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『ニータンの恩返し』プロジェクト名に込められた、トリニータが感じている恩とは…【僕らだから繋げるパスがある ~ 大分トリニータ、クラウドファンディングでの挑戦 (前編)】

  7月20日、大分トリニータはクラウドファンディング第二弾として、「『次は 大分のために。 #ニータンの恩返し!』大作戦」の開始を発表した。

第1弾「『本当に無観客!?段ボールサポーター(愛称:トリボード)でゴール裏を埋めよう!』」での、選手やチームへの応援・支援とは変わって「大分への恩返し」というテーマで、勝利数に応じた地元への寄附やスポンサー商品の購入を行う企画となっている。

チームが、本企画に込めた想いは何か。この挑戦は、チーム・選手・サポーター・地域にとって、どんな意味をもっているのか。本特集では3回にわたって様々な視点から取り組みに光を当てる。

<各回テーマ>
(前編)プロジェクトに、チームが込めた想い
(中編)地域、スポンサーが望む大分トリニータ
(後編)皆にとっての、プロジェクトの意味
 

 前編はチームが込めた想いだ。チーム内に関わる複数の方に話を伺った。

「うちのチームは、本当に多くの恩を受け取ってきました」

 大分トリニータの前身、大分トリニティで選手としてプレーし、現在はブルースタジアム推進部として本企画をリードする水島 伸吾(みずしま しんご)氏はプロジェクトへの想いを語る。

「我々は、『大分県を元気にする』というのがクラブとしての一つの存在意義だと思っています。だから、今回コロナ禍のなか苦しんでいる地元企業様、スポンサー企業様達の力になりたい。一緒に手を組みながら、助け合って困難を乗り越えていく、という形を具体化したいと思いました」

想いの背景にあるのは、大分トリニータの歴史の中でクラブに訪れた危機と、そこで受けた恩だ。『恩返し』というテーマについて伺うと、水島氏はまず次の言葉で口火を切った。

「うちのチームは、本当に多くの恩を受け取ってきました」

大分トリニータが乗り越えてきた窮地、その原動力

 大分トリニータはこれまでの活動の中で、様々な危機に直面してきた。今回のコロナ禍は勿論、経営危機、J3への降格…。この中でも、大きなインパクトがあったのが2009年に発覚した経営危機だ。約12億円の債務超過が明らかとなり、チームの存続が危ぶまれる状態となった。

事業が立ち行かなくなる、お金が回らなくなることが及ぼす影響。当時の中心選手である高松大樹(たかまつ だいき)氏は当時を振り返り、その恐ろしさを語ってくれた。

「2009年末、チームとしてJ2に降格してしまいましたが、ポポヴィッチ監督の元、ラスト10戦を無敗で終え、チームとしては士気高く、この体制ならいける、来年必ずJ1に戻ろう、という雰囲気で一つにまとまっていました。

 でもファン感謝祭後、選手達での納会の中で、12億の負債について、はじめて会社から発表されて、空気は一変しました。選手としても生活がある中で、残れるのか、(移籍金の為、他のチームに)移籍しなくてはいけないのか。そもそもチームは存続するのか。そんな不安の中、選手も一斉に代理人に電話しだして。一つにまとまっていたものが、こんなに簡単にバラバラになってしまうのだな、と。

 現場がどれだけ頑張っていても、(お金が回らなくなると)こういうことになってしまうのか、と感じました」

(2009年試合後の風景。この後更に苦しい状況が続くこととなった)

 危機に陥った大分トリニータ。3か年計画で立て直し、2012年にJ1復帰も狙える位置につけても、債務超過から昇格要件が満たせていない不安定な状態が続いていた。そこを救ったのが、地元経済界・行政からの支援、そして県民・サポーターからの募金だった。過去に例のない、3億円という額。J1昇格支援金募金に参加していた水島氏はこの恩について語る。

「選手たち現場は頑張っていてくれていましたが、チームの事業部分が足を引っ張っていました。J1昇格プレーオフの可能性もあるのに、事業部門は何をやっているんだ、というところです。もう頭を下げて支援・募金をお願いするしかない、という状態でした。

 ただ、必要額は総額で3億円(募金の目標として1億円、経済界1億円、行政1億円)という過去の事例を調べても前代未聞の額でした。だから、募金をお願いするにあたって最低額を指定したんです。¥5,000からお願いします、という形で、(こうでもしないと集まらないのだ、というのを)メッセージとして伝えるしかない、という判断になりました。募金に最低額があるなんて本当はありえない話だと今でも思います。

 だから、最初は不安だった部分もあります。が、始めたら、実際にどんどんお金が集まっていきました。クラブとしては、これだけの好意が本当に集まってきた、じゃあ何としてでもそれに応えなくてはいけない。絶対に(プレーオフに参加できる)6位以内に入らなくてはいけない。選手達、頼む、という方向に皆の気持ちが向かっていきました」

 選手も支援に込められた想い、クラブスタッフの願いを感じ取っていた。高松氏はその時を振り返ってこう言葉にした。

「実際に街頭に立ってお願いしていても、みんな数万円単位でお札をどんどん入れてくれていました。本当に県民一丸となって支えてくれているのだな、と感じました。

(それだけの期待を受け取っていたら)もう一丸とならない訳がないですよ。あの時、あの状況から昇格をつかみ取れたのは、本当に奇跡だったと思います。」

(2012プレーオフ決勝戦 vs ジェフユナイテッド千葉)

 2012年のJ2を6位で終え、J1昇格プレーオフに滑り込んだ大分トリニータ。昇格には一度の引き分けも許されない中で、プレーオフ準決勝の京都サンガF.C.に4-0で勝利、そしてプレーオフ決勝戦では苦手としていたジェフユナイテッド千葉に1-0で見事勝利し、J1昇格を勝ち取る。一度バラバラになったチームを一つにし、この奇跡を生んだのは、地域・県民からの支援だった。『恩』は8年前に受け取っていた。

(試合後、サポーターの元に向かう選手達。胸には「感謝」の文字が躍る)

チームが感じていた、地域への恩

チームから出てくるエピソードは募金の話に留まらない。水島氏は続けて語った。

「2015年、J3に落ちてしまった時もそうでした。J3に降格したらメディアへの露出が減ります。スポンサー様からは広告価値がなくなると捉えられ、減額や撤退、という話がでるのが普通だと思います。でも、減額の話ではなく、「1年で必ずJ2に戻るぞ」というメッセージをいただいた。そして、継続した支援をいただきました。サポーターの皆様もそうです。普通は動員数が減るはずなのに、かえって入場者数が増えた。実際にスタジアムに来ていただき続けました。本当に感謝しています」

 大分出身でユースから大分トリニータでプレーする岩田 智輝(いわた ともき)選手も地域の支援について「恩返ししたい」と語る。

「(J3に落ちても)継続的に応援してくれている、そんな雰囲気をとても感じていました」

「自分はずっと大分トリニータでプレーしていたのでなかなか気づけなかったですが、他のチームの選手と話していると、お前もっとやれよ、みたいな(激励ではなく)野次・文句に近いものは大分では本当に少ないんだな、と思います。暖かく見守ってくれる、応援してくれると感じています。選手としてプレー面でも結果を出して、恩返ししたいです 」

(インタビューで地元大分への感謝について語る岩田選手)

クラブとして見据える、大分トリニータがすべきこと、できること

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、元気の無くなった商店街、観光客減少に苦しむ観光業。6月には老舗のホテルがコロナに紐づく経営不振で破産するなど、大分の街は活力を失っていた。追い打ちをかけるように、令和2年7月豪雨では、日田市、九重町、由布市などを中心に大きな被害が出た。大分は県全体として、苦境に立たされている。2009年時の大分トリニータと同じ様な状況にある事業者も数多くいる。

(被災した大分の街。コロナ、災害の重なりにより、大分の街は大きな痛手を受けた)

 大分トリニータは、これまで預かってきた『恩』を返していきたいと思っている。水島氏は語る。

「我々は、大分を元気にする存在でなくてはならないと思っています。その為にはJ1という日本サッカー界のトップリーグにいて、大分の人に(例えばイニエスタの様な)スーパースターがプレーする姿を見てもらう機会をつくる、ビッククラブに勝利する、という競技部分での盛り上げはもちろん必要です。しかし、それだけではありません。

 大分トリニータという(プロスポーツクラブの)存在を使って、地域で苦境にある方々、企業の方などが、『こうしたい』『こうなったら助かる』ということを実現していける、プラットフォームの様な存在になっていきたいと思っています。 

 その為には、『我々トリニータが何かする』という立ち位置ではなく、『我々と一緒に何かしませんか、我々を活用して何かいいことやりませんか』という関係性を地域の皆様、企業の皆様と作っていきたいと思っています。それが、大分トリニータという会社をもまた強くします。スポンサー、サポーターの皆様と取り組めるこの第2弾プロジェクトはその一歩目を具体化するものだと考えています。

 皆様と一緒に、日常をまた取り戻していく。勝って笑顔になれる。そんな当たり前をまた作っていくことを見据えて、取り組んでいきます」

(プロジェクト、大分の街への想いを語る水島氏)

 勝利数と連動した寄附、スポンサー商品の購入。今回のクラウドファンディングに組み込まれた仕掛けには、「恩を返したい」という思いと、地域と新しい取り組み・関係を進めていきたいクラブからのメッセージが込められていた。

では、このパスを、受け手である大分はどう受け止めているのか。次回は、スポンサーや行政の立場から見た大分の街の現状、本企画や大分トリニータへの期待を語ってもらう。

(中編へ続く)

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