「これからも福島のために」福島レッドホープス・岩村明憲監督
ルートインBCリーグ(以下BC)・福島レッドホープスの岩村明憲監督が今季限りで退任する。来季から総監督兼球団会長と立場は変わるが、球団と福島への思いは変わらない。
「監督を退いても絶対に投げ出さないですよ」と岩村監督は言葉を強める。
2015年に監督兼選手として福島へ加入、現役引退後は監督に専任してチームを率いてきた。
「四国・愛媛出身で福島とは何の繋がりもなかった。でも、縁があって福島へきて、さまざまなことを経験できている。僕にとっては大事な場所です。この球団に自分ができることは精一杯やります」
兼任時代を含め監督10年目を迎えた今季だったが、ここまでリーグ7チーム中の6位と低迷している。ひとつの区切りとして1度現場を離れ、球団経営等に専念することにした。後任には沖泰司総合コーチが就任する。
~言い訳して甘える選手は取り残される
「BCはNPBの選手になるための育成段階だと思います。そのためにも量をこなして基本技術を身につける時期です」
8月7日、埼玉武蔵ヒートベアーズ戦(上尾)の試合前練習を見ながら説明してくれた。
「猛暑で屋外が殺人級に暑いから練習の量をこなせないというのもわかります。でも、考えて工夫すればできるはず。こまめに休憩を入れながら短時間に集中するとか…。上手くなるためには練習しかない」
「NPBへ本気で行きたい選手は、どのような環境下でも言い訳しないで必死でやる。少しずつでも上達して気付いた時には差ができている。BCや他の独立リーグからNPBへ行っているのはそういう選手です」
「暑いのは当然なのに言い訳して甘えてしまう選手が多い」と分析する。また仮にNPBへ入団できた後も同様だと続ける。
「取り組み方次第で大きな差がつく。NPBの施設は冷暖房完備のところも多いので、やる気のある選手はどんな時も量と質を追求できる。何かにつけて言い訳する癖がある選手は取り残されてしまいます」
選手たちには、「体を動かした方が良いんじゃないの?」と常に話かけているというが。
~全てを犠牲にして競技へ打ち込む覚悟
岩村監督は1996年ドラフト2位でヤクルトへ入団。2007年からはMLBのレイズ等でプレー、2011年に帰国後は楽天、ヤクルトを経て福島へ加入した。主に三塁手として活躍、NPBでベストナイン2回、ゴールデングラブ賞6度を獲得の名手だった。
「アスリートとしてやれることは何でもやってきた」と現役時代を振り返る。だからこそ選手たちの野球に取り組む姿勢について思うことは多い。
「個人的な意見ですが、パリ五輪での柔道・阿部詩選手の号泣は理解できる。やることを徹底的にやったからの涙だったと思う。本気で競技に取り組む人なら、(阿部の涙は)伝わるものがあったのではないか」
「(阿部のように)号泣するくらい悔しい思いをするだけ練習をしているのか? 柔道としての礼儀作法を言う人の意見もわかります。でもアスリートとしては、勝てなかった悔しさに共感できます」
「お前らはどうなのか、と福島の選手に問いかけました。プロ野球選手になるため、全てを犠牲にして打ち込んでいるのか? そこまでの覚悟ができているのか?」
NPB入りを目標に必死になっている選手もいるが、「もっとできるはず」と感じてしまう方が多い。
~「上達する」という共通認識を信じる
自身が現役時代だった頃と状況は変化している。選手への熱心な指導が悪い捉え方をされ「パワハラ」と言われかねない。
「人には平等に1日24時間が与えられている。そこは福島の選手も大谷翔平(ドジャース)も同じ。どう使うか、が重要なので、『やらせる』ことが大事になる時もあります。そこは時代が変わっても同じだと思います」
「プロは上手くなって結果を出すことが必要なので、我々も選手に対して言う時もある。でも、その時には伝え方を間違えないように気を配ります。ただ、『上達する』という共通認識はあるはずなので大きな隔たりはないと思います」
「関係ない立場なら何も言わない。でも監督なので言わざるを得ない」と付け加える。
「向上心を持っている人は苦労を苦労と思わない。努力を努力と言わない。スポーツだけでなく何でもそうだと思います。選手たちがそこに気付いてくれれば、もっと上達すると思う」
「現役時代は自分自身の技術向上を考えれば良いので楽だった…」と苦笑いする。
~セカンドキャリア等、グラウンド外の充実を図る
「これまでは監督と経営者の二足の草鞋。これからは経営者が主になるので、さらに球団のことを考えないといけない」と今後についての思いを述べる。
「選手を集めるのが最も重要で難しい。都会球団と違い、野球人口が少ない場所の球団なので集まりにくい。福島県内に野球強豪校もありますが、上で続けたい選手は福島ではなく他のチームを目指しますから」
「福島でやりたい、と自ら来てくれた選手が増えて育ってくれるのが理想。そのためにはセカンドキャリアの充実など、グラウンド外のことも必要になると思います」
好素材が集まりにくい現状がある。「関わった選手が魅力を感じる球団にしていきたい」と続ける。
「引退後に困らないような道を球団主導で作ることも考えています。そのために礼儀や一般常識を備えることで、福島で野球をやっていることが評価されるようにもなりたい。体力はあるはずなので、それ以外の部分も身につけて欲しいです」
「25歳で現役引退して社会へ出た場合、その時点で通常の大卒の人は4年間の社会経験を積んでいます。当然、そこには大きな差が生まれています。福島球団へ在籍中から、その部分を少しでも埋められるようにしたいです」
「僕も若い時はそんなこと全く考えていなかったけど、今は頭も下げられるようになりましたから」と社会性の必要を説く。
~少しでも喜んでもらうことが福島球団の存在価値
「復興という目的があります」と球団の最大ミッションを忘れたことは1日もない。
「2011年の震災から13年経っていますが、復興はまだまだ先です。野球を通じてできることがあれば小さなことでも何でもやりたい。そのために福島球団はあると思います。できることからひとつずつ、少しでもやっていきたい」
「選手の良いプレーが1つでも見られる。チームが試合に勝つ瞬間に立ち会える。興行が盛り上がって楽しい時間を過ごせる。何か1つでも喜んでもらえれば、球団が存在する意味がある。規模は小さくても、福島にある地元のチームができることはあるはずです」
「福島に初めて来た時の気持ちを忘れていない。やってやろうしかないし、その気持ちは全く衰えていないです」
福島へ来て10年が経った。「勝利」という結果は少なかったかもしれないが、球団は地元に確実に根付きつつある。現場の第一線を離れることになっても、岩村監督の存在感はこれからまだまだ必要だ。ここから先、福島レッドホープスの更なる歩みに期待をしたい。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・福島レッドホープス)