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「横浜市旧市庁舎街区活用事業」関内エリアに新たにできる歴史の継承と次世代の創造空間〜第3期 横浜スポーツビジネススクール 第3回編〜

22年12月3日から1月28日の間、横浜市内で開催された「第3期 横浜スポーツビジネススクール」。横浜DeNAベイスターズが開催しているビジネススクールで、全5回に亘り行われた。

各回をお送りする連載企画の本編は第3回。前回は「球団経営から学ぶ、スポーツの新たな魅力作り」で、ビジネスにおける考え方や取り組みについて学ぶ機会となった。

第3回は、「スポーツ×まちづくりから見る、コンテンツの活かし方」をテーマに講義が展開された。

(取材協力:横浜DeNAベイスターズ、撮影 / 文:白石怜平)

現在進められている「横浜市旧市庁舎街区活用事業」

今回講師を務めたのは、三井不動産株式会社関内プロジェクト推進準備室の大坪兼士さんと、株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)スマートシティ統括部の川野卓也さん。

両社は現在進められているプロジェクトの「横浜市旧市庁舎街区活用事業」の共同事業者である。

この事業は、関内駅前にある旧横浜市庁の跡地再開発事業。横浜スタジアムに直結された、総延床面積約128,500㎡の大規模ミクストユース(複合利用)プロジェクトである。

全体イメージ図(提供:三井不動産)

昨年7月に着工され2025年12月に竣工・供用開始、そして26年春にグランドオープンを迎える大型プロジェクト。

三井不動産を代表企業とし、DeNA、鹿島建設株式会社、京浜急行電鉄株式会社、第一生命保険株式会社、株式会社竹中工務店、東急株式会社が参加し、加えてテナントとして株式会社関内ホテルマネジメント(株式会社星野リゾート100%子会社)を加えた8社によるコンソーシアム(共同事業者)として推進している。

本プロジェクトのコンセプトは、「MINATO-MACHI LIVE(みなとまち ライブ)」。

 ”「新旧融合」を特色に、旧市庁舎行政棟を保存・活用し横浜の文化を継承し、格式ある景観を形成します。また、次世代の横浜を象徴するエンターテインメント&イノベーションの拠点となり、新たな感動とにぎわいの源泉となる街を創造します”

と、8社合同のプレスリリースにて発表されている。講義では両社がこのプロジェクトにかける想い、どんなものを創ろうとしているのかなどが語られた。

三井不動産が目指す関内エリアの「継承・再生・創造」

本事業は19年1月に公募開始であったのだが、三井不動産はその3年ほど前の16年から検討を開始していたという。

当時はまだ横浜市庁の移転前(現市庁舎は20年6月に供用開始)。その頃から未来を予測し、着目していた。そして公募開始から約半年後にDeNAらと入札に参加し、選出された。

大坪さんは、本事業には”継承・再生・創造”という3つの理念があると解説した。同社は日本橋再生事業も手がけており、ここでは「残しながら、蘇らせながら、創っていく」をコンセプトとしている。

100年以上前の古くから栄えてきたという日本橋・関内に共通点があることから、そのノウハウも活用している。

”継承”というのは、この旧市庁舎を保存活用することである。

日本建築界の巨匠である村野藤吾さん(1891~1984)により、横浜開港100周年記念事業の一つとして設計された傑作(1959年竣工)であり、横浜発展の歴史を象徴する記憶と風景を表している。

「ハードとしても残すのですが、村野さんが先進的なアイデアを出して実現した。その魂も引き継いで継承していきたいという想いを持っています」(大坪さん)

ここでは外観的特徴を活かして観光ホテル「OMO7横浜 by 星野リゾート(仮称)」や商業施設へと生まれ変わる。

都市観光ホテル「OMO7横浜 by 星野リゾート(仮称)」へと活用される(提供:三井不動産)

”再生”これは、関内が開港から163年もの間たくさんの遠方や海外の方々を迎え入れてきた歴史がある。異文化を受け入れ成長してきたこの場所を、もっと活気あふれる場所にしたいという意図がある。

これを実現する1つが、ライブビューイングである。セントルイスなど、メジャーリーグのある地域で浸透している”文化”を融合させ、関内をさらに盛り上げていく。ここは後述するが、DeNAにて手がけられる。

三井不動産の大坪兼士さん

そして”創造”、これは関内・関外エリアを新産業構造のクラスターにすることである。

「MINATOMACHI-LIVE」のコンセプトにもあった、”次世代の横浜を象徴するエンターテインメント&イノベーションの拠点となり〜”の部分になる、新産業創造拠点を三井不動産が担う。

同社は、一般社団法人STELLAR SCIENCE FOUNDATION(以下、SS-F)と協力し、科学分野における研究者の研究活動支援や関内で新産業創造のエコシステム構築を目指している。

SS-F代表理事の武部貴則さんが抱く、”研究者を発掘して支援していく”ことに共感し、それを関内で実現させたいと三井不動産は考えている。

DeNAが新たに創る”横浜を応援する”場

一方、DeNAが本プロジェクトで担う部分については川野さんにて共有された。

「まず我々は”商業の床”を用意します。どのようなテナントさんを誘致するかを計画しています。誘致の方針としては、試合に来る方にとってどんなものがあったら楽しいか・試合がない日にはどんなものがあったら来ていただけるかを念頭に置いています」

DeNAとして2つの役割があると解説した川野卓也さん

商業の床を持つだけではなくもう1つ重要な役割を担っている。川野さんはこう続けた。

「DeNAとして直営で店舗を出します。店舗は2種類ありまして、『ライブビューイングアリーナ』と『エデュテインメント施設』です」

前者は、大坪さんからも話があったライブビューイングアリーナ。関内駅前に建つ約3,000mを誇る日本初(※1)の常設型で、大迫力のスクリーンと高性能の音響が設置される。

ホームだけではなくビジターの試合でもベイスターズを応援することができるのが特徴。スタジアムの”リアル”とライブの”デジタル”を融合させ、多様な観戦スタイルが確立される。

※1 スポーツ・飲食・大型スクリーンによるライブ配信を組み合わせた常設型ライブビューイングアリーナとして日本初((株))丹青社調べ(2022年6月))

ここでのテーマは”横浜を応援する”。ベイスターズに加えて横浜F・マリノス(サッカー)や横浜ビー・コルセアーズ(バスケットボール)といった地元のスポーツチームを同時に応援できる場が創られる。

ライブビューイングアリーナのイメージ図(提供:DeNA)

「ファンのみなさんに”選択肢”を提供したいと考えています。『今日はライブの気分だな』と思えば立ち寄ってもらえるというような観戦のバリエーションを広げていきたいですし、関内に来ていただける回数をより多くしたいと思っております」(川野さん)

後者のエデュテインメント施設は、”子どもたちの「未来」を豊かにする”を事業コンセプトに掲げた施設で、DeNAが培ってきたエンタテイメント分野にテクノロジーとエデュティメント要素を掛け合わせたものを、これから創っていく予定である。

「ここの施設で実現したいのは子どもさんに『ここで遊ぶのがすごく楽しい!』と感じていただくこと、その姿を見ているご家族にとって子どもさんの自主性が伸びるような仕掛けを検討しています」

2人がそれぞれ語ったプロジェクトへと受講生の方達に向けた想い

26年春に向けて着々と準備が進められている関内エリア。企業としての方針に加えて、現場で最前線に立つ2人もこのプロジェクトに懸ける想いを語っていた。

川野さんは講義の中で、実現したい未来についてワクワクした表情で語っていた。

「僕がDeNAに入社してやりたいなと思ったことが、ハマスタで試合を見ていて、ホームランを打った時とかにその場にいた方達とハイタッチしたりする時とかありますよね?

それを街レベルでやれたらすごいなと。例えば横断歩道を渡った時とかに手を交わすことができるような、そんなことを実現させたいと思っています」

自身の抱く理想像も語った

一方、大坪さんは凛とした表情で熱く語った。

「コロナ禍で、リアルの場の価値・重要性を認識する機会になったのではないかなと。ここ関内に多様な方たちが集まる”場”ができることで、様々なものやイノベーションを生み出していきたいですし、このプロジェクトを創り上げて関内エリアを活性化させたいです」

関内エリアをさらに発展させる中心を担っている

最後に質疑応答コーナーが設けられ、前2回同様に講義時間と同じほどの時間となるほど活気を見せた。

2人は講義終了後、受講生たちに向けて今後持ち帰ってほしいことを訊くと、それぞれ謙遜しながらも語った。

「みなさん色々な仕事をされていますが、弊社も私も新しい挑戦をやってきたからこそ今があります。それはどんな仕事においても一緒だと思うので、これからも恐れずにトライし続けてほしいです」(大坪さん)

川野さんは「DeNAはまちを活性化させるためにたくさんのチャレンジをしています。特にこの横浜で今力を入れて取り組んでいるんだということを知っていただけたら嬉しいです」

(第4回目へつづく)

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