アメフト・アサヒ飲料クラブチャレンジャーズが誇る3本の矢
アサヒ飲料クラブチャレンジャーズ(以下チャレンジャーズ)の3選手がアメフト界で大きな話題。
QBギャレット・サフロン、WRブギー・ナイト、DBトレヴァーン・クレイグ。
彼らは大きな夢と野望を抱いて尼崎でのプレーを続けている。
~ゲームメイク(状況判断)、クイックネス(速さ)、フィジカル(強さ)
チャレンジャーズはX1SUPER(1部)昇格2年目を戦っている。リーグ優勝という頂までは険しい道のりが続くが着実に歩みを進めている。攻守の中心となってチームを牽引しているのが米国籍の3選手だ。
QBギャレット・サフロン(以下ギャレット)は来日5年目、31歳のシーズン。カリフォルニア州立大学サクラメント校から欧州リーグを経てX1AREA(2部)時代の19年に来日した。チームの1部昇格に貢献した後も、司令塔として欠かせない存在でい続けている。
「QBは攻撃時の全プレーの起点となるので試合を作る能力が必要。自分の強みはパスの精度ですが、仮にプレーが崩れた時でも自分の脚でゲインできます。パス、ラン、双方を武器に得点を重ねたい。来日時と比べても年々、リーグのレベルは上がっているので常に進化を目指しています」
得点源となっているのが24歳のWRブギー・ナイト(以下ブギー)。米国ではアクロン大とルイジアナ大モンロー校でプレー、レシーバー兼キックリターナーとしてプロ注目選手だった。NFLドラフトにかからず来日を決意、第2節の電通キャタピラーズ戦では3タッチダウンを挙げてレベルの違いを見せつけた。
「クイックネス(素早さ)を活かしたオープンになるためのルート取り、捕球してから相手のタックルを外すことが得意です。来日前からXリーグのレベルの高さは知っていましたが予想よりも遥かに高かった。日本人選手はプレー理解度が高くスマートにプレーしています」
DBトレヴァーン・クレイグ(以下トレヴァーン)は守備の要となっている。グリーンフィールド高(ミルウォーキー)時代にレスリング114勝を挙げ、セントラル・オクラホマ大ではアメフトとの二刀流で大活躍。日本人選手と大きく異なる身体能力の高さは一見の価値ありだ。
「強みはフィジカル(身体の強さ)とプレー理解度の高さです。Xリーグのレベルの高さは私の想像を超えていました。『うまい選手は何人かいるだろう』とは思っていましたが素晴らしい選手がすごく多い。身体と頭をフル回転させチームのために常に全力を発揮しようと思います」
~チームへの献身性とプロ意識の高さ
チャレンジャーズはクラブチームのため、日本人選手には基本的に選手給与等は発生しない(遠方在住選手の移動交通費を除く)。一方で外国人選手は実質のプロ形態であり、限られた予算内で獲得へのリクルートも行う。外国人選手獲得に関し最終判断を下すのが代表兼GMの鍜次茂氏だ。
「スカウト、リクルートをお願いしている現地(米国)の方に情報収集をしてもらい、まずは映像で確認する。コロナ禍以前は実際に現地へ足を運んでプレーを見たり面接もしました。今は現地へ行けませんが、リモート等での面接重視の方針は変わりません」
「映像では良いプレーが中心になる。身体能力や技術は日本人より優れている選手ばかりなので映像は参考程度にしています。それ以上にハートや考え方、人間性を知るためにしっかりと面接します。チームの勝利に尽くす、献身性がない選手は絶対に獲得しません」
外国人選手のサポートは米国留学経験があり自身もアメフト選手だった副代表・川口陽生氏が担う。フィールド内外で多くの時間を共にして、各自プレーしやすい環境作りを行なっている。
「3人共めっちゃナイスガイ。5年目のギャレットはもはや日本人(笑)、1人で何でもできる。トレヴァーンも日本を好きになったようで、先日はお兄さんを呼んで2人で京都旅行していた。トレヴァーンは来日当初から日本語のスラングを覚えたりして溶け込むのが本当に早かったです」
「アメフトに関しては真剣そのもので常に勝利を目指している。シーズンに入るとお酒を一滴も口にしないなど、プロ意識が高い。試合に負けた日の帰りの車内は一言も口を聞かないほどです。プレー以外の部分でもチームに与える影響力は大きい、本当に素晴らしい選手たちです」
~フィジカル、米国人コーチ、ミスをゼロにする
ゲームでの勝利のみを追い求め、目指すは日本一だ。しかし現在のXリーグには富士通、パナソニック、オービックの3強が存在する。豊富な資金力を持ち選手層の厚さも他の追随を許さないため、リーグ内のチーム間格差も広がりつつある。チャレンジャーズがそこへ食い込むために必要なことを聞いてみた。
「オフェンスライン、ディフェンスラインです。選手の多くが仕事との両立、デュアルキャリアでプレーしています。特に体格を維持することことが求められるライン選手たちの苦労は計り知れません。だからこそラインのレベルアップがチーム力の差を縮めることに直結すると感じます」(ギャレット)
「リソース(資源)の差は大きい。ハード(設備や環境)、ソフト(選手など)の両方でチームの年間予算差を感じる。その差を埋めるためにも、可能ならば米国人コーチ招聘ができれば変化が生まれるのではと思う。少しのスパイスを加えることで飛躍的進化ができるはずです」(ブギー)
「最大の違いは選手層の厚さ。2番手、3番手の選手が出場しても結果を出す。個性を活かした多彩な攻撃、守備ができる。でも勝てる可能性はあると感じています。そのためには1試合を通してミスをゼロにする。そしてフィジカルを強化する。この2つが絶対条件です」(トレヴァーン)
現時点で「3強との実力差はある」と言わざるを得ない。しかし3人の中で明確がイメージできていることからも、可能性が確実に存在することは間違いない。
~尼崎はクレイジーでフレンドリーなホームタウン
異国の地でのプレーだけでも尊敬に値するが、現在の活動拠点が兵庫県尼崎市であることも特筆すべき部分。2020年10月に包括連携協定を結んだチャレンジャーズの実質的本拠地は「日本でも屈指のディープな町」とも言われている。
「尼崎は私のホームタウンなので、とても快適。チーム施設、ジムも近く、なんといっても阪神電車の特急が止まる駅があるのが最高(笑)。伝統的、文化的でクレイジーな町だけど、みんなフレンドリーでご飯も美味しい。最初はカルチャーショックもあったけど今は最高な場所になった」(ギャレット)
「とても快適に過ごしています。大阪や神戸に程近い立地で本当に便利な場所なのに、物価が他都市に比べ安いことも魅力的。来日前は日本について多くの知識や情報はなかったのですが、初めて住んだ町が尼崎で良かったと思います」(ブギー)
「尼崎が大好き。町はそこそこに大きくて便利ですが、大阪ほど混雑はしていない。大阪や神戸へのアクセスも良いので、とても住みやすい。何といってもユニークです(笑)。昼間から酔っ払ったり派手な人がたくさんいます」(トレヴァーン)
尼崎は3人にとって好奇心を満たしてくれる絶好の場所になっているようだ。気分転換をスムーズに行えることが、グラウンド内でのパフォーマンス向上にプラスに作用している。
「自身が培ってきたアメフト文化、経験をチームで共有して何かを残せれば嬉しい。頑張り続けて日本でキャリアを終えたいです」(ギャレット)
「日本でのプレーをとても楽しんでいます。このような機会を得ることができて本当に光栄、結果を残して長くプレーしたいです」(ブギー)
「チャレンジャーズにはインスタグラムのDMでアピールをして入団することができました。この素敵な機会を必ず活かしていきたい」(トレヴァーン)
どの競技でも外国人選手の扱いに苦労するチームは少なくない。期待にそぐわない活躍に終わったり悪影響を及ぼすケースもある。しかし3人からは「日本でのアメフト人生を大事にしたい」という思いが強く伝わる。チームのことを思い、日本を好きになった彼らの影響力は今後も増えるはずだ。
チャレンジャーズは今季最終節のノジマ相模原ライツ戦に「16-29」敗れたことで、惜しくもプレーオフ進出を逃してしまった。屈辱の敗戦となったが選手たちは来季を見据え動き始めている。歩みを止めないチャレンジャーズがXリーグの勢力図を変えることに大きく期待したい。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・アサヒ飲料クラブチャレンジャーズ)