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クラブ、企業、独立を経てたどり着いた「野球を追求できる」場所~所沢グリーンベースボールクラブ、4年ぶりの全国へ(前編)

 2010年、創部6年目にして全日本クラブ野球選手権大会初出場初優勝を成し遂げた所沢グリーンベースボールクラブ(TGB)。埼玉県所沢市に本拠地を置く社会人硬式野球クラブチームで、元東京オリオンズの吉田孝之さんが「高校や大学を卒業し活躍の場を失った野球経験者が再び輝ける場」を設けるため創部した。

 2011、12年には4強入りするなど全日本クラブ選手権には計6度出場しているが、優勝からは長らく遠ざかっており、ここ3年は本大会への出場さえかなっていない(2020年は新型コロナの影響で中止)。世代交代が進み、「過渡期」を迎えつつあるTGBは、まずは4年ぶりの本大会出場を目指し7月29、30日に開催される関東予選に臨む。

歴史を知る裏方が抱くクラブへの愛情

 クラブの現状を「過渡期」と表現したのは、トレーナー兼マネージャーを務める吉田剛太さん(45)。柔道整復師として病院に勤めていた吉田は、父である孝之さんがクラブチームを創部すると知り、「勉強」のため発足時からトレーナーとして加入した。以降、裏方に徹し、現在は練習試合のセッティングやグラウンドの確保、会計といったマネージャー業にも勤しんでいる。発足から現在までを知り尽くす吉田に、クラブの歴史を聞いた。

 選手が育つ環境は、発足から数年の間に整った。社会人野球・東芝の元コーチや元巨人、中日の仁村薫さんらをコーチとして招聘できたことが主な要因だ。2010年には廃部したばかりだったABC東京野球クラブ(東京都昭島市)の選手が多数移籍したこともあり、選手層に厚みができた。全日本クラブ選手権優勝を機に入団志願者が増加し、5、6人の志願者を「来る者拒まず」で受け入れていた前年までとは一転、優勝の翌年に開催したセレクションには2、30人が参加したという。

裏方の役割を全うしている吉田

 しかし、優勝から遠ざかっている現在は再び「来る者拒まず」の状態になっている。吉田もリクルート面をクラブの最大の課題として掲げ、「今は世代交代の時期で、うまくリクルートができないと弱くなってしまうのでは」と不安を口にする。その一方、「最初は勉強のつもりで入団したので特別な思いはなかったんですけど、長く在籍する中でどんどん愛着は湧いてきています」というのも本音。クラブを愛しているからこそ、不安を抱えながらもクラブのために日々奔走することができている。

 近年は企業のバックアップを受け、就職先を斡旋するクラブチームも増えているが、TGBではその仕組みが構築されていない。つまり結果を出してブランド力を上げることが、入団志願者を増やすための一番の近道だ。「純粋なクラブチームとして『勝てるチーム』になりたい。企業のバックアップを受けているチームには絶対に負けたくない」。そう力を込めた。

波瀾万丈の野球人生、見つけたクラブチームの意義

 そんなTGBの主将を務めるのは、田口情志捕手(31)。入団4年目の今年、年齢を重ねるにつれ自らの衰えを感じる中で、「この1年にかけたい」との思いで村上友一監督に主将就任を直談判した。

 栃木県出身の田口は国学院栃木高、仙台大を経て、地元の強豪クラブチームである全足利クラブに入団。その後NPB入りを目指してBCリーグ・栃木ゴールデンブレーブスに1期生として加わるも1年で退団し、BC栃木の運営母体でもある企業チーム・エイジェックに移籍した。エイジェックでは入団2年目にコーチに転向。この年の都市対抗野球北関東第2代表決定戦で日立製作所に2-3で敗れた際、「もし自分が選手として出ていたら…」との考えが頭に浮かんだ。

 再び選手に復帰するため移籍先を探していた折、高校時代にバッテリーを組んでいた五十嶺慶一投手が在籍しているTGBへの入団を決意。当初はエイジェックに勤めながら週末の練習に参加していたが、昨年末からは埼玉県内の企業に転職した。

主将としてチームを引っ張る田口

 全足利クラブはクラブチームとはいえ企業のバックアップを受けており、就職先の斡旋がある上に平日も毎日全員で集まって練習することができた。独立リーグは野球そのものが職業であり、企業チームも練習が仕事の一部になっていた。一転、TGBは平日は各々が各々の場所で仕事をし、土日祝日に参加できる選手が集まって練習や練習試合を行うのが常。またこれまでとは異なり、道具や遠征費のほとんどが自己負担だ。野球に打ち込む環境は、大きく変化した。

 変化への対応は容易ではないはずだが、田口は「仕事をして、プライベートも充実させながら土日でいかに野球を追求するかというところが、デメリットであり、クラブチームの意義、魅力でもある」と話す。また「これまでの野球人生の中では最も実費がかかっている」としながらも、「その分無駄にできないし、お金をかけている以上追求しないといけない」と自身のモチベーションの維持にもつなげている。ここは、所属チームが変わるたびに職を転々としながらたどり着いた、田口の居場所だ。

 関東予選では、代表決定戦で当たる可能性のある古巣・全足利クラブとの対戦を見据えつつ初戦に臨む。「全国大会に出ることで注目度が上がって、チーム力も上がると思う。日本一から10年以上遠ざかり、若手も少なくなって弱くなってきたと言われ始めている。日本一になることで、応援してくれる企業も増えて所沢市を活性化させられるようになるのが目標」。目標を成し遂げるため、限られた時間で野球を追求し続ける。

打席に立つ田口

 柄澤祥雄。吉田と田口の取材中、二人が揃ってこの男の名前を口にした。吉田が「知識、技術、経験が豊富な柄澤の入団はすごく大きかった」と語れば、田口は「柄澤さんがいることが入団の決め手になった」と明かす。後編では、TGBを語る上では欠かせない、39歳の大エースに迫る。

(取材・文 川浪康太郎/写真提供 所沢グリーンベースボールクラブ)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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