トリニータは「文化」~大分トリニータ・下平隆宏監督~
7月1日から始まる大分トリニータのクラウドファンディング企画「All Blue Project」。今回のクラウドファンディングでは、トリニータのJ1復帰に向けた支援が主な目的となっている。
過去のクラウドファンディングでは全て目標額を達成した事実から、大分トリニータのサポーターとチームそしてファンとの間に存在する、絆の強さを想像することは難しくない。
今回は大分トリニータの下平隆宏監督に、スタジアムで戦っているからこそ感じている、大分トリニータのサポーターに対する思いなどをインタビューすることができた。
サポーターの熱意と親しみやすさ
下平監督は、大分の監督に就任される前に、柏レイソルや横浜FCで監督をされていました。その頃に持っていた大分トリニータのサポーターのイメージは、どのようなものでしたか。
下平監督「前任のチームで何度か大分トリニータとも戦ったことがあったので、サポーターの方がスタジアムでどのような様子なのか、ある程度は把握していました。
でも、昨年の天皇杯で決勝と準決勝のトリニータの戦いを現場で見た時、特に決勝戦でトリニータのサポーターが1万人以上も集まっていたことに驚きましたし、そのサポーターの熱量も非常に高かったことが印象的だったんです。
トリニータサポーターの熱量の高さは、実際に私が大分に来てからも強く感じています。例えば、毎回ゲームの前後に私達がバスで試合会場に出入りする時には、本当にたくさんのサポーターの方が私達が来るのを待ってくださっています。でも、試合後に私達がスタジアムを出てバスに乗るのは、試合終了から1時間ほどが経過した頃なんです。そのような時でも、トリニータのサポーターの方はいつも私達のバスがスタジアムを出るまで会場の外で待っていてくださるんですね。あれは本当に心にしみます。
新型コロナウイルスの影響で、選手をはじめ私のような現場に立つ人間がサポーターの方と直接に触れ合う機会はほとんどなくなってしまいました。そのため、サポーターの方のお顔を一人ひとり憶えられないのが残念です。でも、試合前にバスが会場に入ると、いつもバスに向かって走ってきて声援をくださる女性ファンの方がいて、その方のことは私もよく憶えています。」
大分の町の中を監督が歩いている時など、地元の方から声をかけられることも多いのでしょうか。
下平監督「はい、かなりの確率で声をかけられます。特にご年配の方に『トリニータの監督さんですね』とお声をかけていただくことが多いですね。皆さんトリニータのことを本当に見てくださっているんだな、と日々感じています。
こちらで放送されるTV番組で取り上げていただける機会も頻繁にありますし、やはり話題にしていただけると嬉しいですね。
そうした機会があるたびに、大分の方はトリニータを大分のシンボルのように思ってくださっているんだなと感じます。また、トリニータが大分の『文化』になっているんだな、ということもとても強く実感しますね。」
とはいえ、新型コロナウイルスの影響で、無観客試合の時期もありましたし、サポーターの方が声を出して応援できない時期もありました。監督もやはりいつもとは異なる感覚でゲームをされていたのでしょうか。
下平監督「サポーターの方がいないと、ゲームをしていても、なんとなく練習試合のような感覚になってしまうんです。だから、今はスタジアムのスタンドにサポーターの方がいらっしゃるのを見ると、本当にやる気になりますね。」
大分トリニータの選手が「サポーターがいると、アドレナリンの量が一気に増える」と話しているのを聞いたことがありますが、監督も同じ気持ちでいらっしゃるのでしょうか。
下平監督「はい、その通りです。スタジアムに来てくださるサポーターの数が多ければ多いほど、アドレナリンの量が増えます(笑)。」
後半戦の戦いと一体感を持つことの重要性
現在、トリニータは少々厳しい戦いを強いられているように見受けられます。そろそろ今季も後半戦が始まりますが、J1復帰という目標に向けて、これからどのような戦い方をしたいと、監督は考えられているのでしょうか。
下平監督「来季のJ1復帰という目標のためには、自分(下平監督)がやりたいスタイルのサッカーをすることよりも、トリニータがゲームで勝つサッカーをすることの方が優先順位は高くなります。
特に後半戦は勝ち点3を積み重ねることがまず大事になってくるので、そのためのサッカーをすることが最優先になりますね。」
現状のような苦しい状況の中で、監督は日頃どのようなことを選手の皆さんにお話されているのでしょうか。
下平監督「サッカーはチームスポーツでありチームで一体感を持って戦うことが重要だと伝えています。
一体感を持って戦えるチームは強いですし、そういうチームの方が魅力的で何より応援している方々の心を動かせると思います。その一体感を出すために、選手、スタッフ、みんなが同じ目標に向かい、目標達成のためにコミュニケーションを取っていくことが大切だと伝えています。
本気でぶつかり合いお互いが高め合える関係であればあるほど、より強固な組織、チームになっていくと思います。
日々のトレーニングからコミュニケーションを取ることの重要性を説き、少しずつですが良い反応も出てきているので、組織としての変化も感じられるようになってきました。選手の意識が高まることで、それが今後の結果にも現れてくると思いますし、何より、ファン、サポーターも巻き込んで、スタジアム全体で一体感を持って戦い、勝つことができたら最高ですね。」
『大分トリニータをサポートしてよかった』と思っていただけるように
今回、実施するクラウドファンディングに関して、参加しようかどうしようか考えているサポーターやファンも少なくないと思います。そうした方々に、監督からメッセージをいただけますでしょうか。
下平監督「実は昨年のクラウドファンディングでご支援いただいた金額を聞いた時、その大きさに驚愕しました。そして、大分トリニータのサポーターのチーム・クラブへの熱意の強さを、本当に強く感じました。
今回のクラウドファンディングでも、ご支援いただいた皆様に『トリニータをサポートしてよかった』と思っていただけるように、この後半戦の試合で結果を出していきます。
また、ここ数年新型コロナウイルスの影響で、現場とサポーターとの交流の場が減っています。そうした中、クラウドファンディングは現場とサポーターとの交流の場にもなっているんです。私もクラウドファンディングを通じて、サポーターの皆様の生の声を聞く機会を持てたら嬉しいです。」
大分トリニータを「文化」と表現している下平監督。その背景にはチームとクラブを支えるサポーターやファンの温かさと熱意がある。
その温かさと熱意に「勝利」そして「J1復帰」という最高の形で応えるため、大分トリニータの戦いは続く。
(インタビュー・文 對馬由佳理)
(写真提供 大分トリニータ)