【SEAdLINNNG 中島安里紗(後編)】やっぱりプロレスは戦いがないといけないし、強さがないといけない
SEAdLINNNG(シードリング)のエースとして、「BEYOND THE SEA Single王座(ビヨンド・ザ・シー・シングル王座)」を保持する中島安里紗。前編ではその生い立ちから2016年JWP退団まで。後編は新天地として選んだSEAdLINNNGでの闘い、今年3月に帰国した元WWEのSareeeへの想い、そして今後の目標などを聞いた。(取材・文/大楽聡詞 写真提供/SEAdLINNNG)
新天地SEAdLINNNG。高橋奈七永との闘い
中島は2012年の再デビュー後、JWP認定無差別級王座、CMLL-REINAインターナショナル王座やJWP認定タッグ王座&デイリースポーツ認定女子タッグ王座を保持し2016年までJWPの絶対エースとして屋台骨を支えた。だが2016年12月28日、後楽園大会を最後に中島はJWPを離れる。
「根拠のない自信で戦っていくのに限界を感じていました。そういった思いを打開したくて高橋奈七永と戦いたかった。彼女は女子プロレス最強のレスラーです。でもJWPに頼んでも試合を組んでもらえない。戦わせてもらえないってことは、『私が勝つ可能性が低いから、カードを組んでもらえないんだ』と。とにかく、いろいろ考えました。やっぱりここを埋めないといけないなと…」
2017年1月26日、SEAdLINNNG後楽園大会。中島安里紗が土下座までしてこぎつけた、念願の高橋奈七永とのシングルマッチがおこなわれた。
「やっぱり高橋奈七永は強かった。試合は敗れてしまいましたが、私がやりたいプロレスはここにあるし、学びたいものがSEAdLINNNGにあると感じた。だから直談判して入団しました」
2018年11月1日、後楽園大会。優勝者がBEYOND THE SEA Single王座を戴冠する初代シングル王座決定トーナメント決勝戦で中島は高橋に敗れた。しかし、同年12月笹村あやめをタッグパートナーに「BEYOND THE SEA Tag TEAM王座」を獲得。だが中島は、先が見えない状況に人知れず涙を流していた。
「SEAdLINNNGに入ってから、2年ぐらい本当にしんどくて、いつも練習で泣いていました。とにかく全然練習についていけない。できないことが多くて…、『できない』って言葉にすると、怒られた。SEAdLINNNGに入って試合や練習内容が変わり、1から学び直すことがとても多かった。JWPが悪いとかではなくて、やることが団体によって違うのは理解していました。ここに来たからには1からやり直したい気持ちがあったけど…ほんとにしんどかったんです」
涙の後には笑顔が訪れる。中島は2019年9月18日、後楽園で第2代BEYOND THE SEA Single王座を保持する彩羽匠(マーベラス)に勝利し王者に。SEAdLINNNGに入団し、約3年が経過。中島が渇望したものは、SEAdLINNNGで手に入れることができたのか?
「2018年7月にタッグのベルトが設立、2018年11月にシングルのベルトもできた。でも初代のシングル王座決定トーナメントでも、高橋奈七永に勝てなくて…。初めてシングルベルトを戴冠した時の王者が彩羽匠。2019年9月、やっと気持ちがついてきましたね。『強い』とか『自信がある』とか口で言うのは簡単だけど、本心から思えるかどうかは、また別だと思うんです」
2019年11月2日、中島の保持するBEYOND THE SEA Single王座の2度目の防衛戦の相手に名乗りをあげたのが高橋奈七永。この大会はベルトだけではなく負けた方が髪の毛を切る「BEYOND THE SEA Single&敗者髪切り戦」としておこなわれた。試合は王者の中島が高橋からシングル初勝利、念願の高橋越えを果たした。
同じ志を持った元WWE・Sareeeの帰国。「戦いがあってのプロレス」
2023年3月、世界最大のプロレス団体・WWEを契約満了で退団し、日本での活動再開を発表したSareee。彼女はSEAdLINNNGに2017年3〜9月に所属、またコロナ禍の渡航制限により渡米が不可能になった時、SEAdLINNNGで活躍した。Sareeeは5月16日新宿FACE「Sareee-ISM」でセンダイガールズの橋本千紘と対戦。その試合を間近で見ていた中島は何を感じたのだろうか?
「もちろんSareeeと戦いたいですね。日本で最後に戦ったのもSEAdLINNNGだし、このリングに戻ってきてほしい。試合後Sareeeは欠場中の世志琥に、『世志琥が戻ってくるリングは私がきっちり守っておく。だから、必ず戻ってこいよ』と世志琥の名前を出してくれた。そういう思いが、私は嬉しい。Sareeeが『なぜ日本のリングでまた戦うのか?』って言う理由が、私たちSEAdLINNNGが言ってることと一緒なんです。やっぱりプロレスは戦いがないといけないし、強さがないといけない。エンターテイメントだけのプロレスだったら意味はない。私たちがやりたいのは、エンタメだけではなく、『戦いがあってのプロレスだ』と思っている。Sareeeとは目指している方向が一緒、だからSareeeはSEAdLINNNGでリングに上がるのが一番輝けるんじゃないかと思います」
SEAdLINNNG生え抜きメンバー海樹リコの存在
2023年4月30日、後楽園でBEYOND THE SEA tag王座 次期挑戦者チーム決定戦が行われ、中島は彩羽匠(マーベラス)と組み、海樹リコ&笹村あやめ(2AW)と対戦。敗れはしたものの、後輩リコの成長を肌で感じた。リコは2019年4月にSEAdLINNNGに入門、2020年7月13日後楽園大会、藤本つかさ戦でデビューした生え抜きの選手だ。
「リコがデビューしてから、私の気持ちが大きく変わりました。彼女は学生時代に『高橋奈七永vs中島安里紗戦』を観て、私に憧れてSEAdLINNNGに入門してくれた。私がデビュー前から一人の選手をずっとそばで見て指導するのは、あまりないんです。ですからリコには他の選手と全然思い入れが違います。もちろん厳しくもなりますけど(苦笑)。ここ数ヶ月のリコの成長が本当にすごい。今年の7月でデビュー3年。私がデビュー3年の時は、全然しょぼかった。昔のプロレスは、『気合と根性』だけだったじゃないですか?リコは、そこに技術がプラスされている。すごく成長してますね」
SEAdLINNNGのエース、そしてプロレスラーとしての目標
デビューして17年、第9代BEYOND THE SEA Single王者に君臨する中島に今後の目標を聞いてみた。
「SEAdLINNNGのエースとして団体を大きくしたいし、人も増やしたい。やっぱりプロレスは1人じゃできないので。私たちは『強さや戦いが大事だ』と思っている。その考えに賛同して参加してくれる他団体の選手やフリーの選手がいてくれるから、そういう戦いができているけど、SEAdLINNNGのメンバーだけじゃできないこともある。だから一番はSEAdLINNNGの中で、同じ志を持った選手を増やしていきたい。それが団体プロレスのいいところだと思う。他団体やフリーの選手に頼るんじゃなくて、自分たちでできるようにという思いはあります。ただ急に増やせるものじゃない。だから地道に一歩一歩進めていきます」
団体を引っ張るエースとしてしっかりと未来を見据えている。ところで、レスラー「中島安里紗」として戦いたい相手はいるのだろうか。
「このキャリアまで来ると戦いたい相手が思い出マッチみたいになっちゃうんですよ。もちろん若手時代の先輩と戦いたいと思うけど、SEAdLINNNGのことを考えると『意味のある戦い』であるべきだと思う。自分のキャリアを考えると圧倒的に先輩より若い選手の方が多いじゃないですか。だから、まだ戦ったことない人もいっぱいいるので、新しい選手と戦いたい。新鮮なことをやりたいですね。そういう意味ではWWEを経験し、いろんなものを吸収したSareeeと戦いたいです」
6.28新宿FACEで中島は青木いつ希(ショーンキャプチャー)とBEYOND THE SEA Single王座を賭けたタイトルマッチをおこない、20分以上の激戦の末、3度目の防衛に成功した。
そして試合後、中島が対戦を熱望するSareeeがリングに登場。中島は「8月のSEAdLINNNG8周年、後楽園大会。そこでこのベルトを懸けて戦いたい」とSareeeとの対戦を要求。
対するSareeeも「受けて立ちます。そのベルト、私が巻いて、もっともっと輝かせてあげますよ」と承諾。これで8.25後楽園ホールでのタイトルマッチが決まった。ただSareeeはWWE渡米前の日本最終戦で世志琥と組み、高橋奈七永&中島安里紗と対戦し敗れている。2年半ぶり両者の対戦は日本だけでなく世界中のプロレスファンが注目する闘いになるだろう。
団体のエースとしてSEAdLINNNGを支え、戦いと強さを追い求めるレスラー中島安里紗。同じ志を持つライバルとの戦いを求め、彼女の航海はまだまだ続く。
(おわり)