【DDTプロレス クリス・ブルックス】4年間DDTが自分に与えてくれた分の恩返しをしたい
5.21後楽園ホールで「KING OF DDT 2023」の優勝者が決まる。準決勝に進出したのは前DDT EXTREME王者の秋山準、昨年のD王GP覇者である上野勇希、前KO-D無差別級王者の樋口和貞。そして、クリス・ブルックス。2022年、クリスは高梨将弘とのタッグチーム「CDK」で第73代KO-Dタッグ王座を戴冠。だがシングルプレイヤーとしての結果は残せていない。今回、KING OF DDT 初制覇に燃えるクリス・ブルックスに迫る。
最初は顔にペイントしたレスラーに魅了された
クリス・ブルックス 1991年8月24日生まれ、イギリス・ティプトン出身。身長196cm、体重87kgの長身レスラーでサブミッションからハードコアマッチまでこなすオールラウンドプレイヤー。クリスがプロレスに触れたキッカケは、叔父が持参したレッスルマニアとロイヤルランブルのビデオ。6歳のクリス少年はビデオを繰り返し鑑賞、見事プロレスの魅力にハマった。
「顔にペイントを施しているレスラーに魅了されました。具体的にはロード・ウォリアーズ、デモリッションズとかアルティメット・ウォリアーかな。試合の内容よりも見せ方を重要視しているレスラーに興味を引かれましたね」
イギリスに住むクリス世代のプロレスラーが「レスラー」としてのキャリアをスタートさせる場合、「バックヤードプロレス」がある。クリス曰く選手の自宅の裏庭で行う「プロレスごっこ」みたいなもの。ここでレスラーの下地を作り、本格的にレスラーを目指す知り合いも増えた。
「日本だとプロテストを受けて団体に入門するけど、海外ではプロレスラーが教えるスクールで学ぶのが一般的。バックヤードプロレスを通じてレスラーを目指す彼らと出会い、レスリングスクールへのルートができました。ただ学生時代、僕は運動神経が良い方ではなかった。だからプロレスラーになれるなんて想像もできなかった。気が付いたら出会いを通して道が開けた感じです」
レスリングスクールに通っていた仲間たちとリングを借りて工業団地の一角で大会を開催。それが上手くいった。その後リングを購入し、自分たちでオファーし外部からレスラーを集う。当時クリスは14.15歳。レフェリーをしながら参加し16歳でデビューした。
「その団体はとても手作り感あふれる興行で、他の団体から選手が手伝いに来てリング設営や撮影、レフェリーをしてくれました。たまに何かのアクシデントで選手が来られなかった時、僕が代わりに出場させてもらう感じでしたね。でもデビューはしているものの他団体へ定期的に出場できるようになるまで、この頃(2007年)から5年ぐらいかかりました」
WWEのレッスルマニアやロイヤルランブルを観てプロレスに興味を抱いたクリスだが、デビューした頃から好きなプロレススタイルが変わり、日本のプロレスやインディー、アメリカのインディー団体にシフトした。
「プロレスの好みが変わった頃にファイトクラブ・プロ(Fight Club Pro)の存在をTwitterやFacebookで目にしました。彼らが招聘していたレスラーがドイツのインディー団体や元大日本プロレスの石川晋也選手。「これはちょっと一味違う面白いことをやっているぞ」と感じて、ファイトクラブ・プロのトレーニングプログラムに参加しました。それまでやっていた『ローカルインディースタイル』を一度全部捨てて、また一から学び直すという意味でリスタート。一年間トレーニングしてファイトクラブ・プロでデビューしました」
ファイトクラブ・プロはイギリスのプロレス団体。2009年にウルフギャング・スタ―とトレント・セブンによって設立。2019年1月に日本に初上陸、後楽園ホールで大会を開催。現在WWEで活躍するセンダイガールズの里村明衣子と戸澤陽がタッグを結成しセミファイナルに登場。その対戦相手がキッド・ライコスと初来日のクリス・ブルックスだった。
この日のメインイベントは、昨年DDTのD王GPに参戦したRSP(リッキー・シェイン・ペイジ)や大日本プロレスでBJW認定デスマッチヘビー級王座を獲得したドリュー・パーカー、そして竹田誠志らの4WAYデスマッチ。
バックステージでDDTの高木三四郎社長に声をかけられたクリスは、初来日から5か月後の2019年6月DDTに参戦。2020年から日本に移住し、高梨将弘とタッグチーム「CDK(Calamari Drunken Kings)」を結成。これまでDDT EXTREME王座やDDT UNIVERSAL王座、KO-Dタッグ王座などのタイトルを獲得している。
CDKでの活動が充実した2022年。だがシングルは課題が残った
2022年はパートナーの高梨将弘とCDKでの活動が多く、日本だけでなく台湾・シンガポール・イギリス・ドイツと海外遠征も行い、アジアドリームタッグ王座やSPWタッグのタイトルも獲得した。
ただしシングルマッチはKING OF DDT2022で1回戦負け。年末に行われたD王GPでは2勝3敗。昨年はシングルタイトルに一度も挑戦していない。
「2021年9月の竹下幸之介選手と対戦したKO-D無差別級タイトルマッチで、シングルプレイヤーとしてはすごく良い地位まで上りつめたと思ったけど、2022年はステップバックしてしまったという感覚がある。タッグマッチは自分でも充実感があったけど、シングルマッチは成績を残せなくて課題の残る一年だった」
プロレスはいろいろな試合形式が楽しい。例えるならビュッフェみたい
パワー対パワーの応酬、関節を取り合うサブミッションから道具を使うハードコアマッチ、ミクスドマッチから路上プロレスまで幅広い戦いをみせてくれるクリス・ブルックス。彼にプロレスの魅力を聞いてみた。
「プロレスはどんな試合形式も楽しいです。例えるならビュッフェみたい。洋食、和食、魚、鳥、ご飯…いろいろなものを味わいたい。そういう感覚です。自分のスタイルを貫き通すレスラーが結構多い。ただ私はもったいないと感じています。やっぱりプロレスって幅のあるものだし、多種多様なスタイルがある。せっかくプロレスラーでいる以上、いろんなスタイルをやってきたい。自分が飽き性なのもあるかもしれないですけど(笑)」
一つのことにこだわらず様々なスタイルに挑戦する。そんなクリスでも苦手なものが…
「デスマッチ選手は尊敬しているけど、デスマッチは絶対できないと思う。それに痛いだけでOKみたいなハードコアは、あまり好きじゃない。その違いは、『何が痛いか』じゃなくて『何が面白いか』。だからクリエイティブなハードコアが大好き。イメージは映画「ホームアローン」の泥棒を撃退するときのシーンみたいな(笑)」
クリエイティブな戦いを追求するクリスは日本だけでなく海外でも活動する。そんな彼に印象に残った選手を聞いてみた。
「実際、1人のレスラーに絞ることは難しいけれど、あえて1人挙げるとしたら、MAO選手。MAO選手はちょっと変わった考えの持ち主というか、リング上で予想外の発想力を発揮する。だから何度戦っても同じような試合がない。そういうところが好きですね」
私生活でも仲が良いというクリスとMAO。音楽や映画などの趣味は合わないというが、唯一プロレスでお互いを認め合う。
2023年はシングルプレイヤーとして、わがままに戦う1年
クリスは「昨年がタッグの年だった反面、今年は高梨さんがDDTにあんまり参戦してないから、わがままに動ける時間なんだ」とクールにつぶやいた。
DDTのシングルプレイヤーとして、まだまだやり残したことがあると感じているクリス。タッグパートナーの参戦が少ないのであれば、シングルのタイトルを獲得しDDTでのポジションを確実なものにしたい。
「4年間DDTが僕に与えてくれた分の恩返しをしたい、と思っています。僕を日本に呼んでくれたのはDDTだし、来日してからもいろんな経験をさせてくれた。でもずっと停滞しているってわけじゃないけど、ここまで波がなく時間が過ぎた。キチンと恩返しできるようにもっと強くなりたいし、結果を残したい。例えば、蚊だったら血を吸って帰っていく。今は自分が蚊と同じではないかなって考えている。血を吸って去っていくだけじゃなくて、『与えてもらったものに対して恩返しする』、そういったモチベーションでDDTのリングに立っています」
「DDTへの恩返しをリング上で結果として伝えたい」。これこそクリスが一番求めていること。そのチャンスが現在開催中の「KING OF DDT 2023」。クリスはトーナメントを勝ち抜き、準決勝に進出した。
KING OF DDT 2023トーナメント ベスト4。決勝戦は5.21後楽園ホール
5月6日から始まった、KING OF DDT 2023トーナメント。クリスは1回戦、DDTのエースHARASHIMAを撃破し、続く2回戦も高木三四郎を倒し準決勝まで駒を進めた。そしてくじ引きで決まった準決勝の相手は秋山準。
「トーナメントが始まる前の記者会見で、僕は『HARASHIMAさんが一番DDTで強いレスラーだ』と言ったけど、そのことを秋山さんにも感じています。30年近くプロレス界のトップで戦ってきたレジェンドだし、一番強いHARASHIMAさんと同じくらいのレベルで戦っている。だけどHARASHIMAさんを倒せたから、秋山さんを倒すことにすごく自信を持っています」
HARASHIMAと秋山準の違いをクリスに質問すると「はっきりとは言い切れないけど…」と前置きした上で、クリスは話し始めた。
「あえて僕なりの見解で二人の違いをあげるとしたら、レスリングスタイルもそうですし、DDTというものに対して責任の違いっていうのでしょうか。HARASHIMAさんはずっと長く見てきているので、DDTに対して責任感の強さっていうのをちょっと感じています。秋山さんは他団体で長くプロレスをやってきて、DDTに辿り着いた。HARASHIMAさんはずっとDDTに居る。責任の違いをあげるとするなら、そこかな」
秋山戦を前に、クリスは不安をあまり感じていない。
「試合が終わった時、僕がレフェリーとリングに立っている姿が頭の中でハッキリ想像できるんだ。だから会場に来てください。会場に来てくれたら、僕が優勝している姿を絶対に見せる。とにかく会場に来て、その姿を見てほしい」
5月15日の夜、決戦を前にクリスはSNSで現在の気持ちを素直につぶやいた。その文面からは、クリスの並々ならぬ決意が伝わってくる。イギリスから異国の地・日本に来て4年。果たしてクリスは5.21後楽園ホールでシングルプレイヤーとしてDDTのトップに立つことができるのか。
(おわり)
(取材・文/大楽聡詞 写真提供/DDTプロレスリング)