堅実な野球で勝ち進み、決勝で三鷹立川ポニーコルト連合(関東連盟)を「8-2」で下して初優勝を飾った。
「朝4時に無事、秋田へ到着しました。子供達から、多くのことを学ばせてもらえた大会でした」
大会翌日、佐々木監督から丁寧にメールが届いた。最後まで選手を立てることを忘れない文面が印象に残った。

大会運営側、チーム関係者の誰もが、『選手ファースト』を掲げる。野球界、そしてスポーツ界にとって重要なものであることを再認識させられた。
今大会で躍動した3年生達が、次の舞台でどのような活躍をするのか、非常に楽しみになった。多くの原石が、高校へ進んでもさらに磨かれ輝きを増すことを祈りたい。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・日本ポニーベースボール協会)

