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野球をする、見る、楽しむ人を増やすために、ユニークな取り組みを続けるNPO法人「北摂ベースボールアカデミー」

野球の競技人口、愛好者が減少の一途をたどる中、大阪府北部の北摂エリアで、子供から大人までに「野球の楽しさ」を伝える取り組みを続けているのがNPO法人「北摂ベースボールアカデミー」だ。

理事長の植松剛史氏は、筑波大体育専門学群、同大学院体育研究科でスポーツ経営学を学ぶ。その後千葉県、大阪府での小学校教諭経験を経て2019年にNPO法人を立ち上げた。

親子野球イベントからスタート

「当初は、親子野球イベントを実施しました。近隣の未就学児や小学校低学年の子供を対象に、ウレタンボールを使った『取る、投げる』『打つ』、さらには『試合』を体験する。子供だけでなく付き添いの大人たちも一緒に参加して、親子ともどもで『野球の楽しさ』を体感してもらいました。合わせて、豊中市の千里北町で定期的な初心者のための野球教室を行いました」

こうした初心者の子供向けの教室は、これまでもなくはなかった。少年野球チームなどがイベントとして行うことがあった。しかし、そうした教室は指導者が子供を整列させて、挨拶の仕方を教え、ランニングをさせたり「大人たちが考える野球」を子供に教えるような指導が多かった。

「北摂ベースボールアカデミー」は、遊んでいるうちに自然と野球が好きになるようなコンテンツにした。

また道具はすべてアカデミー側が用意をした。子供たちは水筒などを持参するだけだ。

また、従来の少年野球チームでは付き添いの母親が水分補給などの準備をしたり、指導者の食事の用意をすることも多かった。いわゆる「お茶当番」だ。

しかしこのアカデミーでは、付き添いの親の負担はほとんどない。そういう形で野球への敷居を低くしているのだ。さらに、野球教室だけでなく、野球場開放も行っていた。

2020年の教室での植松理事長

お母さん向けの野球スクールも

「2019年に、週1回の活動から始めた野球教室ですが、3年ほど経ったら、30人ほど集まりました。そこで教室も3ヶ所に増やして、今は60名ほどになっています」

植松氏がユニークなのは、子どもたちだけでなく、付き添いできたお母さんも普及の対象と見なしたことだ。

「付き添いに来たお母さんと話していると、野球をやるのも楽しそうだな、と言う声があったので女性向けの野球スクールをやってみようかと思って、始めました。毎回、5~6人から十数人くらいですが、キャッチボールは軟球を使って、バッティングはテニスボールでやっています。これも割と評判が良くて、さらに大人の男性向けの野球イベントも始めました。大人の男性が本格的に野球をするとなると、草野球チームに入って、土日は決められた日程で練習や試合に出場したり、ちょっと大変になります。そういうのではなくて、大人向けに個人参加の野球イベントを実施したんです」

お母さん向けの野球スクール

大人の男性向けの野球イベントも始まる

大人向けの野球イベントでは、「北摂ベースボールアカデミー」が球場の枠を2時間予約しSNSなどで告知をする。参加資格は特に問わない。参加するか参加しないかは、自分で決めて、参加しないのなら連絡も不要。その日に集まったメンバーで、キャッチボールをして、バッティングもして、最後は少し試合もする。

本格的に野球をするのはハードルが高いが、子供のころに戻って「野球遊びをしたい」という大人は結構多い。そういうニーズに対応したイベントで、今では募集すれば20~30人が集まるという。

「豊中ローズ球場など本格的な球場を予約することができれば、参加者を2チームに分けて、スコアボードに名前を掲示して、本格的な試合形式にします。10年ぶりに野球をしたとか、久しぶりにやったら、やっぱり楽しかった。とか感想を貰います。半分以上の人がリピーターになっている印象ですね。

子どもに付き添ってきた親が、女性のスクールや大人のイベントに参加することも増えています。北摂の狭い地域でやっているので、人間関係で繋がりやすいという特色はありますね」

こうした取り組みは、ボランティアではなく、参加費を徴収している。初心者のための野球教室は月6000円程度、大人の野球イベントは一回1000円程度。良い球場を使うときは2500円。その中で大会の運営費を賄ったうえで、NPB法人の人件費も出している。こうした取り組みを永続させるためには、ビジネス感覚も必要なのだ。

大人の男性向けの野球イベント

スポーツ庁の「Sport in Lifeアワード」を受賞

気軽に市民がスポーツに参加し、楽しめる環境を作る取り組みが評価されてNPO法人「北摂ベースボールアカデミー」は、2022年2月、スポーツ庁の第一回「Sport in Lifeアワード」を受賞した。

スポーツ庁の公式サイトには

「既存の野球チームに参加するのが難しい子ども・大人・女性にスポットを当て、誰でも参加しやすい野球環境を創出した。週末の長時間練習に参加するのが難しい初心者の子どもを対象に平日90分の野球教室を開催したところ、2年半で累計1,376名が参加し、キャンセル待ちが発生するほど盛況だった。他にも大人が気軽に参加できる個人参加型野球イベントや女性のための野球スクールを実施し、好評を博した。」

と授賞理由が記されている。

植松氏には夢がある。

この地域で「独立リーグ」を立ち上げることだ。地域の人たちが、自分の街の野球チームを応援する。豊中市と茨木市、吹田市など近隣の市町村が球団をもって、リーグ戦を行う。それを市民が盛り立てるというビジネスモデルだ。

植松剛史氏

「第1回新千里野球まつり」の開催

子どもや市民参加の野球イベントも「独立リーグ」の夢につながる道ではあるが、12月に行われる「第1回新千里野球まつり」は、さらに進化したイベントだ。

「今までは、野球をやる人向けの取り組みをしてきましたが、これからは野球を気軽に見る、楽しむ、イベントにチャレンジしたいなと思いまして。

プロ野球は、コアなファンが増えているようですが、野球を見ない人は全然見なくなりました。テレビでもやらなくなりましたし。

でも、野球の試合って見れば本当に楽しいので、自分の町のチームを応援するというのは、野球を見る動機づけになるのではないかと思います。

試合をするのは、豊中市新千里の東町、西町、北町、南町の野球チームです。自分たちの町のチームを応援して楽しむというイベントを作ってみてはどうかと思っています。

球場周辺には、スペースがあるのでキッチンカーを出したり、スポーツ体験イベントもしようと思っています」

開催は12月3日(日)と17日(日)。3日に4チーム対抗戦から決勝までを行い、17日はエキシビションマッチをする予定だ(3日雨天の場合は17日に対抗戦、決戦)。また17日には元阪神タイガース投手の鶴直人さんの参加が決まった。鶴さんが、新千里のチームに混じって、野球をするという。これも大きな話題になりそうだ。

豊中市に申請をして、令和5年度豊中市魅力アップ助成事業にも認定された。またFM千里が後援し、地元企業や医療機関などのスポンサードも獲得した。

第1回新千里野球まつりポスター

野球普及活動のモデルケースに

NPO法人「北摂ベースボールアカデミー」の事業の特長は、1.収益性をしっかり考える、2.地域に徹底的に密着する、3.ハードルを下げる

の3点だと言えるだろう。

事業を継続させるために、収益を常に考える。損益分岐点を高くする必要はないが、法人として健全な財政をキープするために、行政の助成を申請したり、スポンサードを受けたりする。

そして、大きなエリアを相手にするのではなく「顔が見える範囲」の人々をターゲットとし、野球を通じたコミュニティづくりを考える。

さらに、誰でも参加できるように、野球のスキルは一切問わない。また会員制にするなど参加者を縛る制度も作らない。あくまで「野球を楽しむ」ことに徹している。

「野球離れが深刻化」する中、大きな予算を背景にした大々的な普及活動も大事だが、こうした「等身大のアプローチ」が、全国で小さな成果を創っていくことも重要ではないか。

「北摂ベースボールアカデミー」の取り組みは、モデルケースとして重要ではないかと思う。

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